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『司書室の幕間』

挿絵(By みてみん)

第五話登場人物『生徒会の俊英』

支倉 七々瀬&志崎 暁希

https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3524110/


「生徒会役員消失事件……気にならない?」


暁希先輩のその言葉は、事件解決の余韻を鋭く切り裂くようだった。


かなえさんを見送ってから、ひとしきりお喋りした後のそんな一言。


「消失?それは、もう解決してるんですよね?」

不穏な言葉に胸が静かに波立った。


「もちろん。萌花ちゃんには私が見えてるでしょ?」

「私が消えて、また現れる事件……」


「どう?気になるでしょ?」


暁希先輩の瞳が眼鏡越しに静かに瞬いた。


「私が会長の心を射止めた話……いや、逆かもしれないけど」


「会長、どう思います?」


七々瀬会長は何も答えずに、窓の外を見つめていた。

暁希先輩は、いたずらっぽく笑いながら続けた。


「あなた、雪乃さんの恋人なんでしょ?」


わたしは、全力で首を横に振った。

頬がこれ以上なく火照っているのがわかる。

視線の隅で、雪乃先輩のカップを持つ手が微かに揺れた。


「萌花さんになら、私たちの事件――話してあげても、いいと思いませんか?」


「聞いて……いいんですか?」


わたしは控えめに尋ねた。


『恋愛は、チャンスではないと思う。私はそれを意思だと思う』


「まあ、そんなような話なんだよ」


七々瀬先輩は静かに太宰の言葉を引用した。

その顔からは、先ほどまでの笑顔は消えていた。


「長いお話になるから、お茶を楽しみながらにしましょう。ここは定番のマルコ・ポーロね。なんだか久しぶり」


雪乃先輩は音もなく立ち上がり、スカートの皺を指で整えた。


「手伝います」


緊張しながらカップを運ぶと、暁希先輩は慣れた手つきで洗い、丁寧に並べてゆく。長い指には淡くクリアブルーのネイルが光っていた。


髪色と合わせるような、さりげないお洒落と普段の真面目な雰囲気。瞳の奥で、微かに揺れるユーモアがわたしを惹きつけた。


「……演劇見ました。とても素晴らしかったです」


暁希先輩に話しかけた。


生徒会副会長、志崎しざき暁希(あき)さんは演劇部の部長を務めていた。


いわゆる憑依ひょうい型とも違う。

しかし真に迫る演技は、見るものを魅了して止まない。そんな噂は本当だった。


今年の文化祭では、先輩自身が翻案ほんあんした白雪姫で脚本兼主演。その中で、彼女は毒殺される王妃役を見事に演じ切っていた。


わたしは、その演技にすっかり魅了されてしまった。


「美術部の事件を二人が解決したって?」


先輩が楽しそうに問いかけてくる。


「千里が教えてくれたんだ」


先輩はふっと目を伏せた。その瞬間、別人のような雰囲気が漂った。


『僕が褒めていたって』

『萌花ちゃんに伝えておいてくれ』


それはまるで、本当に千里先輩がそこにいるようだった。声色だけでなく、仕草も、微かな呼吸までも完全に再現されていて、思わず胸が高鳴り、わたしは視線を逸らした。


新しいお茶の用意をする間、会長は足を組んだまま、頬杖をついて物思いに耽っていた。

窓の外、何を見ているのだろうか?その表情は影になって読み取れない。


「さあ、さあ。みなさん」


「きっと今からのお話に合うお茶よ、アイスティーにしたのよ」


雪乃先輩がガラスの容器を傾けると、透明な光はガーネットの輝きとなって静かに満ちた。


「会長、このお話は大丈夫?帰ってもいいよ」


砕けた口調とは裏腹に、真面目な表情で雪乃先輩は問いかけた。


「恥ずかしい話ではあるけど、初心に帰る意味でも聞いていこうかな」


青を映す黒髪をかきあげ、七々瀬先輩は深いため息をついた。


「往生際が良くて何より」

「じゃあ、萌花ちゃんも待ちきれないようだし、そろそろ始めましょうか」


「現生徒会副会長、志崎暁希さん」


「彼女が文字通りの消失をしたところから、このお話は始まるの」


「まずはもう一口、紅茶を味わって」


「事件が起こったのは、文化祭の初日、午後二時十五分」


雪乃先輩は壁の時計に視線を移した。


「場所は特別教室棟四階、奇術部の公演内」


香りを胸いっぱいに吸い込んでから雪乃先輩は話し始めた。


「それは、私たちが高等部一年の文化祭の事――」


先輩はゆっくりと過去を振り返る。


開幕のベルが、わたしの知らない『一年前の物語』の幕を静かに開けた。



文芸‐推理部門デイリー2位・ウィークリー4位ありがとうございます。

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『薬屋のひとりごと』さんに1歩でも近づきたいです!

活動報告に主人公2人の挿絵を用意しておりますのでご覧ください。

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活動報告の

『清心館の天使』日ノ宮雪乃の肖像

『わたし』如月萌花の肖像

『疑似三つ子』三人の肖像

『美術部の二つ星』二人の肖像

をご覧くださいませ。

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