↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【10,000PV突破感謝】清心館女学院の探偵事情~銀髪の天使『日ノ宮雪乃』謎は解けても恋は解けない~  作者: 水星 透
三つの手紙と五つの嘘

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/107

『木崎奏――灰かぶりの白薔薇・三つ目の嘘』


三日目の放課後。

奏先輩の宣言通り、目の前には『契約恋愛』の三人。

誰も口を開こうとしない。

テーブルの中央には赤いコンフィチュールが載った高価なクッキーが並ぶ。

その沈黙は、まるで閉じられたままの封筒のようだった。


詩先輩は、まず皿を響先輩の前に押し出す。

響は当然のように、一番大きく鮮やかな一つを手に取ると、ためらいなく口へ運んだ。


次に響は、奏さんの前に皿を置いた。

まるで餌付けするような気安い仕草だった。


奏先輩は自分の皿に置かれたクッキーを見つめて、しばらく躊躇った。迷った末、奏先輩はそれを半分に割り、小さな半分を口にした。


その後で、残った半分を詩先輩へ渡した。

その仕草はどこか申し訳なさそうで、自分より詩先輩を気遣っているようだった。


詩先輩は、受け取った半分だけを口にし、響の前に皿をそっと戻した。


机の下で、わたしは指先で一つ、二つと膝に軽く触れた。

響が食べた枚数、奏先輩に分けた枚数、奏先輩が詩先輩に渡した量……


こうして目の前で繰り広げられた分配。

それはあまりにも歪で、三人の関係性をそのまま表しているように思えた。テーブルに置かれた皿は空になり、描かれた繊細な絵がよく見える。


雪乃先輩は何も言わない。


三人共にこれからどうするのか、そんな困惑を示し始めた時だった。


奏さんが三通目の手紙を取り出してテーブルに置いた。


響と詩先輩も、手に持った封筒を、その隣に並べた。


三つの白が横一列に揃った。


最後の一通は、封が開け放たれていた。

奏さんが送り手だと、証明しているかのように。

たった今、降り出した新雪のように、足跡一つない無垢な封筒だった。


雪乃先輩は、手袋をしてないのが不思議なくらい慎重な手つきで、ゆるやかに手紙を取り出した。


同じ言葉が書かれた便箋。


『嘘つきは誰?』


違うのは、小さな白薔薇。


花言葉は『私はあなたにふさわしい』


けれど、違うのはそれだけではなかった。

花びらには灰がかかっていて、それはまるで灰かぶり姫の物語を思わせた。

煤のような臭いが鼻をかすめ、数週間前の図書室の事件が胸に蘇る。

わたしの胸を押しつぶす、灰色の記憶。

焼け焦げたお屋敷が瞼の裏に蘇った。


奏さんの独白を思い出す。

ずっと選ばれないでいる、その痛みを。

わたしなんかが選ばれるわけはないという、その言葉を――


雪乃先輩が呟いた。


「白薔薇、とても象徴的ですね……それにこの灰が意味するもの……」


雨音を縫うように、奏さんが言った。


「響も詩もわかってるでしょ?」

「手紙は……私が出したのよ」


「奏、やっぱりあんた!」

「部が全国目指してる大切な時期に!」

「わかってんの?」

「こんな事のために」


響の手が一瞬、奏さんへ伸びそうになった。

詩先輩は何も言わずに制止した。

やはり、気づいていたのだろうか。


「こんな事って何?私にとっては一番大切なの!」


詩先輩は心痛の様子で黙ったままスカートを握りしめている。


「この話が解決しないと、部の方だって続けていけない!でもね、私は嘘つきじゃない!」


「何……言ってんの?」


響の声が凍りついた。


「手紙は私が出したって言ったでしょ!?全部、知ってるって言ってんの!」


奏先輩の声は叫び声に近かった。



「何よ……奏、あなた……もしかして知ってたの?」


時間は重く、その流れを止めたようだった。


「……あれが嘘だって言うなら。認めるよ」


響は震える声で言った。


「雪乃さん、あなたはどう?響の嘘……わかる?」


奏さんの誘うような声に、雪乃先輩は目を閉じたまま、考え込んでいた。

悩んでいるでも、言い淀んでいるでもなく、ただ悲しさがそこにはあった。


「響さんの『嘘』」


「添えられていた花がカスミソウ」

「花言葉は感謝、無垢、純粋な心」


先輩は呟いた。


「響さん、あなたは三人のお付き合いの中で、自分だけ楽しければいいと言っていた。けれどお話の中で、あなたは奏さんをずっと気遣っていた」


雪乃先輩はテーブルに三つの押し花を綺麗に並べながらそう言った。


「響さんは表面上の態度は自由奔放ですが、本当は、奏さんを第一にしているように思います。無垢と感謝……」


「それが奏さんの響さんへの気持ちだとすると……」


「そしてそれが『嘘』と言う事なら……」


「響さんは恋人を、奏さんに譲ったのではないでしょうか」


響先輩の唇が揺れた。否定しなかった。


「……ごめん。あんたが、知ってたなんて」


「奏さんはお姉さんに感謝はしていた……」


「けれど、その無垢な『嘘』は奏さんを傷つけるには十分だった……お下がりを譲られることを望んでいなかった」


「これが一つ目。響さんの“無垢”の『嘘』」


雪乃先輩の言葉に、思わず口をはさんでしまう。


「一つ目ってどういう事ですか?」


困惑しながら尋ねるわたしの口に、軽く手を当て、遮る仕草をする。雪乃先輩の視線の先には奏先輩。その表情は、怒りに震えているようだった。それとも、悲しみだろうか?


響が口を開いた。


「私だってね、お姉ちゃんとして、出来ることをしてあげたかったんだ。私だけがモテるのが悪い?それって私にどうこうできる問題?」


「確かにそうだよ――譲ったよ。しかも、初恋の人を」


怒りが次第に膨らんでいるのが伝わった。

静かな口調が激昂に近づいてくる。


「なんなんだよ……人様にこんな……恥をさらしてさ!奏もさ!なんでもっと早く言ってくれなかったの!」


その声は、奏さんにそっくりだった。

冬が訪れた瞬間のような冷たさだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イラストがあるほうが想像がはかどる方はぜひ
活動報告の

『清心館の天使』日ノ宮雪乃の肖像

『わたし』如月萌花の肖像

『疑似三つ子』三人の肖像

『美術部の二つ星』二人の肖像

をご覧くださいませ。

ブクマ・ポイント評価お願いしまします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。