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『木崎響――カスミソウ・一つ目の嘘』

挿絵(By みてみん)

キャラクター紹介

『疑似三つ子』の肖像

https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3518562/


「ちょっと聞いてよ!これ!どう思う!?」


机に投げつけられたのは白い封筒だった。

中には便箋、そしてカスミソウの押し花が一輪。


そこには、一言


『嘘つきは誰?』


そう書かれていた。

目の前で仁王立ちするのは木崎きざき(ひびき)先輩、三年生だ。


自称『学院一カワイイおんなのこ』


今年四月、三つ子ダンス動画が百万再生を超えた、学内の超有名人――出待ちまで現れて、削除か廃部かを迫られた結果、泣く泣く消したと言う。そのダンスのすごさを、ケイが嬉々として語ってくれたことがある。


しかも、双子のかなで先輩、擬似三つ子のうた先輩と三人で付き合っているという。一対一でないお付き合いとは、どう言うことなのだろう?


そんな響先輩は、高めのツインテールに校則ギリギリのメイク。いわゆる“地雷系女子”。そう形容するのが一番早い、そんな人物だった。


付けまつげと短いジャンパースカートが幼さを引き立てていた。

眉根を寄せ、感情を隠さない表情は幼くも見えるが、それが人気の一端らしい。


わたしがそんな風に品定めしていると、手紙を読み終えた雪乃先輩が、指に挟んで手渡してくれた。


「これは、嫌がらせ……なのでしょうか?」


封筒は購買部で売られている艶のある白。

ラブレターとして使えば、成功率が高まると噂されているものだった。


筆跡は角ばっていて、差出人を隠しているようだ。

きちんとポストに投函されたらしく、消印は学校最寄りの郵便局だった。糊のはみ出し一つない、丁寧に閉じられた封筒は、上部が無遠慮に引き裂かれていた。


響先輩の奔放さを、物語っているようだった。


中には一言、


『嘘つきは誰?』の文字が書かれた一枚の紙。

コピー用紙を丁寧に切り取り便箋にしてあった。

送り主は、几帳面な人物らしい。


わたしはひとしきり手紙を見ると、音をたてないようにテーブルへ滑らせた。


「カスミソウの花言葉……」


「感謝、無垢、純粋な心……だっけ?」


口にしたのは、思いがけず響先輩だった。


「私には全然似合わないよね」


響先輩はカスミソウを指先で軽く回した。

確かに黙っていれば、絶世の美少女に見えるかもしれない。


「花言葉の“無垢”は実に響さんらしいと思います」「“嘘つき”と“花言葉”はどう関係するんでしょうか?」


「たとえば、無垢ゆえの嘘……でしょうか?」


雪乃先輩は誰に言うでもなくそう呟いた。


「こういう手紙って前にも?」

「んにゃ、全然」


響先輩の短い返事のあと、揺れるツインテールだけを目で追った。


「嘘……送り主の心当たりは?」

「んにゃ、全然」


響先輩は同じ返事を繰り返すと、再びカスミソウを回した。


「差出人みっけてよ?指紋とか、聞き込みとかあるでしょ」


雪乃先輩を、警察か何かと勘違いしているらしい。


「指紋調査ですか。お望みならやってみますよ」

先輩が笑顔で応える。二人が意気投合しているのを見て、胸がざわついた。


「やるじゃん!」


話の早さに、響先輩の声が弾んだ。


「私は良いんだけどさ、奏と詩が気にしちゃって」


「特に奏が絶対に相談に行って!なんてさ」


「まあ、あの子らしいっちゃ、そうなんだけど」


天真爛漫な響先輩の表情に、心配とも慈愛とも取れない微妙な影があった。この人もお姉さんと言う事だろうか?


「でも、犯人さんの指紋がわからないと照合は難しいですけどね」


そもそもベタベタ触ってるから、あなたの指紋ばかりだけど、とわたしは思った。


「そういうもん?ま、とりあえずよろ」


雪乃先輩は、一度だけ頷いた。


「お心当たりはありますか?」

「あるっちゃあるけど、ないっちゃないね」


曖昧な返答に、雪乃先輩がかすかに首を傾げる。


「私は響さん達の関係を伝聞でしか知らないので」


「デンプン?芋が今、関係あるの?」


「うふふ、聞いた話でしか知らないので、教えていただけますか?」


「はいはい」


「私と奏、ずっと仲良くてさ。告白とかも、結構されるんだけど、片方だけ付き合うと、ぎくしゃくするでしょ」


「フリーはフリーで、姉妹で付き合ってる、とか変な噂立つし。奏もそれ嫌がって」


「そしたら詩が、私たち二人と同時に付き合いたいって言うわけよ、変な子だなぁって思ったけど、奏が嬉しそうにするから、まあいいかって」


響先輩の言葉は、自分本位のようでいて妹への優しさが確かにあった。


「話題にもなるしね。ダンス部の」


照れ隠しのように、響先輩は付け足した。


「響さんは、お二人のどんなところが?」

「付き合うのとか、奏が全部決めたからなぁ。まあ、私に似てかわいいとこかな」


「雪乃……呼びづらいね。ゆきのんでいっか。ゆきのんは二年ならトップビジュだと思うよ。でもね、三年は私達が一番。そう思うよ」


ツインテールを指で撫でながら、響先輩は言い切る。


「響さんたちの次にランクインとは、光栄ですね」


雪乃先輩はまた嬉しそうに笑った。それがなんだか悔しくて、また胸にかすかなおりが積もる。


「まあ、ゆきのんも相当いい線行ってるからさ。落ち込む事はないよ。でも、タイプじゃないんだ。ごめんね」


「あら、振られてしまいましたか。残念です」


また、くすくすと楽しそうに笑う雪乃先輩。


どう考えても、雪乃先輩が一番だろうに。

わたしは、心の中でそう唱えた。

楽しそうな二人の輪に入れずに遠巻きに眺めながら。


「響さんたちのダンス動画、良ければ見せていただいても?」


響先輩は携帯を取り出すと、雪乃先輩と顔を寄せる。雪乃先輩は熱心に魅入っている。時折、感嘆の声が漏れてなんとも愛くるしいのに、心がざわついた。


「神ダンスって、書かれるだけの事はありますねえ。この数字が閲覧数、なんですか?」


先輩は、いちじゅうひゃく……と指さし数えている。


「奏は、いつも丁寧でポーズも綺麗なんだ。ほら、こことかさ」


「詩さんは、奏さんとすごいシンクロですね」


「奏は完璧主義で、部でも結構厳しくてね。自他ともに。詩もいいセンスだよね。合わせるの上手いし。技術だけで言えば、二人は私より上だね」


「でもリーダーは私」


自信満々な響先輩と、感嘆しきりの雪乃先輩。


響先輩がいなければ、この先輩を動画に撮りたいと感じた。あどけない無防備な顔に、そんなことすら思ってしまう。


数週間前に、鋭い表情で警察に連絡していた人と同一人物とは思えなかった。

雪乃先輩と響先輩は、ますます距離を縮め、まるで恋人同士か本物のアイドルユニットのようだ。

お似合いの二人。


胸が締め付けられる。その瞬間、自分が無意識に自惚れていたことに気づく。


この人の隣は自分の場所だと、いつの間にか勝手に決めつけていたのだ。


それを認めたくなくて、心の中だけで、彼女を呼び捨てにすることにした。自分の小さな自尊心を守るために。


雪乃先輩をタイプではないと言った響の言葉を、何度も反芻して安心しようとする自分が嫌だった。

誰にも気づかれないようにそっと前髪を触った。


すべてを見透かすような目で、雪乃先輩はわたしを見つめている。


「さっきも言ったけど今回もね、実はあたし、どうでもいいんだけど」


「奏が、結構気にしちゃってね?」


「そうなんですか?」


ダンス動画のマネだろうか?

無意識に手を動かす先輩。


「んで、ちゃんと相談に行ったか、後で確認するって言うもんだからさ。あの子は昔からそういうところあるから。私がしっかり気を配ってあげないと、っていうか」


妹の事を心配する響の顔は、今までで一番可愛らしく見えた。わたしに見つめられていたのが、照れくさかったのか、サッと立ち上がる。

バッグのマスコット、短いスカート、そして高い位置のツインテールが順に揺れた。


「んじゃ行くね」

「一応、嘘にならない程度に、ね?」

「サラッと表面だけでもいいから」

「頼むよ」


この白い封筒が、三人の、わたしたちの心を深く貫く事になるとは、まだ誰も知らなかった。


文芸‐推理部門デイリー2位・ウィークリー4位ありがとうございます。

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『薬屋のひとりごと』さんに1歩でも近づきたいです!

活動報告に主人公2人の挿絵を用意しておりますのでご覧ください。

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イラストがあるほうが想像がはかどる方はぜひ
活動報告の

『清心館の天使』日ノ宮雪乃の肖像

『わたし』如月萌花の肖像

『疑似三つ子』三人の肖像

『美術部の二つ星』二人の肖像

をご覧くださいませ。

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