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321で運命を!  作者: 嶬園明理
22/22

22 その名はアカリ!

俺は久しぶりに征と近所のアーケード街に来ていた。

なぜか?

それは、久しぶりにこの少女と遊ぶためだ。


「ちっす、アカリちゃんです」


赤いパーカー。半分だけ青みがかった黒髪に隠れた目。

ポケットに手を突っ込みながら元気に喋る少女の名前は嶬園明理。

俺ではなく、征のソウルフレンドである。

また、数少ない俺と交流のある同級生でもあった。


「けーちゃんは久しぶり。元気してた?」

「バカは風邪ひかないから大丈夫だぜ」


なぜか俺が喋る前に征が答えた。


「そっか、なら安心だね」


合わせるようにアカリもほっこりしたような口調で答える。

喧嘩売ってる?


「どうせバカだよ……俺は」


ちなみにだが、この二人は成績が似通っている。

二人とも俺より優秀だ。

そんな二人は、目下俺の知らない話題で盛り上がり中だ。


「ところで天罰ガールズの新作やった?マジでおもろいんだけど」


明理は征のオタク友達でもある。


「あーね!まさかマッキンゼー提督が第一級ガイストだったなんて驚いちゃった」

「そう、そうなんだよ!まさか聖域を使った反理術式を覚醒エディエンスで打ち破ると思ってなかったけど、あの後の深化した自分に言ったセリフも激アツなんだよな。新次元じゃないと出ないっていうか、腐敗錬金を経験して立ち直ったから言えるセリフっていうか。ていうか、っていう存在自体がもうガイストに対するアンチテーゼだよな」

「わかる!別の世界線みたいな描かれ方しているけど二人は結局家族を失ったか失っていないかだけの差で、根本のところで分たれているから、二人だけ深化ではなく堕天なんだよね。イブの抱える愛と罪業の宿命とヒロインの抱えるヒロイックなテーマに深みを与えるのは結局両者が別の方法で同じ強さを求めているってことだよ」


ダメだ。完全に置いて行かれた。


「いやあ、やっぱ天罰ガールズは最高だよな」


俺は澄ました顔で言ってのけるが、そう言うと二人は複雑な表情になった。


「……ソーリー、けーちゃん」

「ごめんな、今朝川」

「お前ら……謝るなら最初からやるなよぉぉぉ!」


そこに。

さらに一名の少女が合流する。


「おはよ、今朝川」


なぜかクルミは額にしわを寄せて、スマホと俺を見比べていた。


「おはよう、クルミ」


俺は笑顔で返す。

クルミは白いワンピースにベージュ色の肩掛け鞄。ちょっとオシャレをしている感じがするのは気のせいだろうか。

私服だとこんな感じなんだな。なんか、ギャルって感じじゃなくて少し辟易する。


「ねえ、二人で遊ぶんじゃなかったの?」


クルミは無言で俺に、昨日俺が送ったメールの文面を見せてくる。


『明日10時から一緒に遊ぼうぜ、どうせ暇だろ?今朝川』


「みんないたほうが楽しいだろ?」

「悪いのはこの口ね?」


クルミは容赦なく強い力で俺の頬を抓る。

いたたたたっ。ひ、皮膚が。

毎日美容と健康のためにクリーム塗ってるから乱暴しないで。

べ、別に鶴瀬さんによく思われたいわけじゃないけどね。


「ひゃひぇてふははい」


このままでは顔がお月様になってしまう。

征たちはそんな俺たちの様子を笑って見ていた。


「お前がクルミを呼ぶっていうから、何事かと思ったぞ」

「そうだぞ!でもアカリちゃんはダブルデートも悪くナイとおもう」

「ダッ……!」


クルミは驚いたのか、俺の頬を離す。


「私がこいつと!?ないない、やめてよ、そんな悪い冗談」


お前、言われる側の気持ち考えたことある?


「はは、じゃあ、俺はお前とペアかよ」

「よろしくブイブイー」


アカリの言葉はいつも本気なのか冗談なのかわからない。

あといっつもブイブイ言ってる。言わせてるんじゃなくて。


「で?そこのけさバカは私に何も教えてくれてないんだけど、今日は何をするの?」

「普通に遊ぼうと思って」

「……それだけ?」


俺は肩を竦める。

そんな様子の俺を見て、クルミはため息をついた。

そして、クルミは俺の服をを引っ張って耳打ちする。


「私、あの二人のこと、あんまり知らないんだけど」

「まあまあ、気にしないで行こうぜ」

「他人事だと思って……」


クルミはまだ全部飲み込めたわけじゃない。

できるだけ手を離さないで。

だけど、いつも通りに。


「っしゃー、今日はゲームでしょ!征ちゃんけーちゃん行こー」

「おいクルミ、行くぜ!」


俺は無理やりクルミの手を掴んで引く。


「ちょっと……!そのうざいテンションは何なの?」


クルミは困ったような声を上げる。

これでも。

コイツのこと、少しくらいは分かれているだろうか。



★ ★ ★

「はい、アカリの勝ちー」

「……認めねえ。もう一回、もう一回だ!」


征とアカリはエアホッケー対決をしている。


「征ちゃん、これで18連敗ね。ブイブイー!ゲーム、おごり、あざーっす」

「くっ、こんなのに1000円近く使ってる俺って……!」

「いいじゃん、征ちゃんお金持ちでしょー?」


征は俺の方に来て耳打ちする。


「なあ、やっぱり俺みたいな普通の人間じゃあいつには勝てねえ。頼む今朝川、あいつをボコボコにしてくれ!」


お前は普通側じゃねえよ。

そう言いたくなったが、友が助けを求めているのだ、仕方ない。


「いや、征に無理なら今朝川には無理っしょ」


クルミがバカにするような目で見てくる。

大丈夫、全然想定内だ。


「ふっふっふ、甘いよ、キミは初恋の味のカラダにピースの清涼飲料水くらい甘い」

「……なんなのそれ」

「出てきたね、けーちゃん」


アカリの表情が強張り、緊張が走る。


「はじめに言っておく、俺は俺のために戦う」

「バーリトゥードでいい、けーちゃん」

「わかってる」


そう。

エアホッケーは戦場なのだ。

殺るか殺られるか。

俺はこのゲームに青春を捧げたといっても過言ではない。

アカリを見据える。


「くっ、いくよ!」


アカリは反射を利用して俺の陣地へ攻め込む構えだ。

パックが壁にぶつかり、勢いよくゴールに向かってくる。

……!!

よく見ると、パックに逆回転がかかっている!

俺でなくては見逃してしまうだろう。だが、残念だったな。

逆回転を計算してあらかじめマレットを引いた位置に置いておく。


「……!?」


そうして俺は手元に転がり込んできたパックを浮かないように、しかし渾身の力で弾き返す。


「けーちゃん、甘いよ、アカリがこんな一撃を受けるなん……て」


アカリはマレットを思いっきり引き込む。

打ち込む気だ。

しかし。


「残念だな。キミはもう俺の布石にかかっているのさ」

「関係ないよ、どんな手でも、打ち返してあげる!」


そう言って振るったアカリの手元は、確かにぶつかる軌道だったパックをかすりもしなかった。


「ナニィ!」


アカリが驚愕の表情をする。

征が口もとに手を当てながら、小さくこぼした。


「まさか、あれは……無回転!?」

「パックってそんなに摩擦受けないでしょ」


冷静にツッコむクルミをよそに、パックは立ち上がってマレットを回避するように転がり加速、吸い込まれるようにアカリのゴールへと入っていった。


「ダメだ……レベルが違いすぎる……」

「ふっ、まだ一点目だぜ」

「エアホッケーでイキるのカッコ悪すぎ……」


クルミはあきれたような目でこちらを見ていた。

おい!俺の特技バカにすんなよ!


「くっ……調子に乗らないでよ、アカリが勝つんだから!」


そう言って新しく射出されたパックを掴むと。

アカリは何かを思いついたようにあらぬ方向を指差した。


「あ、あそこにUFOが!」


え!?マジかよ!

俺の顔はアカリが指を差した方を向く。


「……隙ありぃぃぃ!」


しまった、バーリトゥードだ。

しかし。

俺はエアホッケーの音の位置から、大体の軌道を予測する。

おそらく最速でキメに来るだろう。だから、コースは一直線、その分単調になるはずだ。


「ヌンッ!」


俺は居合いの要領で間合いに入ったパックを見ずに予測して振り抜く。

カンッ!

決まった、超速のカウンターだ。


「くぅっ!」


アカリはかろうじて弾くが、俺の方にパックが流れてきた。


「そんな手を使って俺に勝って嬉しいか?」

「めっちゃ嬉しいと思ふ」


どうやら情状酌量の余地はないようだ。


「じゃあ、俺の必殺技を見せてあげよう」

「くっ……!」


俺はマレットでパックの端を叩いて、パックを文字通り空中にコインのように跳ね上げる。


「来るぞ、今朝川の必殺技、エアーゴッドストライク、防御不能の一撃が!」

「ベイ◯レードみたいな名前ね」


アカリは戦々恐々としている。

空中に浮かび上がったパックに対し、俺は一瞬のチャンスを見逃さない。


「くらえ、パック天空落とし(エアーゴッドストライク)!」


蝶のように舞い、蜂のように……刺す!

カンッと小気味いい音と同時に、俺の鋭い一撃を受けたパックは空中から斜め一直線にアカリのゴールへと飛んでいく。

ガチャンッ!!


「しゃあ、二点目!」


俺はガッツポーズを取る。


「ねえ、あれってなんかの反則じゃないの?」

「さあ、俺にもわからん」


アカリは口を結び、露骨に不機嫌そうになる。

しかし、俺は以降、自分の方にきたパックを止めて、パック天空落としを繰り返す。

そのまま一点もやることなく圧勝した。


「……あれなんの技術なの?再現性高すぎてキモい」

「俺も別のことに活かせるんじゃないかと思ってる」


クルミからの評価はさんざんだ。

勝てばいいんだよ、勝てば。


「けーちゃんはもういいや。殿堂入りで」


アカリは俺に100円を手渡してくる。


「うむ。くるしゅうない」

「……うーっ!ぜんぜんブイじゃないーっ!」


中学生時代。

征と死ぬほどやったエアホッケーが、こんなふうに花開くとはなぁ。

あの頃賭けていたものと、今賭けているものは違うけど。


「ほんと、あいつ、エアホッケー学習能力は高いんだよな、異次元なくらいに」

「それ以外が悪いみたいな言い方をするなよ」

「わりいわりい。お前にもいいとこ、いっぱいあるぜ?」


フォローが抽象的で悲しい。


「クルミも俺とエアホッケーやろうぜ」

「やるわけないでしょ」


振られてしまった。


「あんたはいつも楽しそうで、いいわよね……」

「クルミは楽しくないのか?」

「当たり前でしょ、なにも知らされずに無理やり連れてこられて、私はもしかしたらデートかと思って……!」


クルミの声はだんだん小さくなって、最後の方はよく聞き取れなかった。


「じゃあ、次の場所だな」


実は。

征とアカリには話をつけている。

今日は元気のない友人を一人連れて行くから、そいつを遠回しに励まして欲しい。

そう言ってあるのだ。

しかし。

いつもと同じように不機嫌なクルミを眺めて、表には出さないが少しだけ動揺していた。

相変わらず俺には、どうしていいのかわからない。





★ ★ ★

どこにでもありそうなショッピングモール。

本当はボウリングにでも行くつもりだったが。


『は?そんなところ行って何が楽しいのよ』


というクルミに廃案にされ、遊びやすいいつものショッピングモールに来ていた。


「この際だからあんたに服を選んであげるわ」

「お前の選ぶ服とか……不安しかないんだごぼぉ」


ストレートに鳩尾へ肘鉄を喰らう。

相変わらずその秘められた暴性は健在のようだ。


「……せっかく征ちゃんとけーちゃんがいるのに……服選びって」


遊ぶのが大好きなアカリは少し不満そうだ。


「なに?なんか言った?」

「言ったよ!第一、アカリちゃんはね!」

「ちょ、ちょっと待った」


二人から睨まれる。

なんでだよ。ちょっとくらい仲良くしろよ。


「まあまあ。ここは穏便にいこうぜ。な、二人とも」

「けーちゃんが、そう言うなら」

「……ふん」


アカリはなんとか納得してくれたが、相変わらずクルミは不機嫌そうだった。


「なあクルミ、おすすめを聞かせてくれよ」

「……わかった」


かろうじてそうは言ったものの、ショッピング中のクルミはずっと不機嫌そうだった。

気分悪そうに服を選び、声をかけてきたアパレルショップの店員さんに食ってかかる。


「お洋服、お選び致しましょうか?」

「うっさいわね!服くらい、自分で選べるから!」


襟首を掴んで吠えている。

怖すぎてもう声出ない。

なんでそんなに不機嫌なんだよ。いや、ほんとに。

昨日の今日だからか?

結局、選ぼうとしてた店からつまみ出された。


「……」


クルミは黙っている。

俺は征やアカリとふざけていれば楽しいって思えるけど。

わからん。乙女心なんて俺には理解できない。

そのままフードコートで少し遅い昼ご飯にする。

征はフライドチキン、俺はラーメン、クルミはうどん、アカリはステーキ。

思ったけど、それぞれの好みはバラバラだな。

対面のシート席で、俺とクルミ、征とアカリがそれぞれ向き合っている。

征とアカリはすでにオタクみたいな会話で仲良さそうに話していたが、俺とクルミの間は沈黙だ。

いい加減気まずいので話しかける。


「ありがとな、俺のためにわざわざ……」


俺がそこまで言いかけたとき、クルミは俺の言葉を遮る。


「……なんであんたが、私に構うのか、よくわからないんだけど、なんで?」


なんで、と聞かれても困る。

理由なんて考えたことないし、強いて言うなら。


「俺がお人よしだから、放っておけないだけだが?」


半ばふざけたつもりだったのに。


「そうよね。そりゃ、そうか」


クルミは納得したように勝手に頷く。

なんだったんだろうか……。


「言っておくけど」


クルミはそう前置きして俺に宣告する。


「私はあんたの都合なんて知らないからね。別に、あんたが望む通りの結果になるなんて、思わないほうがいいわよ」


傲慢だろうか。

それでも、彼女に手を伸ばしたいと思うのは。



★ ★ ★


「お化け屋敷か……」


予定にはなかったが、アカリが面白そうだというので入ってみることになった。


「な、なんで!?意味わかんないんだけど!……とか、言えばいいのかしら」


あら、クルミさん、意外と冷めてらっしゃる……。

クルミは乾いた笑いをしながら言った。


「一人暮らしも長いしね。もうこういう怖さには慣れたわ」

「二人一組みたいだから、一緒に入ろうぜ」


征とアカリはすでに中に入っている。

俺たちはそれを追いかける形だ。


「……別にいいけど」


俺はクルミと手を繋ぐ。


「ちょっ……なに、いきなり!?」

「いや、暗いから危ないと思ってさ」


怒られるかと思い、身を縮める。

……が。

厳しい言葉の一つもなく。

思ったよりしっかり握り返されただけだった。

そういや、ちゃんと女の子と手を繋ぐのって、学校行事以外だと初めてじゃね?

おいおい無駄に意識するなって俺。相手はあのクルミだぞ。

なんでちゃんと手が柔らかいんだよ、無駄に緊張するって。


「ねえ、握り方キモい」


動揺が伝わっているのか、クルミがからかうように言った。


「う、うるさいな」


あー、ガチで気持ち悪い、俺。

ゆっくり歩いて行く。

入ってすぐの突き当たりのところに井戸と提灯が垂れている。

クルミは冷めた目で見ていた。


「こういうのって大体井戸のところから……」

「おい、やめろよ!そういうのいいって」

「……え?」


クルミはきょとんとしてから、一応の疑念を払うように俺に聞いた。


「あんたってもしかして、怖いの苦手?」

「ちちち違うますけど!?」

「違うますけどってなに?」


ああ、シンプル気分悪い。

無駄に行けるかとか思わず、征とペアになっておくべきだったと思う。

こんなこと、クルミに知られたくなかった。

後悔は先に立たないとはまさにこのことだ。


「ばぁ」

「ヒィッ!」


クルミが俺を軽く脅かしただけだった。

だけど、俺は動揺を隠しきれずに少し後ろに飛び退く。


「……」


クルミの俺を見る目が冷たい。

手は温かいが、手が温かい人間は心が冷たいのはあるあるか?

そんなしょうもないことを考えていたからか、俺はクルミのその言葉に耳を疑った。


「……しょうがないから、さっさと出ましょうか」


優しい……!?

頭でも打っちまったのかよ!?

そう思った俺の頭を、天井から垂れ下がってきた何かが包む。

濡れた冷たい人の両手だった。


「カップルか貴様ら爆発しろぉ〜」

「うわぁぁぁ!」

「ちょっ、急に走んな!」


俺はクルミの手を握り締めたまま走り出して、しばらく走った先で立ち止まる。

暗い廊下、音源らしき怖い音が大きく聞こえる。


「ハァッ、ハァッ……」


心臓の鼓動がうるさい。


「ちょっと、落ち着きなさいよ」

「なんで落ち着いてられんだよ!あー、ガチで怖……じゃなくて、ビビったわー」


クルミはわざとらしくいびつな笑みを浮かべる。


「怖いんでしょ。だから手繋いだんだ」

「ちげえよ!はぐれると危ないから……!」

「じゃあ、手を離しても大丈夫よね。はぐれなきゃいいんだもの」

「それは……そうだな」


俺は一瞬だけ言葉に詰まる。

クルミは何も言わず、俺の顔を見ていた。


「……離さないでいいわよ」


そう言って、今度はクルミの方から、指を絡めてきた。


「暗いし。危ないでしょ?」


それさっき俺が言ったやつ。

な、なんでそんなに、今日こんな場所に限って優しいんだよ。


「ごめんな」


クルミを見る。

俺はもう限界かもしれない。


「なに、急に」

「お前の後ろに這ってくる何かが見えて、俺、走り出していいか?」

「高校生リア充呪い殺してやる〜」


まずは断りを入れようとしたが、至近5メートルくらいまで迫ってきていてもう無理だ。

俺はクルミの手を握ったまま走り出した。


「うわぁぁあ!ちょっと、それ早く言いなさいよ!」


俺は走った。

だが、幾度となく襲いくる暗闇の中の幽霊や奇怪な生命体たち。

なぜか敵意がむき出しな気がするのもあって、とうとう俺は立ち止まる。


「ごめん、クルミ、ちょっと待って」


足が動かない。

怖すぎてなぜか咳き込む俺。

そのまましゃがみ込む。

さすがに可哀想になったのか、クルミは俺に言う。


「本当に大丈夫?人を呼びましょうか?」

「ちょっと立ち止まれば……大丈夫」


そのときだった。

背中に手があてがわれる。

優しく、ゆっくりとさすられる。

暖かくて、心地がいい。

言葉などない。それでも、クルミは否応無しに優しい。


「私もおじいちゃんによくこうしてもらってたから」


俺がクルミの方を見ると、クルミは視線を逸らした。


「……ありがとう」


少し落ち着いてきた。立ち上がれそうだ。

そのまま出口へ辿り着く。

久方ぶりの太陽の熱い視線に生きて帰ってきた心地がする。


「ごめんな」


「今度はなに」


「俺、怖がってばっかで、やっぱりなんもできないみたいで」


「でも、これからもっと頑張るからさ」


「ああね」


「別に、今日くらいは、いいわよ」


なにをやっているんだろうか、俺は。

彼女にとってより良い休日を過ごしてもらうつもりだったのに、こんなので。

でも、隣で穏やかに微笑む彼女を見ていると、なんだか、それでもよかったのかもしれない。

そう思った。



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