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【完結】【野暮令嬢】と侮った皆様、覚悟はよろしいかしら?  作者: お伝
第一章

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38/51

もしかして、ご褒美?

手続きも全て終わり、ハンナは晴れてヴィッセル侯爵夫人となり、私はロシュフォール女伯となった。

そのお披露目のために、昼食の時に使用人たちを食堂に集まってもらい、改めてハンナを紹介した。


「本日を以て、ヴィッセル侯爵夫人はここにいるハンナ様よ。みんなこれからはハンナ様を奥様と呼んでね。私は、二人の友人として暫くここに滞在するロシュフォール女伯です。私の事は、ヴィクトリアと呼んでちょうだい。ヴィッセル邸の使用人であるあなたたちにだけ、特別に名前呼びを許します」


名前呼びは信頼と親密さの証となる。私は彼らの今までの献身に報いたいと思ったのだ。


「みんな、改めてよろしくね」


その言葉に、その場の全員が礼を執った。私はハンナに場を譲り、背中を押した。


「今日、ヴィクトリア様からの温かいご恩情を受け、ヘンリク様の妻となりました。今までヴィクトリア様に仕えていた皆さんから見れば、まだまだ至らないことが多いでしょう。でも、これから皆さんに認めてもらえるように精いっぱい頑張ります。どうぞよろしくお願いしますね」


そう言って向けた優しく美しい笑顔と少し首を傾げた可憐な仕草に、一同が息を呑んだのが分かった。それから、一人一人の目を優しく見つめながら両手で柔らかく相手の手を握り、言葉を交わしていく。

挨拶が終った頃には、みんなのハンナを見る目がすっかり柔らかくなっており、自然と奥様という言葉が出ている。


『お見事!』


時間にしてほんの十数分。思わず魂の声で称賛した。

オスカーはハンナのその様子を、目を細めて見つめている。


しかし、ふと気づいたことがある。ハンナはオスカーに近づかない。

不思議に思ってよく見ていると、オスカーはハンナが近づくとそれと同じだけさり気なく距離を取っている。

近づかないのではなく、近づけないのだ。

そして、それを悟ったハンナは、一定以上の距離を詰める事をしなくなった。


僅か数分で繰り広げられたその無言の攻防を目を丸くして見ていると、オスカーは私にだけ見えるようにぱちんとウインクしてきた。


『恐るべし、お父様』



◆◆◆

和やかに進む昼食の時間、体調が許すならと前置きし、ハンナを午後のサロンに誘ってみると、一度参加して見たかったのだと、とても喜んでくれた。

そして、食後のお茶の時間が終わるころ、エリアス王子とキャロライン殿下の馬車が到着した。その後ろに、騎乗のギルバートとダニエルが従っている。



今日からお客様を出迎えるのはハンナの役目だ。私は彼女から一歩下がった位置に立って、共に一行を出迎えた。


一通り挨拶を済ませると、近づいて来たダニエルから小さな黄色いブーケを渡された。

ゼラニウムのミニブーケは、少し前に発売された古代文学の翻訳本の中に登場する。作中の重要な小道具の一であり、(友情)の意味に加え、(君の存在が僕の幸福)という意味を持っていると紹介されているのだ。

いつの間にか側に立っていた父のオスカーは、その花を覗き込んでダニエルに顔を向けた。怯むことなくまっすぐにオスカーを見つめる彼に、小さくため息を吐いて「まあ、いいだろう」と呟いて背中を向けた。


この事態になってしまったのはつい昨日のことなのだ。まだぎこちなさの残る二人に、周囲からは生暖かい視線を向けられ、ヘンリクとハンナは手を取り合ってにこやかに私たちを見つめている。


やっぱりどっちを向いても恥ずかしい。

小さな花束で顔を隠し、ちらりとダニエルに視線を送ると、とても優しい眼差しで見つめられていた。


なんだか展開が早すぎない? 何が起こっているのか理解が追い付かない。

もしかして、これは私へのご褒美なのかしら?

だとしたら、もう少しだけ待って欲しい。だって、まだ心の準備ができていないのだもの。


それにしても、火照った顔に触れるゼラニウムのひんやりした感触が心地いい。



目を閉じて花束に顔を近づけたその仕草が、花にキスをしている様に見えてダニエルが全身真っ赤になって固まってしまった事や、チーム「沼」の侍女たちやキャロライン殿下が声にならない歓喜の悲鳴を上げ、ギルバートが嬉しそうにオスカーの肩をバンバン叩いていたことに、私は全く気付いていなかった。




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