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エピローグ『雲雀鳴く空に』
二人は泣きながらお互いのことをゆっくりと話し始めている。
ステンドグラスの光は、万華鏡のように三人を柔らかく照らしていた。
雪乃はその輝きの中から、ひとり抜け出した。
深く、重い影だけが、寄り添っていた。
そっと、音もなく、礼拝堂の扉を閉める。
始業前のチャイムが今日も遠く聞こえてくる。
「今日、授業なくてよかった……」
雪乃はぽつりと呟いた。
空は澄み渡っていた。
その刺すような青に、雪乃はそっと目を押さえた。
「時は春」
「日は朝」
「朝は七時」
「片岡に露みちて、揚雲雀なのりいで」
「蝸牛枝に這ひ」
「神、そらに知ろしめす」
「……」
「すべて……世は事も無し――」
「……春の朝ならこの詩がぴったりなのに!」
雪乃は天を仰ぎ、呟いた。
そして足元に目を移すと、水たまりの縁を靴の先でなぞる。きっと、家に帰ったらまた怒られてしまうのだろう。
けれど、なぜだか、そうせずにはいられなかった。
「あーあ、私にも――」
最後は、誰にも届かない声だった。
ただ、『そら』だけをのぞいては。




