表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/68

『空白が示すもの』


消えた志崎暁希の痕跡だけが、彼女の存在を示していた。


「さて、みなさん!人体消失は成功しました!いかがでしたでしょうか‼︎」


司会は大げさに驚きながら、続けた。


「先ほどの可憐な女生徒は、再び戻って来れるのでしょうか――」


もったいぶった司会に合わせて、アシスタントの部員が再びリングを持ち上げた。静かな所作で指先からそっと手を離した。


空虚な音を響かせてリングが落ちた。


「おっと、アクシデントのようです。もう一度試してみましょう」


舞台袖へ、合図を送ると観客に語り掛けた。


「もう一度、ご覧ください!」


軽快なドラムロールが緊張を高めた。

部員の指先がリングを離した。


――カラン。


部員たちは舞台袖に視線を送り、目を泳がせた。


「おや、どうしたことでしょうか?……もう一度!」


再度リングが持ち上げられ、リングに縫い付けられた布が、微かな空気の流れで揺れた。

今度のドラムは弱い。観客の拍手も迷いを隠せない。


――カラン、カラン……


一度目よりも乾いた残響が残った。

観客席に微かなざわめきが広がる。

七々瀬は背中に冷たい感覚を覚え、指を無意識に握りしめた。


部員が焦燥を隠せず三度目のリングを持ち上げた。

客席は静まり返り、舞台だけが孤立していた。

ドラムロールは、もはや沈黙に近い震えに変わっていた。


その瞬間――リングの布が空気を抱いて、軌跡を描きながら漂った。七々瀬の喉が、かすかな悲鳴を飲み込んだ。


「……暁希?」

その名が闇に溶け、残ったのはただ消失を告げるリング。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イラストがあるほうが想像がはかどる方はぜひ
活動報告の

『清心館の天使』日ノ宮雪乃の肖像

『わたし』如月萌花の肖像

『疑似三つ子』三人の肖像

『美術部の二つ星』二人の肖像

をご覧くださいませ。

ブクマ・ポイント評価お願いしまします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ