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【10,000PV突破感謝】清心館女学院の探偵事情~銀髪の天使『日ノ宮雪乃』謎は解けても恋は解けない~  作者: 水星 透
赤りんご青りんご事件~名前のない色

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『サモトラケのニケ』


「椿姫と同じ色を見て、同じ景色を望むのはそんなにわがままなの?」


その声には、どうしようもない悲しみが滲んでいた。

才能という翼は、重くて苦しい。そんな思いをわたしは感じた。百瀬先輩の声は強く激しくも、弱々しく室内に溶けた。


淡く儚く、どこか神経質だったあの絵のように。


目を閉じていた雪乃先輩が、静かに口を開く。


「椿姫さん、私の話を聞いてくれますか」


それは『おはよう』の挨拶にも似たさりげない言い方だった。先輩の親指が、人差し指をそっとなぞった。


雪乃先輩は囁いた。


「私、千里さんの気持ちがよくわかるんです」


「私には千里さんほどの……そこまでの才能はないけれど……そう、ですね」


「椿姫さんの言うとおりなんでしょう」

「千里さんは、天才と言ってもいいのかもしれません」


「椿姫さんの願い、それは千里さんが絵に向き合って、ありのままに生きること」


雪乃先輩は静かに言った。その声には伝えきれない悲しみがこもっていた。目には、うっすらと涙が浮かんでいた。

先輩はきっと、千里さんが抱える才能と孤独に、静かに触れていたのだ。わたしにもそれが痛いほど感じられた。


廊下の奥から、トランペットの高音がひとつ、部屋の空気を微かに震わせた。その音を合図に、先輩は言葉を続けた――


「私たちが、普通の年頃の女の子で、ただ一人の人であることを望むこと」

「それは、そんなにいけないことですか?それは、罪なのでしょうか」


その言葉は神託のようにわたしの胸に響いた。


「私は、ずっと普通でいてはいけないと思っていました」


「周りの人からも、言われ続けてきました」


「特別であれと。期待にこたえよと。求められた役を演じ続けろと」

「いつか、この命が終わるまで――」


「その言葉を一番強く言っていたのは、もしかしたら、私自身だったのかもしれません」


夕陽が校舎に沈み、天井の明かりはキャンドルのように揺れた。柔らかな光と共に秋の風が吹き込んでくる。


先輩は続けた。


「でも……ある人が私に言ってくれたんです」


「あなたはそのままでいいと、いて欲しいと」

「そう言ってくれたんです」


「私は、それだけで救われた思いがしました」


「いいえ、きっと救われたんだと思います」


「自分が、自分でいて良いんだと」


「特別でなくて良いんだと」


「千里さんにとって、才能は呪いだった」

「そして同時に、椿姫さんにとっては、自由への翼でもあったのではないでしょうか?」


「私は、千里さんと椿姫さんはそれを支え合い、高みを目指す。そんな素晴らしい関係だと思っていました」


「私にはわかりません。お二人の意見がいつか交わる日が来るのか」


「あるいはそんな日は来ないのか」


「慈しみといたわりの心がこれからも続くのか、今日で終わってしまうのか」


「私には、わかりません……」


「私が見ている世界と、萌花ちゃん、椿姫さん、千里さんが見ている世界。それぞれが手にしている色は違います。けれど」


「世界はそれでも、美しい」


「そう思うことは、許されませんか?」


再び静寂が支配した。先輩の言葉を、わたしも、わたしの想いとして伝えたい。場違いなのはわかっているけれど、ポケットの中からそっとロザリオを出して握りしめた。


「わたし、本当に皆さんの事が羨ましかったです。今でも、きっと羨ましいままです」


「美人だし、注目されるし、すごく才能もあって……」


「でも、雪乃先輩と出会って、そういうの違うかもって、思えるようになったんです」


気持ちが高ぶって立ち上がってしまう。


「クラスで、出し物をするんです」


視線が集まって、恥ずかしさにわたしの声は小さくなる。


「結構めんどくさくって、嫌だなって思うんです」


「そんなわたしが持っている『普通』を望んでも、手に入らない人がいるんです」


先輩たちの独白に当てられたのか、目が潤んできているのがわかる。


「誰もがみんな、無いものねだりをして傷つけあってる」


「それって、もったいない気がします」


「一緒に過ごせる放課後、帰り道。それって……今だけなのに」


「白雪姫だって、みんなで見に行きたいです」


涙が落ちるのを我慢していたら、何が言いたいのか分からなくなってしまった。だって、わたしは部外者だから、才能なんてない。だから、泣く資格なんてない。無理矢理に、言いたいことだけを言うことにした。


「わたしはただの素人ですけど、感じたことはほんとだと信じてます」


「千里先輩の絵、繊細な中に色が踊るようで、こんなに素敵なものがあるんだって……そう思いました」


「途中のもよかったですし、あの絵の完成も見たかったんですけど」


「ううん、あの下絵があったからこそ、今、もっと良い作品になってると思います」


「だから……」


「アップルパイがとっても美味しかったんです」



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イラストがあるほうが想像がはかどる方はぜひ
活動報告の

『清心館の天使』日ノ宮雪乃の肖像

『わたし』如月萌花の肖像

『疑似三つ子』三人の肖像

『美術部の二つ星』二人の肖像

をご覧くださいませ。

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