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ヘンな十二星

 遊びに行くための新しい服を求めて街を彷徨っていたアムリタ。

 彼女がふと自分の服装のセンスに疑念を持ったその時、彼女の前にエウロペアとエリーゼの二人が現れたのであった。


「……よ、よかった! いい所で会えたわ、二人とも!」


 砂漠のオアシス、闇夜の光明。

 二人を見て目を輝かせているアムリタ。


「アムリタじゃん。こんなとこ一人でフラフラして何してんだし」


 もしゃもしゃとソフトクリームのコーン部分を食べているエウロペア。

 その隣のエリーゼはアムリタに挨拶をしつつも若干居心地が悪そうだ。

 エリーゼにしてみればアムリタは養父レオルリッドを巡る恋のライバル……勝手に認定しているだけだが。

 しかも自分は今、食べ歩きと言うあまりお行儀が良いとはいえない状態である。

 レディとして少々はしたない姿をライバルに晒してしまった。


「あのね、私服が……新しいお洋服が欲しいのよ。でも、ちょっと、なんていうか……私自分の服選びに自信が持てなくって。よかったら二人も見てもらってあんまりにも私が『それはないわ』っていうのを選んでたら注意してほしいの」


 二人を拝むようにして頼み込むアムリタ。

 十二星とは思えない腰の低さだ。


 ……というか、そもそもこの人は一人で街中にいていいような立場の人ではないだろう。

 そうエリーゼは思った。

 アムリタと同じく十二星である養父レオルリッドも王宮内では人を引き連れて歩くことを好まずに一人で行動する事が多いのだが、流石に街に出る時は大体数名の従者や護衛が付く。


「ふ~ん? ……だってさ、エリーゼ。どする?」


「は、はい? ええっと……」


 いきなりエウロペアに話を振られてエリーゼは動揺した。

 どうするのかは彼女が決めてくれるのだと思っていたのだが、このメイドはメイドで同行者に気を使ったようだ。

 普段は大体彼女が何をするかを決めて自分の手を引いていってくれるのだが……。


「私は……別に構いませんが」


 精一杯に大人ぶってそう言った。

 何故自分がライバルの服選びを手伝わなければいけないんだ、とも少しだけ思わなかったわけではない。

 でもここで申し出を断るのは逃げたような気分になり落ち着かない。


「エリーゼもいいって言ってるから、しょーがないんで付き合ってあげるじゃんね」


「ありがとう……!! 二人とも、ちゃんとお礼はするからね!!」


 子供の様にアムリタは無邪気に喜んでいる。


(なんなんだろう……この人。とっても偉い人なのに。人を手配するのもお金だって、何だって思い通りになるはずの人なのに……)


 釈然としないエリーゼ。

 そもそもが服が欲しいのなら衣料品店の責任者を呼び付けていくらでも屋敷へ持ってこさせればいいのだ。

 それを何で一人でこんな所まできてオロオロしているのだろう?


 ……そして、自分の姉ような友人エウロペア。

 何故彼女は十二星のアムリタに対してこんなに気軽な感じで接する事ができるのか。


「お知り合いだったの……?」


 恐る恐ると言う感じでエウロペアに聞いてみる。


「ん? アムリタ? ……うん。ウチのトモダチじゃんね」


 そう言ってメイドはあっさりと肯いた。

 言われたアムリタはといえば。


「あはは、そう思ってくれているのなら嬉しいわ」


 ……と、否定もしない。

 どうもこのメイドは自分が思っていた以上の大物であったようだ。

 改めてエウロペアへの尊敬の念を強めるエリーゼであった。


 ……………。


 そんな訳で、アムリタたちは王都の大型百貨店へとやってきた。

 詳しく話を聞いてみればアムリタは正装ではなく遊びに行くためのカジュアルな服を欲しているらしい。

 それなら高級な専門店に行くよりもこっちの方がいいとエリーゼが進言したのである。


「ふわぁ……」


 衣類関連のテナントが軒を連ねるフロアで圧倒されたように立ち尽くすアムリタ。


「今はこういう所で皆お買い物するのね。何だか異世界に迷い込んだ気分だわ」


 地方からやってきたばかりの者のような事を言っている十二星。

 ……とはいえ、聞いたところによれば彼女は五年間遠方の国にいて帰って来てそれほど時間は経っていないらしい。

 それならばこういう風景に馴染みがないのも無理はないのかも、とエリーゼは考える。


「ここで選べばあまり堅苦しい感じにはならないと思いますよ。お店は沢山あるので帽子はこの店、靴はこの店とかバラバラに買ってもいいと思います」


 エリーゼが説明するとアムリタはふんふんと真剣に聞き入っている。

 相手は十近く年上であるはずなのに、なんだか後輩と話しているような気分だ。


(そもそもこの人、成人しているようには見えないよ……)


 密かに訝しむ様にアムリタを見るエリーゼだ。

 彼女は知らないのだ。アムリタは現在二十三歳であるが肉体年齢は十八歳前後のまま変化していない。


 三人が各店を回りながら服を選ぶ。

 アムリタが希望したようにアドバイスをする二人。

 といってもメイド服が至高というセンスのエウロペアの意見はイマイチ当てにならない。

 服のセンスがないというのではなくTPOの概念が全くと言っていい程エウロペアにはないのである。

 平気で喪服や水着を薦めてくる。

 そういう訳なので必然的に服選びの参謀役はエリーゼになる。

 いくら心のライバルとはいえ根は善良で生真面目なエリーゼは依頼主の要求に全力で応えるべくぱたぱたと走り回って頭をフル回転させた。


 ……そうして、アムリタはデート用の衣装一式を無事に揃えることができたのだった。


(年齢を考えると子供っぽいかもしれないけど、これが似合っているのだからしょうがないよね)


 そう思うエリーゼだったが当然のように空気を読んで黙っていた。


 ……………。


 買い物を終えた三人は同じ百貨店内のレストランに入った。


「助かったわ、二人とも。何でも好きなものを食べてね」


 買い物の礼としてアムリタがご馳走してくれるらしい。


「あ、でも私は……」


 表情を曇らせたエリーゼ。

 屋敷で食事は用意してくれているはずなのだ。ここで食べて行くわけにはいかない。


「エールヴェルツのお家にはもう連絡をしてあるから大丈夫よ」


 笑顔のアムリタが言う。

 驚くエリーゼ。いつの間にそんな手配をしていたのだろうか。

 街でばったり行き会ってそれからはずっと一緒だというのに、そのような仕草はまったく見られなかった。

 恐らく買い物の途中で自分の目が離れた僅かな間にそうしたのだろうが……。


 ありがとうございます、と頭を下げてエリーゼはメニューに視線を落とす。


「とりあえず、このページとこのページに乗ってるの全部貰うじゃんね」


 そして遠慮なく思い切り注文しまくっているエウロペア。

 ドン引きしているウエイトレスにアムリタが言う通りにしてあげてください、とやはり柔らかい笑顔で頭を下げていた。


「……………」


 その振る舞いにやはり違和感を覚えるエリーゼ。

 彼女は今日、誰にも自分の身分を明かさなかった。

 自分が何者かを知らない店員に多少無礼な態度を取られてもだ。


「アムリタ様……さんは、どうして十二星として振舞おうとしないのですか?」


 様付は買い物の途中でやめるように言われていたのを思い出す。

 疑問をそのままぶつけてみると彼女は少し困ったように笑う。


「根が平民だからかしらね? 落ち着かないのよ、貴族様って持ち上げられると。公の場では仕方がないけどプライベートな時はもう少し気楽に過ごしたいわ」


「だけど……不便じゃありませんか?」


 何でも思い通りになるはずの身分の者が、あえてそうしようとはせずに本来しなくてはいいはずの苦労をしている。

 自己満足なのだろうが、それにしても変わっていると思う。


「不便な事もあるわね。……でも、楽しいわよ? 不便なのも」


 それでもやっぱりアムリタは穏やかに暖かく微笑むだけであった。

 彼女のその表情を見て、エリーゼはやっぱりこの人は大人なのだと思った。

 ヘンな人で考えている事は正直よくわからない部分も多いけど、あの微笑みは外見ほどの年齢の子供にはできない何というか……奥深さというか、経験からくる人格の重厚さのようなものを感じるのだ。


 やはり彼女は自分が思っているよりもずっと大人だ。

 そういう所に養父は……レオルリッドは惹かれたのだろうか。


「ちょっとお代わりお願いするじゃんね。これとこれとこれをもう一つずつ、あとこのページのやつ全部持ってきて」


 ……そんな悩めるティーンの隣で遠慮なくバカスカ食べているエウロペアであった。


 ───────────────────────────────────


 本日は快晴。

 晴れ渡った綺麗な青い空にポンポンと白煙を放つ花火が上がっている


 パークの大きなゲート前にアムリタとシオンがやってきた。


「こんなに大きいんですね。街の公園に毛が生えたような感じでちょこちょこ遊具が置いてある感じなのかと思いましたよ」


 驚いているシオン。

 彼女はデニムのズボンにジャケット姿。

 ボーイッシュでカジュアルなスタイルだ。

 長い髪は今日はアップに纏めている。


「十二星様が気合を入れて建てた施設だからね」


 アムリタはベレー帽にスカートで若草色のカーディガンを羽織っている。

 先日エリーゼたちと買ってきた服だ。


「これは……ちょっと一日で回り切れそうもないですね」


 奥の方を見やるシオンであるが、当然ここからではせいぜいが入り口周辺を眺める事しかできない。

 園内はかなりの広さだ。

 単に歩いて一回りするだけでもかなりの時間がかかるだろう。


 ゲートにはデフォルメされたデザインの王冠を被り剣と盾を手にした男の子のキャラを中心として、様々な恰好をした十二人が描かれている。

 建国王と初代十二星をモチーフににしたキャラなのだろう。


「そうとなったら急がなくちゃ! 行きましょう師匠!」


 アムリタの手を引いてゲートに向かうシオン。


「あはは。今日見れなかった分はまたくればいいじゃない」


 アムリタも笑顔で彼女に引かれていく。


 楽しそうな二人。

 そんな彼女たちをやや離れた場所から追尾する何者か……。


 フードの付いたローブを目深に被った褐色の肌の女性。

 有体に言えばトリシューラである。


(別に私は二人が羨ましくて後を付けているというわけではないわ。アムリタにもしもの事があったらと思って密かに護衛をしているというだけで……)


 誰に向けたものかもわからない言い訳を脳内でしている征天戦神。

 そんな彼女が誰かにぶつかりそうになる。

 ほっかむりをして鼻の下に結び目を作っている何者か……。


 有体に言えばイクサリアである。


「………………」


 お互いに人目を忍ぶ姿で顔を合わせ、双方無言になる二人であった。

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