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『朝露の孤独』


朝の静寂だけが雪乃の孤独に寄り添っていた。いつも通りの朝。ぼんやりと頭を振ると、寝癖のついた髪が揺れた。フレンチヘリンボーンの冷たい床に足を下ろす。足先から伝わる、冬を待つ気配。


雪乃はどんな季節でも板張りの床が好きだった。


昨夜は寄宿舎での聞き取りが遅くなり、家から迎えが来てしまった。談話室の心地よさと、少し面倒な会話。


暖房がすごい音だと言っていたけれど、もっと詳しく聞けばよかったな。皆がその音で目覚めて、文句を言いながら朝食に向かう。雪乃はそんな朝の喧噪を、思い描いた。


毛足の長いラグの感触を楽しみながら、カーテンを開けた。窓から差し込む朝日が雪乃の顔を照らした。

広く寂しい庭に、学校の銀杏を懐かしんだ。

少し遅れて扉がノックされた。


「どうぞ。起きていますよ」


雪乃はわざと不機嫌な声で応じる。


「お嬢さま」

「あまり好きになされますと庇いきれませんよ」


老メイドは淡々とした口調で告げた。


「いつも同じ小言ね」


雪乃は顔を洗い、化粧水を軽く肌に馴染ませながら答える。着替えをメイドに託し、鏡台に腰掛けると、髪に櫛を通されながら小さくため息をついた。


「さて、急がないと」


独り言をつぶやき、食堂に向かう。


アンティークの長テーブルには、いつもと同じ、季節のフルーツ、ヨーグルト、紅茶。一人分の朝食。

それを食べ終えると、メイドと短い会話を交わし、いつもと同じように家を出た。


「送迎がなくなっただけでも、満足しなきゃ……ね」


「明日から、恋人も乗せてって言ったなら――」

「あの人たち、どんな顔するかしら?」


でも、どうせなら、わたしはあの坂道を誰かと一緒に――


叶わない夢を見るのはよそう、雪乃は冷えた指先をゆっくりと擦り合わせて温めた。

重く、冷ややかな金属の取っ手が指先の熱を全て奪い取っていた。重厚な扉が音もなく閉じた。



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活動報告の

『清心館の天使』日ノ宮雪乃の肖像

『わたし』如月萌花の肖像

『疑似三つ子』三人の肖像

『美術部の二つ星』二人の肖像

をご覧くださいませ。

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