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【10,000PV突破感謝】清心館女学院の探偵事情~銀髪の天使『日ノ宮雪乃』謎は解けても恋は解けない~  作者: 水星 透
三つの手紙と五つの嘘

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『私自身を』


「欺瞞、ね、さすがだね、雪乃さん」


静かな声の中に、鋭さは消えていた。

ゆっくりと記憶の蓋を開けていくそんな声。


「ずっとずっと、一番でなくてもって、自分に嘘をつき続けてた。でも違った。響に憧れて、響になりたくて、それが叶わなくて……だから平等でいいフリをしてた。でもその嘘が、私を一番苦しめてた……」


「私の初めての恋人……今も思い出す」


「詩と出会うずっと前のこと……私と響、その子は三人でいつも一緒にいたの」


「楽しかったな……そのころから響は人気があったけど、今よりもっと仲もよくて私もこんなんじゃなかった」


「その子はね、私をはじめて選んでくれた子だったの」


「デートもしたし、バレンタインには手作りのチョコも貰った」


「嬉しかった――世界が輝いて見えるほどに、嬉しかった」


奏さんは震える声を無理やり絞り出して続けた。


「その子がね……顔を真っ赤にしながら、可愛いカップケーキを握りしめてね……」


「私、今でもその時のことを夢に見るのよ」


「幸せの絶頂の時にね……響に先に告白していた事を知った。響と相思相愛だった事も」


自分の記憶と存在を消し去りたい、そんな声だった。


「私ね、見ちゃったんだ。響とその子が階段でキスしてるのを」

「胸が張り裂けそうだった。『やっぱり響が好きなの』と、あの子が涙に濡れた顔でかすかに呟いた瞬間、色鮮やかな記憶が黒く染まっていったの」


「私、どういう事って問い詰めた。泣いて謝ってくれた。――“響に言われて告白した”って、あの子は言った……」


「私はね、その子に失望したわけじゃない。響に怒ってるわけじゃない」


「でも二人の無垢な善意は、私の全部を壊してしまった」


「もう……傷つくのも疲れ果ててしまった」


「――結局、響とその子も上手くいかなかった」

「私がいたからだよね?双子なんかで生まれなければ、響は幸せになれたんだ」


「だから、詩が私のことを一番だって言ってくれた時、ああ、今度こそ私も選ばれたんだって、本気で思った。でも、その夢も、十二時の鐘が奪い去ってしまった」


「笑っちゃうよね」


「分不相応なシンデレラ……」

「お下がりのドレスに灰をかぶるだけの毎日」


「響が私の事を好きになってくれればいいのに、そんな馬鹿な事まで考えたことがあるのよ。二人でね、鏡写しで……止まった時間の中で生きるのよ。高校も、大学も、ずっと一緒。ずっと二人で……」


「――でもね。この三日間は私だけが主人公だった。私が中心だった」


「私だけに灯りが落ちていた……楽しかった」

「でも、辛かった……早く楽になりたかった……もう消えてしまいたかった」


奏さんは、灰にまみれた白薔薇を、摘みたての花を愛でるように大切そうに手に持った。

しばらくして、戸惑いながら口を開いたのは響だった。


「奏……そんな……あなたが居なくなったら私、嫌だよ。もっと一緒に居たいよ。ダンスもしたいし色んな事したい。詩も、おんなじ気持ちだよ……ダメだよ……」


響さんは泣きじゃくっていた。詩先輩はその手を握ったまま、何も言わなかった。

奏さんは柔らかい眼差しを二人に向け、言葉を落とした。


「ありがとう、お姉ちゃん、詩。あなた達の気持ちがわかっただけでも良かった」


出会った時の鏡像が、初めて形を得たように見えた。

でも、そんな和解の空気は一瞬のことだった。


また、静かで暗い声。


「ねえ、雪乃さん、こんな私の気持ちがあなたにわかる?」

「恋なんかしたこともないって、澄ました顔して」


「わかるわけないよね」


「遊びなら、そろそろやめたら?こんな灰を被った薔薇、あなたには似合わないよ」


わたしに視線を移し、冷ややかに笑った。


「如月さん。幽霊屋敷の薔薇がきっかけで、いい夢が見れて良かったね」

「そういう噂、みんなしてるよ……“身の程知らず”だって」

「でも、もうほんとに終わりにした方がいい、取り返しがつかなくなる前に」

「私みたいに壊れてしまう前に」


わたしは何も言えなかった。だってその言葉は、噂なんかじゃないから。全部わかっていたから。

胸が苦しくて、うまく息ができない。それでも、それ以上に胸の奥が熱くなった。

どんなに怖くても、傷ついても、好きな人が傷つけられるのだけは耐えられなかった。


優しかったおばあちゃんと、あの日の先輩の微笑みを思い出す。

『天使』の泣き笑いを――


先輩の苦しい心の内を、どうしてわかってもらえないの?

悲痛に揺れる睫毛も、雨が落ちそうな夕暮れの瞳も、なにもかも――。

そう叫びたかった。


奏さんは話し続けた。


「いつも自分だけが蚊帳の外って気持ちわかる?自分がいることで、世界が歪んでる気持ち……わかる?」

「わからないでしょ?雪乃さん。あなたに、わかるわけが、ない」


そう言うと雪乃先輩に向き直った。


「だからね、響と詩だけじゃなくて雪乃さん、どうしてもあなたを巻き込みたかった。あなた、ずっと主人公だったんでしょ……響と同じ、愛される人だったんでしょう」


「なんで?何が違う?私と何が違うの?」


奏さんの独白がしんしんと降る雪の様に、部屋に響き渡った。

耳鳴りが止まないような、空気の震え。


胸の奥で何かが弾けた。

膝の震えを押さえ込んで、わたしは立ち上がった。

その衝動が何なのか、自分でも理解できたのは、

雨が止んだずっと後のことだった。

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イラストがあるほうが想像がはかどる方はぜひ
活動報告の

『清心館の天使』日ノ宮雪乃の肖像

『わたし』如月萌花の肖像

『疑似三つ子』三人の肖像

『美術部の二つ星』二人の肖像

をご覧くださいませ。

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