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【完結】【野暮令嬢】と侮った皆様、覚悟はよろしいかしら?  作者: お伝
第二章

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Side レオノーラ

「あなた、王子妃になりたくない?」


大嫌いな叔母のユリアが猫なで声ですり寄って来た時には、いよいよ頭がおかしくなったのかと思って、思わず気の毒なものを見る視線を向けてしまった。


ユリアは、ウェーバー公爵家の没落が明らかになり、タウンハウスを引き払って小さな邸に移り住んだとほぼ同時に、里帰りだと突然やって来た。

そして、当時当主だった祖父にねだって離縁状どころか絶縁状まで送り付け、その日のうちにドラーク侯爵家に出戻ってしまったのだ。


それ以来、所かまわずウェーバー公爵家の悪口を散々吹聴し、家では元公爵夫人の肩書を振りかざして我が儘放題に振る舞った。特に、伯爵家から嫁いできた母に対しては、格下だと見下す態度を隠すことなく、事あるごとに跡取りの兄や既に嫁いだ姉までをも貶め、言い掛かりを付けられては振り回されていたのだ。

最も頭を悩ませたのは、ユリアの我が儘を止めないばかりか、ちやほやと甘やかす祖父や父の存在だった。


ある日、ユリアから部屋からの眺めが気に入ったから明け渡せと言われた私は、当然の権利として断った。すると、ユリアは鬼のような形相で私を睨み付け、「覚えてらっしゃい」と言うと、父と祖父に私が酷い暴言を浴びせかけたのだと涙ながらに訴えたのだ。


「出戻りのくせに、偉そうにするなだなんて言われたの。お前なんか今の一番狭い客間でも贅沢だって……」


そう言ってさめざめと泣くユリアに寄り添う父と祖父に、幾ら違うと言っても私の言葉は全く届かなかった。

そしてその矛先は母にも向けられ、当時八歳だった私がその様な悪意のある言葉を口にするのは、母の教育が悪いせいだと訴えたのだ。そのユリアの言葉を鵜呑みにした父は、母を厳しく責めたのだ。


あまりに酷い言い掛かりに母を庇い、全部ユリアの嘘だと言い募った私を、父は睥睨した。


「嘘吐きの上に強情とは、この恥ずべき娘は修道院で矯正が必要だ」


その言葉に、母は私を抱きしめて平身低頭して許しを乞うたのだ。


ユリアはそれを見て、私が部屋を明け渡せば全て水に流して許すと言い、父と祖父はその言葉を聞いて、なんと寛容な措置だとユリアを褒めたたえたのだ。


私はそれ以来、叔母と父と祖父を蛇蝎と呼んで忌み嫌っている。


加えて、この叔母のせいで、幼い頃から従姉のヴィクトリア様から聞かせてもらっていた素晴らしい古代文学の物語を、もう二度と聞く事が出来なくなった事を心の底から恨んでいる。


この事をきっかけに、叔母のような性悪な女性と、それにコロリと騙される男性が、私はとにかくこの世のどんな事よりも許せなくなった。



やがて叔母は裕福な年上の伯爵家へ後妻として嫁いで行き、ほっとしたのも束の間、そこでも傍若無人な振る舞いをしていたらしく、夫の亡き後に代替わりした当主に追い払われてまた出戻って来たのだ。


そして、程なく返り咲いたウェーバー公爵家の状況を見て、自分こそがウェーバー公爵夫人なのだと口走るようになり、同情を引くために出戻ったドラーク侯爵家で肩身の狭い思いをしていると触れ回っていた。

しかし、当然ながらウェーバー公爵家からの接触はおろか、ドラーク侯爵家の関係者の出席する茶会や夜会には悉く不参加と表明されている。


そんな中、ヴィクトリア様が学園の教授となった事を知った叔母が、私に何としても取り入れと言ってきたのだ。


「あなたからヴィクトリアに、あんな侍女だった平民上がりの女なんか追い出して、私をウェーバー公爵夫人に戻すように働きかけてちょうだい。その見返りに、公爵夫人の力を使ってあなたを王子妃にしてあげるわ」


相変わらず勝手な妄想をまき散らす叔母に心底うんざりだ。

絶縁されているのだから近づけるはずもないし、近づけたとしても私が大人しく言う事を聞く訳がない。

それに、正式発表はまだだが、西の王国のキャロライン王女殿下が婚約者に内定しているのは周知の事実なのだ。そこに割り込もうなど、正気の沙汰ではない。


叔母が見下しているカロン夫人は、現在社交界では非の打ちどころのない公爵夫人と評価が高く、夫婦仲も大変良好と聞く。そんな大切にしている妻の悪口を、あのウェーバー公爵が黙って見過ごすとは思えない。

いっそ、苛烈を極めると畏怖されるウェーバー公爵の逆鱗に触れて破滅してくれればいいのに。


あまりに馬鹿馬鹿しくて適当にあしらっていた所、父がそのあり得ない話に意欲を見せ始め、なんと私はエリアス王子の婚約者候補として発表されてしまった。

わが父ながら、叔母のあんな荒唐無稽な計画に乗るほど愚かだとは思わなかった。


王子妃候補については、私自身に資質が無いと判断されれば良いのだから、王子妃教育の手を抜けばいいだけだと思っていた。


ところがある日、叔母が目の覚めるような美少女を連れてきてこう言った。


「この子がエリアス王子の恋人になりたいんですって。学園でキャロラインとかいう王女からエリアス王子を奪えるって言ってるの。でも、男爵令嬢だから妃にはなれないのよ」


にこにこと二人で頷き合っている姿が気持ち悪い。


「だからこの子に、レオノーラを妃にするから、あなたは愛妾になるのはどう? って聞いたらそれで良いって言うの」


あまりの物言いに絶句した。考える事もやることも、同じ人間とは思えない。


とはいえ、そんなに簡単な事ではないと思っていたのだが、本当にその男爵令嬢ミリアは学園で騒動を起こした。

他国の王女に冤罪を掛けようだなんて、国際問題に発展すれば、男爵令嬢一人の命で贖える事態ではないのだ。


このまま放っておくわけにはいかない。

一挙手一投足を警戒されている私を信用してもらい、さらにミリアを排除できる方法が何かないか。

頭をフル回転させて考えていると、近隣国で発売されたヴィクトリア様の著書を思い出した。

確か、婚約者の居る王太子を奪おうとする少女が、彼の婚約者に冤罪を掛ける目的で噴水に飛び込む場面があったはず。




私はミリアを唆し、その場を整え、そして、覚悟を決めて噴水に飛び込んだ。


春の水は思ったより冷たく、噴水は思ったよりも深かった。

危うく死ぬかと思ったところを何とか助け出され、顔を覗き込んでいただヴィクトリア様に私は縋った。


「叔母と父を絶対に許さない。このまま死んだら呪ってやる」


そう言葉を絞り出し、私はそのまま意識を失った。




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