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【完結】【野暮令嬢】と侮った皆様、覚悟はよろしいかしら?  作者: お伝
第一章

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26/51

夜会へ出発

いよいよ夜会当日。

早朝からチーム「沼」の侍女たちとメイドたちは総出で準備に取り掛かってくれている。

「食事をとる時間がありませんから」と、料理長とメイドたちが準備してくれた、小さなサンドイッチや焼き菓子やカットしたフルーツなどを合間に口にしながら、隙を見て侍女たちの口にも放り込む。そんな風に、にぎやかに準備は進んで行った。


一通り準備が整い、バルテス前公爵が迎えに来るまでソファーに座って用意してもらったお茶を頂いていた時だった。

隣国の王太子の随行員として、王太子指名の調印の場に同席した父オスカーから、第一王子アルブレヒトの起こした騒動を知らせる手紙が早馬で届いたのだ。


各国王太子が集った王宮の応接間で調印式は行われた。契約書がテーブルに置かれた時、アルブレヒトが突然テーブルに突っ伏したかと思うと、テーブルに乗り上げて痙攣の発作を起こしたのだという。

みんなで慌てて抑えようとしても、激しい痙攣は収まらず、アルブレヒトはテーブルのインク壺をひっくり返し、契約書を握りしめて苦しみ藻掻き続けたらしい。発作は納まったものの、契約書はこぼれたインクで真っ黒になったため、改めて作成しなおし、調印式は明日に延期になったと書かれている。手紙の最期には「誰の何が抜け落ちるか楽しみだ」と追伸があった」


アルブレヒトにとっては、考えた末の苦肉の策だったのだろうが、ただ問題を先送りにしただけで解決はしていない。彼の真意はこの後の行動で分かるが、国王と共謀しての保身だったなら容赦はしない。


明日の調印となれば、王太子指名の古代契約書の作成が急務のはずだが、私の元へ国王からその依頼が来ることはない。なぜなら、父の追伸の通り「祖母の契約書」を巧妙に偽造できるものが側にいて、私の口さえ塞いでおけばいいと思っているから。


これが、祖母が遺した罠だった。


古代契約書について、当主が変われば契約書が変わることと、当代が使用する刻印と呪文についての説明は、国王即位後にウェーバー公爵家当主から機密事項として伝えられる。

しかし、祖母はその機密事項を、即位した国王マックスに伝えなかった。


前国王から伝えられているとすれば、既に成人して、次期ウェーバー公爵と目されていた父オスカーが作成していた、個人的な契約書を次代のものとして利用される可能性を考え、まだ何の書類も残していない私を次期ウェーバー公爵に指名して、父とその家族を国外に送り出す計画を立てたのだ。


家族にも見捨てられた愚鈍な【野暮令嬢】には何もできはしないと高を括った国王は、その罠に実に見事に嵌ってくれた。


今回の王太子の指名契約書だけでなく、私がウェーバー女公爵となって以降に国王が交わした古代契約書は全て偽造だ。国王は文書偽造の詐欺の罪を問われる上、その損額賠償額は一体いくらになるのだろう。その事に、アルブレヒトは思い至っているだろうか。


そんな物思いに耽っていると、バルテス前公爵が間もなく到着すると先触れが齎された。

私はゆっくりとソファーから立ち上がって鏡の前に立ち、最後の仕上げに祖母から受け継いだ女公爵の証であるコロネット(小冠)を頂いた。

ウェーバー公爵家の誇りを背負った重みを改めて実感して威勢を正すと、部屋に居た侍女とメイドたちが一斉にカーテシーを執った。


「みんな、いつも本当にありがとう。素晴らしい仕上りだわ」


そう言って笑顔を向け、私の従者として共に参加する、MWR商会の専属デザイナーの胸章を付けたクロエに恭しく手を取られてホールに向かった。


ホールでは、既に到着していた正装のギルバートとダニエルが私を待っていた。バルテス公爵家のネイビーの一揃えに、家紋のブローチを止めたサッシュは、今宵のパートナーであるウェーバー公爵家のターコイズブルーだ。対して私は、ターコイズブルーのドレスに、ネイビーのサッシュを着用している。


一通り挨拶を交わし、出発しようとした時、馬車寄せにヘンリクの馬車が停まった。

出発しようとしている私たちに気付いたヘンリクは、急いで馬車を降りて挨拶をして来た。


「バルテス前公爵閣下、本日は…… 妻をどうぞよろしくお願いいたします」


ちらりと私に視線を向けてそう言ったヘンリクを、ギルバートは冷たく見下ろした。


「結婚報告を兼ねているにもかかわらず、妻以外の女性をエスコートする貴殿に言われるまでもない」


突き放すように言い放ったギルバートに頭を下げたヘンリクは、ダニエルに向かって声を掛けた。


「ところで、バルテス公子はなぜここに?」


その問いに、ピクリと片眉を上げたダニエルは淡々と答えた。


「貴家では、正妻たる侯爵夫人に護衛さえ付けぬと祖父から聞き及んだため、本日は護衛として随行する」


その言葉に顔色を無くしたヘンリクは、私に縋る様な目を向けて来た。


『この所、ハンナの対応で精いっぱいだったものね』


その視線には労いの会釈を返し、私はギルバートとダニエルに笑顔を向けた。


「さあ、ギルおじ様、ダニエル様、そろそろ出発しないと遅れてしまいますわ。ヴィッセル侯爵閣下、それでは後ほど会場で」


そう言って、悲壮な顔で私を見送るヘンリクをホールに残し、ギルバートのエスコートで馬車に乗り込んだ。


侯爵家の馬車の中にいるであろうハンナの顔は、こちらからは見えなかった。


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