払暁の園
十二星である『黒羊星』ギュスターヴの主導で設立されたテーマパーク『払暁の園』に遊びに来たアムリタとシオン。
人ヒトひとの人の山……平日にもかかわらず園内はかなりの人出だ。
大盛況過ぎる。オープンから間もないと言うのもあるからだろうか。
「わぁっ……すごいですよ師匠! これ全部遊具なんですか!?」
「そうみたいね。大体乗って何かするものなのかしら」
周囲の光景に圧倒されてしまっているアムリタとシオン。
見た事もない遊具が果て無く並んだ園内は異国に迷い込んだような気分にさせられる。
テーマパークと言うだけの事はあり、内部は『初代王の戦い』というテーマでデザインされているようだ。
英雄と思しきキャラが十二人の仲間たちを従えて数々の困難を乗り越え、最後には圧政者を打倒し王朝の終焉を導く。
「とにかく何か乗ってみましょう。折角来たのに眺めていてもしょうがないわ。体験してみないとね」
「了解です、師匠!」
アムリタの提案に敬礼で応えるシオン。
この二人が並ぶと姉と妹……先輩と後輩といった感じなのだが年長者に見えるシオンの方が腰が低い所が奇妙で面白い。
二人は『騎兵たちの行進曲』と看板が掲げられた遊具に並んだ。
作り物の騎馬に跨り、線路の上を進む。
騎馬は適度に上下して戦場に見立てたセットの中を進むので実際に馬に乗って行軍しているような心地になる。
「ははぁ、これは面白いですね。雰囲気があります……!」
勇ましいBGMの聞こえてくる中でシオンは感心している。
がっこんがっこんと上下する作り物の馬の上で周囲のセットは荒野から市街へと移動し、周りには激しい戦いの最中であると思われる武装した人形たちが並んでいる。
「馬は乗れますが騎馬で行軍した経験はありません。こういう気分なのでしょうか?」
「私に聞かれてもそれはわからないわ。……何故なら、私は馬に乗れないから!」
若干の引き攣り笑いで視線を逸らすアムリタだ。
以前従軍した時はレオルリッドの馬に相乗りさせてもらった事を思い出しながら。
(あれも今にして思えば色々マズかったわね。あんなに密着して……。彼には毒だったでしょうね、悪い事をしたわ。……あ、でもジェイドの姿だったし問題ない? うーん、よくわからないわね)
過去を振り返って作り物の馬の上でモヤモヤと考えるアムリタである。
「そもそも今は乗馬の経験もない子が多いでしょうからかえって新鮮なのかもしれないわね」
「そうですね。今は車の時代になりつつありますからね」
少し感慨深げなアムリタとシオン。
時代が切り替わっていく様の目の前で眺めているような感覚だ。
十五分ほどでセットを一周して二人はトルーパーズマーチを乗り終えて柵の外に出た。
子供用遊具とはいえ新鮮さも相まって中々に楽しい。
事前に自分が思っていたよりも高揚している事を自覚するアムリタ。
「……よしっ! 次はこれ! 結構並んでるわね、急ぎましょう!」
「ああっ! 待ってください師匠!!」
パンフレットを見ながら早足になるアムリタと、人込みではぐれないように必死に追うシオン。
……そして、そんな二人を少し離れたフードコートで見守る者たち。
「何よ、あんなに楽しそうにしちゃって……!」
「それはそれとして食べ過ぎだよ、トリシューラ」
拗ねまくって三杯目の牛丼を食べているトリシューラを見て、その正面に座っているイクサリアが小さく嘆息した。
もうすっかり器用に箸を使いこなしている褐色の美エルフだが、目の前に積まれた空の丼が彼女の持つ神秘的な雰囲気をブチ壊しにしている。
「悔しさと悲しさでいくらでも箸が進むわ。……貴女は何とも思わないわけ?」
ジト目で見てくるトリシューラにイクサリアはフッと涼やかに笑って肩をすくめる。
「シオンならまあ、しょうがないかな。楽しそうにしているアムリタを見ていると私の心も満たされるよ。彼女の幸せが私の幸せだからね。嫉妬しているようではまだまだだよ、トリシューラ」
「ふんっ、仕方が無いわ。私は独占欲が強いの。そもそも貴女、自分の恋人を姉とシェアするような人ですものね……」
感心したようにも呆れたようにも見える表情で王女を見るトリシューラだ。
……………。
いくつかのアトラクションや乗り物を堪能し二人はベンチで一休みする。
近くの露店でシオンが飲み物を買ってきてくれた。
「……見てくださいよ、師匠、あれ」
コップを手渡しながらシオンが見ている方をアムリタも見ると、大きな看板に例のヒーローと十二人の従者が描かれている。
「右から三番目の紫色のマントの人、あれうちのご先祖様ですよね」
言われて見てみるとシオンの言うキャラは鎧の上に紫色のマントを羽織って杖を持っており、そしてマントには車輪と思しきマークが確認できた。
現在は剥奪されてしまっているがシオンの実家ハーディング家は元十二星『天車星』だ。
その紋章は車輪のもの。
なるほど、それではあの紫色のマントのキャラはハーディング家の祖先がモチーフなのだろう。
……とはいえ、それはあくまでも注意して見てみればというレベルの話である。
波打つマントで柄は大きく歪んでおり見えている部分も半分ほどだ。
それは他のキャラたちも同様であった。
紋章らしきマークを付けている者ばかりであるがそのマークがはっきりと確認できるような描き方はされていないのである。
注視すればそうも見えるかも、といった感じで微妙にぼやかしてあるようだ。
「はっきりそうだとは言えない感じにしてあるわね。それぞれキャラに名前は付けられているけど、どれもニックネームっぽいし、家の話も説明にはないみたい」
パンフレットを眺めつつ言うアムリタ。
「あまりその辺しっかり描写しちゃうと、我が家のように落伍した家もあって気まずいでしょうしね」
シオンの言う通りなのだろう。
半分位の家が今は十二星の地位にいないのだ。
その辺りの家は描写がし辛いのだろうと推測できる。
「という事は……このキャラが私が元いた家のご先祖様っぽいわね」
アムリタが指差したキャラは黒いマントに金色で炎の輪らしきものが描かれている。
炎の輪の紋章はアムリタがかつていたカトラーシャ家の紋章である。
………………。
休憩を終えて散策を再開するアムリタたち。
園の奥に進むにつれて、アトラクションや遊具はいよいよ悪しき支配者『狂王』と初代王たちの対決をテーマとしたものになっていく。
「『魔道王アルヴァ・オーグ』……ですか。狂王ってそういう名前だったんですね」
迷路のアトラクションを出たシオンが何やら感心している。
それは狂王と呼ばれた恐るべき独裁者『魔道王アルヴァ・オーグ』が作り出した魔法の迷宮でそこを初代王と仲間たちが突破するというテーマの迷路施設であった。
「私も初めて聞いたわ。教科書にも載っていないし、どんな本でも見た事がなかったけど……」
アムリタも少なからず驚いていた。
王国には狂王の本名も、そして彼が治めていたという以前の国の名前も伝わっていない。
一説によれば初代王は自分の国を建てた時に悪しき時代の記録は残さないと当時が窺える資料になるようなものは全て破棄したのだという。
だから現代に生きるアムリタたちには独裁者は「狂王」という呼び名でしか知る事はない。
「架空の名前なんですかね? 一応そういう名前にしておこうかっていう感じで」
「どうなのかしら。それなら狂王は狂王でいいと思うんだけど」
主役である初代王モチーフのキャラや十二人の従者たちは微妙にぼやかした表現にしておきながらその敵役である魔道王は妙に詳しく描写してきた。
そのギャップもなんだか不思議だ。
「多分、さっきの十二星の話と一緒で現在も残っている家の事はあんまりしっかり描写しにくいけど滅んでしまっている狂王側ならどう表現しようと自由だから、それでじゃないかしらね」
「なるほど、確かにしっかり出してくれたほうが倒すべき相手としてイメージしやすくて盛り上がりますからね」
うんうん、とシオンはアムリタの説明に納得している。
思った事をそのまま言っただけなのだが、何だか話しているとアムリタ自身それが正しい理由な気がしてくる。
「『魔法国グローヴェルド』ですか。国の名前もしっかりと」
看板を見ているシオン。
狂王と呼ばれている独裁者、魔道王アルヴァ・オーグ……彼が治めていた国は魔法国グローヴェルド……このパークではそうだという事になっている。
いずれにせよ、それが正しいのかそうでないのかも自分たちには確認する手段もないのであった。
………………。
太陽は西の空、周囲はすっかり茜色だ。
遊び倒して二人がゲートを潜ってパークの外へ戻ってくる。
「……遊びまくったわね。世の中の若い人たちはこういう日々を過ごしているのか。うらやめばいいのかその体力におののけばいいのか迷うところだわ」
「楽しかったですね……! 私、いつか死ぬ時が来たら走馬灯は全部今日の光景でいいです!」
物騒な喜び方をしているシオンにアムリタが苦笑する。
そんな彼女たちの前に一台の自動車が停止した。
「楽しめたかい? お姫様方をお迎えにきたよ」
運転席の窓が開くとそこにいるイクサリアが二人を見てウィンクを投げた。
「来てくれたの? ありがとう……って」
後部座席のドアを開けて助手席にいるトリシューラに気が付くアムリタ。
なんだか涙目で睨まれている。
……これはあれだ。
嫉妬だ。実にわかりやすい。
「と、トリシューラ様も今度一緒に行きましょうね」
取り繕うようにどもりながら言うアムリタに無言でうなずくトリシューラである。
二人が乗り込むと車は蒸気を噴いて走り出す。
「当たり前ですけどあれだけ回っても全然制覇までは遠いですね」
パンフレットを眺めて今日の日を反芻しているシオン。
結構早足で回ったつもりでも二人が今日体験できたのは全体の二割程度である。
「そうね。また来ましょう。大勢で来るのも楽しそうだわ」
そう言ってアムリタは微笑んだ。
……………………。
…………結論から言えば。
アムリタがこのテーマパークを訪れるのはこの日が最後となった。
これから彼女と仲間たちは最後の戦いへと身を投じる事になる。
王国の終焉のきっかけとなる戦いだ。




