神様レビュー ~★1の底辺神と俺の最強祈り生活~
「は? 神様がレビュー制?」
俺、佐藤悠真、十七歳、高校二年生は、朝の通学電車の中でスマホを握りしめていた。
画面に映るのは、昨夜から大バズりしているアプリ『神レビューβ』。正式名称は『Divine Review System - 神様に★をつけよう!』だ。
世界中の人々が祈りを捧げて、事後レビューを投稿する。★の平均点が高い神様は「人気神」として信仰を集め、祈りの効果もアップ。逆に低評価の神様は……まあ、悲惨だ。
「最近、神様の対応遅いよね」「前は奇跡起きたのに今回はハズレ」「★1 二度と使わない」
そんなレビューが飛び交う世界。
俺はため息をついた。だってさ、昨日まで普通に生きてたのに、急に神様がUber Eatsみたいになったんだぞ?
きっかけは三日前。
国連が「神々とのコミュニケーションを効率化するため」として発表した新システムらしい。
神々側も了承したとか。……了承って、神様に拒否権あったのかよ。
電車を降りて学校へ向かう途中、俺は試しにアプリを開いた。
【人気ランキング】
1位 幸運の女神フォーチュナ ★4.98(祈り件数:1,248,392)
2位 学業の神アカデミア ★4.95
3位 恋愛成就のキューピッド ★4.82
そして最下位付近。
【新着低評価神】
・怠惰の神スロウス ★1.2(祈り件数:12)
プロフィール写真は、ソファに寝転がってゲームしてるだらしない青年だった。コメント欄は地獄。
「祈ったら三日後に『頑張れ』って通知だけ来た ★1」
「奇跡ゼロ。神様ってレベルじゃねえ ★1」
俺は思わず笑ってしまった。かわいそ……いや、笑うところじゃないな。
その時、スマホが震えた。
【新着通知】
怠惰の神スロウスからメッセージです。
「なぁ……お前、俺のページ見て笑ってただろ? 祈ってみねえか? ★5くれたら特別サービスするぜ」
……は?
放課後、俺は家に帰るなり部屋に鍵をかけた。
「マジかよ……」
アプリ内で『祈り』をタップすると、カメラが起動して顔を映す。AIが本人確認してるらしい。
俺は恐る恐く「スロウス様」に祈りを捧げた。
「えっと……テストで赤点取らないようにしてください。お願いします」
送信。
すると三十秒後、通知。
【スロウスからの返信】
「了解。頑張れ」
……おい。
レビュー画面がポップアップした。
【スロウスへのレビューをお願いします】
★をつけて一言コメントを!
俺は無言で★1を押した。
即座に神様からダイレクトメッセージ。
「ひどっ! お前マジかよ! せめて★2にしろよな!」
「いや、頑張れしか言ってねえじゃん!」
こうして、俺と底辺神スロウスの奇妙な関係が始まった。
スロウスは元々、古代ギリシャ辺りでちょっと流行ったマイナー神らしい。
現代になって信者が激減し、レビュー制度導入で完全に詰んだ。
「俺だって昔はそこそこ祈り処理してたんだぜ? でもさ、現代人って欲深すぎんだよ。『宝くじ当たれ』『彼女出来ろ』『死ぬ病気を治せ』って……俺は怠惰の神だぞ? 頑張る系は専門外なんだよ」
スロウスはビデオ通話で愚痴をこぼした。画面の中の彼は金髪の青年で、確かにだらしなくソファに埋もれている。
「じゃあ次はサービスするよ。特別に『ちょっとだけ頑張るモード』発動させてやる」
次の日のテスト。
俺は数学の赤点確定問題に挑んでいた。公式が全く頭に入らない。
すると、頭の中に声が響いた。
『よし、ちょっとだけ頑張るモード発動。30秒間だけ集中力+50%』
突然、頭がクリアになった。問題の意味がすっと理解できる。
俺は猛然と解答を書き始めた。30秒後、集中力は元に戻ったが、なんとその問題だけ完璧に解けていた。
結果、テストの平均点は奇跡的に60点を超えた。赤点回避。
【スロウスからの通知】
「どうだ? 俺の奇跡。レビュー★5な」
俺は即座にレビューを書いた。
「★5 30秒だけですが確かに奇跡でした! ありがとうございます!」
スロウスは画面の中でガッツポーズしていた。
「やったぜ! これで平均★が1.21になった! まだ底辺だけど!」
こうして俺は、毎日少しずつスロウスに祈るようになった。
祈りの内容は現実的だ。
・朝起きられるように
・部活の補欠からレギュラーへ
・嫌いな同級生と喧嘩しないように
どれも「ちょっとだけ頑張る」範囲内。スロウスは本気で対応してくれた。
しかし、そんな平穏は長く続かなかった。
ある日、学校で大事件が起きた。
クラスメイトの美少女・星野あかりが、突然倒れたのだ。原因不明の病。病院でも治療法が見つからない。
当然、みんな『神レビュー』に殺到した。
人気ランキング上位の神々に祈りが集中。フォーチュナもアカデミアも総動員で祈り処理しているはずだった。
だが、三日経ってもあかりさんは目を覚まさない。
俺はスロウスに相談した。
「なぁ、スロウス。なんかできないか?」
「……俺は怠惰の神だぞ? 病気治す専門じゃねえ。でも……」
スロウスは珍しく真剣な顔をした。
「実はな、俺にも『本気モード』がある。でも発動すると、レビュー制度のペナルティがすげえ重いんだ。★が一気に下がる可能性がある」
「それでも……あかりさん、いい奴なんだ。助けたい」
スロウスはため息をついた。
「わかった。お前がそこまで言うなら……特別に、協力してやる。ただし条件がある」
「条件?」
「俺の専属祈祷師になれ。レビューは必ず★5」
俺は迷わず頷いた。
その夜、俺はスロウスと『契約』を結んだ。
契約の瞬間、スマホのアプリが光り、俺のステータス画面が表示された。
【専属祈祷師:佐藤悠真】
契約神:怠惰の神スロウス
特典:『怠惰の祝福』発動可能
そして、スロウスが本気モードを発動した。
世界中の神レビューアプリに、一瞬だけ大規模なシステムメッセージが流れた。
【緊急告知】
怠惰の神スロウスが『本気』になりました。
対象:星野あかり様の原因不明疾患
病院の集中治療室で、あかりさんの容態が急変した。
医師たちが慌てふためく中、俺の頭の中にスロウスの声。
『聞いてるか、悠真。俺は怠惰の神だ。つまり……「頑張りすぎて体を壊す」ことを、強制的に止めることができる。彼女の体は、未知のウイルスに過剰に反応しすぎて自壊してた。俺はそれを「ちょっとサボらせる」ことで、免疫バランスを整える』
奇跡は静かに起きた。
あかりさんのバイタルサインが安定し始めた。
翌朝、彼女は目を覚ました。
ニュースは大騒ぎになった。
「底辺神が大奇跡! ★1.2の神が人気神を上回る奇跡を起こす!?」
スロウスのレビュー数が爆発的に増えた。
平均評価は一気に★3.8まで跳ね上がった。
しかし、これで終わりではなかった。
人気神フォーチュナが、直接俺にコンタクトしてきた。
金髪の美しい女神が、アプリのビデオ通話に現れる。
「ふふっ、面白い子ね。底辺の怠惰神なんかより、私と契約しない? 幸運をあげられるわよ」
スロウスが画面の端で「うるせえよババア!」と叫んでいる。
俺は笑って答えた。
「結構です。俺はスロウスと一緒にやっていきます」
フォーチュナは目を細めた。
「そう。なら仕方ないわね……レビュー戦争、始めてあげる」
それから、世界が変わり始めた。
人気神たちが結託して、スロウスを叩き始めた。
偽の低評価レビューを量産。スロウスの祈り処理を妨害。システムの穴を使って嫌がらせ。
俺は学校に行きながら、毎日スロウスをサポートした。
「スロウス、今日の祈り対応頑張れよ!」
「悠真、レビュー書いてくれ! ★5で!」
俺たちは二人三脚で戦った。
一ヶ月後。
スロウスの平均評価は★4.65まで回復した。
ランキングも中位まで這い上がっている。
あかりさんは完全に回復し、俺に感謝の言葉をくれた。
「佐藤くん……なんか、夢の中で金髪のダラダラした人が『悠真が頑張ってるから生きてる』って言ってたの。ありがとう」
俺は照れくさそうに笑った。
ある夜、スロウスが言った。
「なぁ、悠真。俺……もうちょっと頑張ってみようと思う。お前のおかげで、神様ってのも悪くねえなって思った」
「遅えよ。最初から頑張れよ」
「うるせえな。怠惰の神なんだから、急に変われるかよ」
俺たちは笑い合った。
神レビュー制度は今も続いている。
世界中の人々が、星を付けては神様を褒め、貶め、時には罵倒する。
でも、俺は知っている。
神様も、人間と同じように、誰かに必要とされたいんだってことを。
今、俺のスマホには新しい通知が来ている。
【新着神】
努力の神エンデバー ★0.8(祈り件数:3)
プロフィールは、必死に筋トレしてるけどすぐ倒れる青年。
俺は思わず笑った。
「スロウス、見ろよ。新たな底辺神だ」
スロウスが画面の中で肩をすくめる。
「ほっとけよ。……まあ、悠真が祈ってやるなら、俺もちょっと手伝ってやるけどな」
俺はアプリを開き、新たな祈りを始めた。
「エンデバー様、頑張りすぎない程度に、俺の勉強をサポートしてください」
底辺神同士の、ゆるやかな連帯が始まろうとしていた。
この世界は、まだまだレビューされ続ける。
神様も、人間も、互いに星を付け合いながら、なんとなく生きていく。
それが、今の「神様レビュー」世界の、ちょっとだけ幸せな日常だった。




