『もう一度、出会うために』
わたしは、今、何を言わなければいけないのか、はっきりとわかった。
一輪の美しい薔薇、一人の生きる人間――
ただ、それだけのことなのに……
人を楽しませるために、薔薇は咲いているわけじゃないのに。人を傷つけるために、薔薇の棘があるわけじゃないのに――
そんなふうに、生まれたかったわけではないのに。ただ、そう生まれてしまっただけなのに――
こぼれそうになる涙を必死にこらえる。
泣いちゃ駄目だ。
ここで泣いてしまったら、先輩を余計に傷つけてしまう。そう思って必死に唇を噛みしめる。
彼女は咲き誇る薔薇そのものだった。
何も求めず咲いているだけなのに、勝手に愛され、憧れられ、疎まれ、そして憎まれる。
ただ、その美しさゆえに。
先輩もただ一人の十七歳の少女なのに。
こんなにも、ただ一人の、震える魂なのに。
そんなことにも気づいていなかった。
わたしはなんと馬鹿だったのだろう。
そして、自分がそうでないことに――
薔薇でない事に、安心しきっている。
「萌花ちゃん」
わたしを見つめる先輩は、触れれば壊れてしまいそうだった。それは本当の別れの言葉だった。
「あなたが薔薇を受け取ってくれたことで、おばあちゃんは最後の一歩を踏みとどまれたのよ、だから……」
「どうか、どうかその優しさを……持ち続けてね?きっと、忘れないでね?」
「彼女にとって萌花ちゃんは……」
先輩の言葉は空に消えていった。
最後まで天使の微笑みで。




