プロローグ~ある合奏の日の私~
某日、某ホール。「ベートーヴェン 交響曲第九番四楽章」の合奏十分前。
……よいしょっと。ほぼ立つような格好で、バス椅子に座る。高さを調節した後、茶色の大きな相棒を構えて、ギコギコ。ブーン。
よしよし、今日は調子がいいぞ。なんかいけるかも。そんな風に自己暗示しながら、私の相棒「コントラバス」をぶんぶん弾く。
ある程度弾いたところで、ちょっとだけ周りを見渡してみる。
目の前にはヴィオラとチェロ。それぞれ、色んなパッセージを練習しているようだ。……あ、私の前にいるチェロ、完璧に弾いているな。私も頑張らなきゃ。
コントラバスが座っている場所の向こう側に、第一ヴァイオリンがいる。メロディーを弾いているようだ。気持ちよさそう。そんな第一ヴァイオリンの横で、必死に刻んでいるのは第二ヴァイオリン。真剣な面持ちだ。
管楽器の方も見てみよう……と思ったところで、急に周りが静かになる。あわてて指揮台の方へ向き直ると、コンサートミストレスが立っていた。どうやらチューニングが始まるようだ。
コンミスのヴァイオリンとオーボエが、Aの音を出す。二つの音がぴったり合った後、弦楽器が一斉にAを弾き始めた。私も弦を軽く押さえ、高いAを出す。……うん、合ってるな。たぶん。
管楽器のチューニングも終わった後、常任指揮者のおじいさ……ダンディーなおじさまが台に上り、こう言った。
「今日は、マーチからやります」
コントラバスはしばらく休みの所だ。私は力を抜いて楽な姿勢になった。そして、私の右後ろにいる管楽器の方に、耳を傾ける。
指揮者が腕を降り下ろすと、ファゴットとコントラファゴット、そしてバスドラが、その独特な低音を「ぶん」と出した。
「ぶん」がしばらく続いた後、ピッコロが可愛らしいメロディーを吹き始める。トライアングル、シンバルも伴奏に加わって、曲は楽しげな雰囲気になった。
よく耳を済ましてみると、ホルン、オーボエ、クラリネットも対旋律らしき音を吹いているようだ。ピッコロのメロディーと合わさって、いい感じだ。さらに、トランペットも所々合いの手を入れている。これもナイス。
だが、これだけ管楽器が吹いているのに、何かがいない。そう思って管楽器のいる方を向くと、フルートだけがお休みしていた。他の木管楽器は吹いているのに何故……と思ったが、ベートーヴェンの事だから、何か考えがあってフルートを入れなかったのだろう。ついでに言うと、休んでいるフルート奏者は、どこか凛としていた。
場面は変わって、アンダンテ マエストーソ。どこかって言うと、合唱の皆さんが「ふろいでーしぇーねるげってるふんけん」という有名なメロディーを歌い終わったすぐ後の所である。
ここを担当しているのは、チェロとコントラバス、そしてバストロンボーンだけ。低音弦にバストロが加わる事で、なんとも表現しがたい威厳と威圧感が醸し出されるのだ。つまり、すごくかっこいい。第九はなにも、「ふろいでーしぇーねる」だけが全てでは無いのである。
しばらくすると、ヴァイオリンとチェロバス、コントラファゴットが細かい音の動きを、ヴィオラは単独な動きをし始める。そして、木管とトロンボーンが歌う。
またしばらくすると、今度はヴィオラとチェロ、オーボエ以外の木管、トロンボーンでアンサンブル。 この部分は、とても宗教的な雰囲気。そして神秘的。響きがまるでオルガンのよう。私はここを聞くと、なんか泣きそうになる。今日も、不覚にも目頭が熱くなってしまった。みんなにはバレてないだろうからいいか。
合奏も佳境に入り、曲は終盤、マエストーソ。
「コントラバスはもっと弾け」と言われたので、弓をふんだんに使って、出来る限り頑張って弾く。今更だが、今日のコンバスメンバーは私一人(!)なので尚更だ。
プレスト。管楽器が吼える。弦楽器が素早く刻む。打楽器が一斉放射。音量がスゴい事になる。
オケのメンバー全員で渾身一杯音を出す。最後は「ばん!」で決め。みんなが止まる。指揮者も止まる。ちょっとの間の静寂。
指揮者のおじさまは棒を降ろして言った。「今日は、これで終わろうか。細かい所は、また明日」と。素敵なにやり顔である。
終わった後、軽くため息。そして時計を見ると、「9:02」と表示されていた。ああ、今日も疲れた!
……とこんな風に、忙しい時(主に十月〜十二月)はとことん疲れるわが部活。正直、高校時代の吹奏楽部以上の忙しさ。だけど、それでも部活を続けているのは、こんな思いがあるからである。
――やっぱり、オケって楽しいんだよね!
初っぱなから、あまりエッセイっぽくないですね。次回は、このエッセイ(もどき)の説明します。




