高校編2~オーケストラを体験して~
吹奏楽部に入ってから本格的にクラシックを知り、好きになっていった私。オーケストラに興味を持つのも、時間の問題であった。
気が早いが、大学に入ったらオーケストラに挑戦するか、それとも吹奏楽を続けるか迷っていた。前回は何だかんだ言っていたが、私は吹奏楽だって好きなのである。ポップスではエレキベースでびんびん出来るし。
クラシックを演奏するなら、オーケストラで弾きたい。でも、オケではコントラバスがいっぱいいるから、合わせるのが大変そうだし、窮屈ではないか。それなら、吹奏楽部でコントラバス一人で、自由気ままに弾いたり、ベースを楽しんだりした方がいいのか。
そんな迷いを密かに抱えたまま吹奏楽部を引退。そして六月。再び転機が訪れる。
「琴子。今度何とか交響楽団の定期演奏会でワークショップやるんだけど、出ない?」
ある日突然、元吹奏楽部メンバーの友達に誘われたのである。私は非常に驚いた。
実は数日前、何とか交響楽団の定期演奏会のチラシを見ていた。チラシには、ワークショップとして、定期演奏会に出演してくれる高校生までの子供を募集していたのだ。出たいと思ったが、チラシを見た日は定期演奏会の二週間前だったので、「もう間に合わないだろうなぁ」と諦めていたのである。
だが、思ったよりも参加する人が少なかったため、今でも募集していたそうだ。私は即OKを出した。めったにない機会だ。それに、私はコントラバス弾きで、クラシック好き。オケで弾かせてくれるこの機会を断る理由は無かった。
そして、短い期間で曲をさらう。思ったよりも譜面が難しくて驚いたが、同時にやりがいも感じた。こんなにやりがいを感じたのは、ルパン三世のテーマでベースを弾いた時以来だった。
団員の方達も優しくしてくれた。今までは一人〜三人で細々弾いてきたので、七人もいるというのは最初戸惑ったが、次第に慣れてきた。同じ楽器のメンバーが多くいるというのがどんなに楽しく心強い事か、引退してから分かったのである。
本番は、譜面が難しい&練習時間が少なかったので、満足に弾けたものではなかった。しかし、楽しかった。
弦楽器がコントラバスの前にいる驚き、そしてコントラバスが低音の主役(だと、私は思っている)という快感と責任感。音程、ボーイングに気を使うという事。このワークショップから、私は多くの事を学んだ。
オケを体験した時点で、私の気持ちはオケに傾きかけていたが、この曲を聞いて、私は完全に「大学行ったらオケに入ろう」と思った。
チャイコフスキー作曲 交響曲第六番「悲愴」。私が初めて聴いた交響曲である。何とか交響楽団の定期演奏会のメイン曲だった。
交響曲は長い。40分以上はかかる。私は、40分ずっと聴くのは耐えられるのか、そんな集中力があるのかと、最初は不安に思っていた。だが、その心配は杞憂に終わる。
「悲愴」は第一楽章から、いきなりコントラバスで始まったのである。その後、憂いを含んだファゴットのソロ。私はすぐに、「悲愴」にはまり込んでいった。
終始暗い雰囲気が残るこの交響曲は、あっという間に進んでいくように感じられた。そして、第四楽章の最後もコントラバスだった。
心臓の音を表すというコントラバスのピッチカートは、少しずつ、静かに消えていく。そうして、命が絶え、悲愴は終わった。本当に静かな最後だった。これを聞いて、私は「交響曲って、こんなに素晴らしいものなのか」と感動した。
まず、コントラバスで始まり、コントラバスで終わる曲なんて、そうそうあるものじゃないし、今まで聴いた事など無かった。少なくとも、吹奏楽曲では皆無に近いのではないか。
しかも、この曲は最後までどことなく暗い。こういう曲は、私のストライクゾーンどんぴしゃなのである。
こうして私は、この珍しい交響曲の虜になったのであった。初めて聴き、初めて好きになった交響曲が死を感じさせる曲だとは、一体どういう暗示なのか分からないが。まあ、私はよっぽど、コントラバスという楽器に縁があるのだろう。うん、きっとそうに違いない。そういう暗示だという事にしておこう。
ワークショップでオケ体験をし、更に「悲愴」を聴いて、オーケストラに対する意識が変わった。そして、私はこう思うようになった。
「社会人になったら、コントラバスを弾けなくなるかもしれない。弾く余裕が出来ても、オケや吹奏楽団が中々見つからないかもしれない。高校では吹奏楽を体験した。なら今度は、オーケストラをとことん体験してみよう」
そんな訳で、私は大学では、オーケストラに入る事に決定したのであった。
……入った後の部活で悩むより、まず勉強しろよ……と思った方。その通りである。実際、これから後、私は受験勉強に苦しむ事になるのであるから。
次回、高校〜大学編に続く。