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【これは『天使』が『少女』に戻る物語】清心館女学院の探偵事情~銀髪の天使『日ノ宮雪乃』謎は解けても恋は解けない~  作者: 水星 透
外伝エピソード

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11月清心館女学院の暖炉開き

11月の戯曲の小説Verです。少しラストなどを調整してますので比べてみてくださいね。


「今年はラッキーね。この暖炉開きはくじ引きでも人気なのよ」

 

 十一月の終わり。

 清心館女学院の食堂別室にある古い暖炉の前。

 わたしは雪乃先輩と二人で灰をかき出していた。

 今日は学年合同の全校掃除。

  

「しかも私たち二人でなんてね」

 先輩は楽しそうに微笑んだが、わたしにはその気持ちがよく分からなかった。

「そうですか?灰もすごいし……」

 春の掃除がいい加減だったのか、灰の舞い上がる匂いに、わたしは少し咳き込んだ。

「暖炉って使う前に掃除するんですね?いい加減な掃除なのかな」


「それはそうよ。春に一回、お疲れ様のお掃除」

「冬に一回、よろしくねのお掃除」

 雪乃先輩は、わたしの初々しい問いかけに柔らかく答えてくれた。

「知りませんでした」

「初めてだもの、知らなくても仕方ないわ」

 先輩は暖炉の鍵を開けて、慎重に格子戸を開いた。

 その瞬間、灰の匂いが一層濃くなった。

「萌花ちゃん、火かき棒を取って」

 先輩の指示に、わたしは慌てて首を振った。

「あ、あの先輩、わたしがお掃除しますよ。灰が胸に入ったら、また熱出ちゃいます」

 そんなわたしを見て、雪乃先輩は優しく笑った。

「もう、過保護はダメよ。これはね、先輩から後輩に伝える仕事なの」

「随分、灰が多いね、人気なのって適当な掃除ですむからかしら」

 先輩は生真面目な様子で文句を言いながら、灰の山に火かき棒の跡をつけている。

「あら、これ何かしら?」

 棒の先が何かに触れてそっと取り出しながら言った。

 それは封筒だった。

 その端は少し焦げ、微かな薔薇の香りが漂っている。


「手紙?宛名も宛先もないわね。端が少し焦げてる」

「それに薔薇の香り……なんだかあの日の事件を思い出すわね」」

 先輩は無邪気に手紙を開こうとする。わたしは焦って先輩を制止した。

「だ、誰かの手紙ですよ?勝手に見ちゃうんですか」

「だって、中を見ないと誰のものかわからないじゃない」

 雪乃「手紙?宛名も宛先もないわね」

「端が少し焦げてる。それにバラの香り。なんだかあの日の事件を思い出すわね」

「中、見ちゃってもいいかな?誰のお手紙かしら」

『わたしは、まだあなたの隣にいますか。あなたの温もりを感じられていますか』

『わたしはあなたの事だけをみています。わたしのことを見てくれますか?』

「すごく情熱的」   

「せ、先輩、このラブレター、誰が出したか推理してみませんか?」

 勢いで言ってしまってから、顔が熱くなる。けどもう引っ込みがつかなかった。


「推理ゲーム、です」


「推理ゲームなんてどうしたの、萌花ちゃんから言ってくるなんて珍しい」

 先輩は微笑んで興味津々な表情を浮かべた。


「じゃあまずは書いた人の気持ちから探ってみる?」


「き、気持ち?それよりもまずは手紙の状態から……」


「それでもいいけど……」


 さっき大体観察したのよね。先輩は不服そうに唇を尖らせつつ、手紙を光に透かした。


「焦げ跡とバラの香り。偶然にしては出来すぎてるよね」

「あの事件のこと、誰かに話した?」

 わたしは口ごもり、曖昧な否定の言葉しか出てこなかった。

「暖炉にあったのに端だけ少し焦げてる」

「だから火が落とされた後、使われてない時に隙間から投げ込まれたんでしょうか?」

 雪乃先輩は真剣な表情で首を傾げる。

「ローズオイルも強く香ってるから、ここに置かれてそんなに時間が経ってないわね」

「香りも含めて端だけの焦げは暖炉でついたものじゃない……のはわかるわ」

「学内で火を扱える部活は、科学部?料理研究会?香りがついてるから香道部かも」

「もちろんおうちのコンロでも良いわけだけどね」

「封筒はどうでしょう?いつもの購買部のやつですか?」

 先輩は封筒を裏返して頷いた。

「三つの手紙事件で扱ったのと同じ。宛先もない」


「わたしたちが解決した事件になぞらえたラブレター……」

「こじつけですかね。この学校では大体この封筒ですものね」

「誰が書いたんでしょうか?本文はタイプされてますね。少し変わった文字」

「文芸部で使うフォントだったりしない?」

「どうでしょうか……部誌の出来上がりちゃんと見てなくて」

 わたしは曖昧に答えた。

「今、家にプリンタがある人もそうはいないよね?あとで文芸部室に行ってみようか?」

「私、文芸部に行ったことないのよ」

「そ、そうですね。でもその前にまだ考えることはありそうです」

「こういう手紙を出しそうな人、その人の気持ちはどうでしょう?」

 わたしは先輩を制止しようと急いで言った。

「思い当たる人がいるの?」

 先輩はワクワクした様子で聞いてくる。

「いませんけど……」

「もう!何それ?」

 雪乃先輩は声をあげて笑った。


「掃除の割り当ては当日に抽選で決まる」

「だからそれが決まってから手紙を投げ込める人はいない。つまりこの手紙は……」

 わたしが何も言えずにいた、その時。後ろから声をかけられた。

 振り返ると、文芸部顧問で司書の御影先生が扉にもたれるように立っていた。

「雪乃さん、如月さん。お掃除の方は?」

「あ……ごめんなさい、ちゃんとやります」

 先輩は慌てて掃除に戻り、灰が舞い散って咳き込んだ。

 その背中をわたしがそっとさする。

「良いのよ、実はさっきから話を聞いていたの」

「推理の件だけれど、これは文芸部のテーマなのよ。ごめんなさいね」

 御影先生の声は低く静かに響いた。


「また会いたい。人じゃなくて暖炉に向けてラブレターを書いた子がいたの」

「暖炉に渡すラブレターなんて素敵よね」

「雪乃さんが言った通り、あまり真面目に掃除されないから」

「そのまま暖炉開きで燃やされると思ったのね」

 先生は優しく微笑むと雪乃先輩のてから手紙を受け取った。

「如月さん、少し頼みたいことがあるから、部室に来てくれる?」


 夕暮れの放課後、二人きりの文芸部室は沈黙が支配していた。

 御影先生は、初めて見る柔らかな笑顔でわたしに手紙を手渡してくれた。

「はいどうぞ」

「これはあなたが書いた手紙よね?」

 わたしは息を飲んで、ゆっくりと頷いた。

「先生、ありがとうございます。どうしても勇気が出なくて。でも……どうして?」

「あの子、雪乃から色々聞いてるからね。それじゃダメ?」

「でもきっとあの子は気づいてるわよ」

 御影先生はイタズラっぽく笑った。わたしの顔は暖炉に当てられたように火照っていた。

「焦げ跡、バラの香り、封筒」

「あなたたちが解決してきた事件ばかりだもの」

「如月さん、いい?大切なのは想いを名前を書いて伝えること」

「それと、あの子と共にいるかはあなたが決めるの」

 わたしは先生の言葉に温かな勇気をもらってはっきりと言った。


「はい、きっと」


「じゃあ、司書室にあの子を迎えに行ってあげて」

「それと、もう少し部にも顔を出してね、今の貴女ならいい小説や詩が書けるわ」


 司書室で待つ先輩を迎えに行くと、すっかり日は落ちていた。

 灯りのない室内で先輩は待ってくれていた。

 その横顔に恐る恐る声をかける。

「お待たせしました。部誌の件で先生に頼まれて」

「あと、もうちょっと部に顔出せって」

「怒られちゃいました」

 わたしは笑ってそう言った。もうさっきまでの恐れは無くなっていた。  

「萌花ちゃんが部に行ったらこっちに来てくれなくなるのかな」

 ぽつり、と一言。

「ちゃんと両立?しますから」

「さ、下校時間ですよ。一緒に帰りましょう」

 わたしは御影先生の言葉に勇気をもらって雪乃先輩の手を取った。

「あの、先輩。今度先輩にお手紙書いていいですか?」

「部に行ってこっちに来れないとき、先輩が寂しくないように」

 わたしは先輩の目をまっすぐに見据えてそう伝えた。  

「情熱的なお手紙にしてね」

「あのね。萌花ちゃんが来てから、ちょっとラブレター減ったのよ」

「さっき読んだようなまっすぐな気持ち、久々に読んだ気がしたな」

「今度は差出人と、私宛ってわかるように読みたいな」

 先輩はまたイタズラっぽく微笑んだ。

「あの。さっきの、まだ終わってないですよね?」

 

「さっきの?そうだね。じゃあ続きをしようか」

「素敵な帰り道になりそう。じゃあ続きを始めましょう」

 昇降口でわたしたちを何人かの生徒が追い越してゆく。

 わたしたちはわざとゆっくりと歩いた。

「誰が誰に宛てたラブレターかの」

「推理ゲーム」  

 二人の声が重なった。

 月の光が二人を包んでいた。

 わたしたちは再び手を繋いで歩き出した。

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イラストがあるほうが想像がはかどる方はぜひ
活動報告の

『清心館の天使』日ノ宮雪乃の肖像

『わたし』如月萌花の肖像

『疑似三つ子』三人の肖像

『美術部の二つ星』二人の肖像

をご覧くださいませ。

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