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神秘の森の正体

 数奇な人生を生きる十二星(トゥエルブ)楽園星(アガルタ)』のアムリタ・アトカーシア。

 恋人である王女イクサリアとの交際を正式に認める条件として王家が彼女に課した試練は、数百年の間人類との交流を拒んでいるエルフ種族との国交の樹立であった。


 この難題に挑むために彼女は選び抜いた精鋭たちとエルフの秘境『蒼玉の森(サファイアフォレスト)』を目指す。


 同行者は『無限星(インフィニティ)』の十二星にして二刀流の剣帝、大作家にして冒険家の属性盛りすぎお爺ちゃんウィリアム・バーンハルト。

 そして東方から来た糸目のメイドさん。家事は万能、隠密諜報の達人。多種多様の傀儡を使いこなす人形使い不知火マコト。

 さらには家事はそこそこ手先は不器用。頭の回転は速いが感情的になってよく失敗する。餌付けするとまあまあ言うことを聞くようになる声のデカいメイド。ピンクのツインテール、エウロペア。


 出発に先駆けてロードフェルド王子を訪問して彼から親書を受け取る。

 ……どういうわけだか王子は死人のような顔色でアムリタは何度も謝られた。


 友人知人たちに声をかけてささやかながら壮行会のようなものが開かれそして一行は王都を出立した。


 六百数十年……建国以来の断絶を乗り越えて王国とエルフ種族は国交を結ぶことができるのであろうか……。

 とんでもなく大きな使命を帯びたアムリタの新たな旅が始まろうとしている。


 ……………。


「そこで私はその大きななめし革を大層気に入ってね。購入してしばらくマントにしていたのだが、後でわかったがそれは巨大なイタチの玉袋の皮でね。私はイタチのキンタマを着込んで自慢げに練り歩いていたというわけさ」


「……あっはっはっはっはっはっはっは!」


 道中、馬車の中で昔話を披露するウィリアム。

 聞いているエウロペアが腹を抱えて爆笑している。


 このように馬車での旅は老冒険家の巧みな話術で和やかな雰囲気のままアムリタたちは『蒼玉の森(サファイアフォレスト)』に到着した。


 神秘の森の前に立つアムリタたち。

 ここまで来るとさすがに一同に何とも言えない緊張感が漂い始める。


「ここが数百年間に渡って人が立ち入ったことのない森というわけか」


 ……そんな中で比較的普段通りな様子のイクサリア。


「いいや」


 だがウィリアムは王女の言葉に首を横に振った。


「入るな、と言われれば人は入りたくなるものなのだ。それが重大な禁忌であるとしてもね。……私の知る限りこの数十年で何人かこの森に入った者がいる」


「……その人たち、どうなりました?」


 アムリタの声が心なしか沈んだ感じになっているのは、それに続くウィリアムの返答をある程度予測できているからだろう。

 老冒険家は静かに首を横に振る。


「残念ながらわからない。……戻ってきた者がいないからだ」


「……………」


 やはり……と渋い表情になるアムリタだ。


「こんなトコでくっちゃべっててもしょうがないし。パッパと入ってチャッチャと用事済ませて帰るじゃんね」


 ほらほら、とエウロペアが皆を手招きしている。

 ひょっとして皆ちょっと緊張している? と思っていたがそうだったのは自分だけなのかもしれないと思い始めているアムリタだ。


「そうね。もじもじしていようが私たちのしなきゃいけない事は変わらないのだし、行きましょう」


 肯いて皆と共にアムリタが森へと足を踏み入れる。


 その内部は……。

 特別他の森と何か変わった様子はなかった。

 嫌な雰囲気が漂っているとか、得体の知れない生き物の鳴き声が聞こえるであるとか……。


 若干拍子抜けするアムリタだが、まだ入ったばかりだ。

 ……これから何があるのかはまだわからない。


 しかしそんな彼女の警戒心や不安とは裏腹にやはり困難や障害らしきものに遭遇することもなく、二時間近く歩いた一行は恐らく森の中心部地点であろうと思われる場所に到着してしまった。

 ここに至るまで途中でエルフが生活しているような痕跡は一切なかった。

 やはり……この森にはエルフはいない。


 森の中心部は開けた円形の空き地になっており環状列石(ストーンサークル)がある。


「さて、いよいよだぞ諸君。神秘の森の真実とご対面といこうか」


 ふっふっふ、とウィリアムが不敵に笑っている。


 慎重に環状列石に近づいていくアムリタたち。

 すると、どこからかリーンという鈴が鳴るような綺麗な高い音が聞こえた。


「……!!!」


 列石の中心部分の景色がぐにゃりと歪んだかと思うと空中に光る渦が発生する。


「先生……!」


「うむ。これこそがこの森の正体というわけだ。私は過去にここではない場所でこれと同じものを見たことがある。どこか別の場所へ繋がっている転移門(ゲート)。……この先が真のエルフたちの住処ということだろうね」


 次元の扉を前に思わず硬直してしまうアムリタ。


 ……これに入れと?

 エルフ以外が入ったらひき肉になるとかないでしょうね、と訝しみつつ。


「……まぁた固まってるし。モタモタしてるんならウチが先に行くじゃんね」


 嘆息しつつそう言うとエウロペアは光る渦に向かって躊躇せずにスタスタと歩いて行ってしまう。

 そして、渦に向けて片手をかざすとひゅるん、と吸い込まれて消えてしまった。


「エウロペア……!」


「おやおやせっかちなお嬢さんだ。では二番手を貰うとしよう」


 同じように手をかざしウィリアムも渦に吸い込まれて消えていく。


「……………」


 マコトがアムリタたちに向かってどうぞ、というように促すような仕草をした。

 彼女が殿(しんがり)を務めるという事らしい。


「アムリタ、行こう」


 微笑んだイクサリアが手を差し出す。

 肯いたアムリタがその手を取る。


 そして、二人は光る渦に向かってそれぞれ繋いでいない手を伸ばし光の彼方へと消えていくのだった。


 ────────────────────────────


 視界が真っ白に塗りつぶされて目を細める。

 ようやく眩しさに慣れてきた頃、アムリタは頬を撫でていく風を感じていた。


「……………」


 ゆっくりと目を開くと、そこには……。

 目の前に広がっているのはどこまでも続く草原である、

 今自分が立っているのは石造りの四角い舞台のようなものの上で、丘の上に建造されているものであるらしい。

 石台からは幅の広いやはり石造りの階段が伸びていて、ウィリアムとエウロペアはそこを降りた場所にいた。


 二人とも同じ方向を……アムリタからすると背後の方を見ていて二人とも動かない。

 アムリタも振り返って二人と同じ方向を見て……。


 そして絶句して硬直してしまった。


 ……巨大な白亜の都がある。


 白と金色を基調としたカラーリングのとんでもなく大きな都市だ。

 二百万人が暮らしているとされる王都よりもずっと大きく見える都。

 少し離れた位置から臨んでいるというのにその都の端がどこであるのかここからでは視界に納めることができない。


「うわぁ……これはとんでもないね」


 大概ものに動じることのないイクサリアも流石にそんな感想を漏らしている。

 言葉ほどには驚いているようにも見えないのが彼女らしいといえば彼女らしいのだが。


 石舞台の上のある空間がぐにゃっと歪んで見えたかと思うとそこに大きな葛籠を背負ったマコトが現れた。


「いやはや、絶景っスねえ」


 早速都に気が付いた彼女も感嘆の声を上げている。

 とはいってもやはり彼女も言葉ほど驚いているようには見えない。

 一同がしばしの間巨大な都に圧倒されていると……。


「……おい、お前たち!」


 突然空中から声を掛けられて上を見上げるアムリタ。


 二人……こちらに向かって飛んでくる者がいる。

 その二人はアムリタたちの近くまで飛んでくると空中で直立したような体勢で制止して一行を見下ろした。


(……エルフ!!)


 二人はどちらも男性であり、人でいえば二十代から三十代くらいの年齢の外見であり、顔立ちは整っていて尖っていて長い耳を持っている。


 兵士なのか……装束も一緒だ。

 胸部と肩、そして肘から手に掛けて……それから腰部と膝から足までに金色の金属の装甲を着けている。

 それ以外の部分は純白でゆったりとした布の服だ。

 白と金……都と同じカラーリングである。

 頭部には金環を装着して二人とも金色の長槍を手にしている。


 一際目に付くのは足に付いている車輪だ。

 足首の側面にある直径40cm前後の金色の車輪。

 それが高速で回転している。

 彼らが空中に浮遊しているのはその脚部装甲に付いている車輪のお陰なのだろうか……?


 二人の空飛ぶエルフ兵士たちはアムリタたちに向かって怪訝そうな視線を向けていた。


「何故こんな所にいる? 今日は越境者(ヴェルト)がいるなんて報告は受けていないぞ」


「……んん? いや、待て!! こいつら……人間か!!?」


 エルフ兵士の一人がそう叫ぶと二人の表情が一気に険しいものとなった。

 上空で槍を構える二人にアムリタたちも地上で身構える。


「本当だ、人間だ……。ったく、どこの馬鹿だ。奴隷を逃がした奴は!」


「ああ。最近奴隷の管理も満足にできない奴がいるとは聞いていたが、嘆かわしいことだ」


 友好的とは真逆の雰囲気で冷たい視線を向けてくるエルフ兵士に対してイクサリアは大げさに肩をすくめる。


「素敵な呼び名だね……。やれやれ、前途は多難だ」


「奴隷って……ここだと人間は奴隷なの?」


 肩を落として泣きそうになっているアムリタ。

 困難な任務であるかもしれないと覚悟はしてきているが……それにしても少しばかりベリーハードモード過ぎないかと誰に向けたらいいのかもわからない文句を頭に思い浮かべて。


「しょげている暇はないぞ、アムリタ。君がどうするのかを決めなさい。リーダーとしてね」


 ウィリアムの言葉にアムリタがハッと顔を上げる。


 ……そうだ。自分が連れてきたのだ。

 彼の言うとおりだ。凹んでいる暇など自分にはない。

 頭上のエルフ兵たちのの対処をパーティーの長として決定しなくてはならない。


 選択肢その1……無抵抗。彼らの言うとおりにする。従う。


(これは……ダメそう。何しろ最初から奴隷扱いだもの。その後も何か言おうにも聞く耳をもってくれなそう)


 選択肢その2……徹底抗戦。殺ってしまう。死人に口なし。


(これもその後を考えるとダメそう! 確実に拗れる!!)


 ……だとするのならば。


「応戦します!! ただし可能な限り相手を傷付けずに無力化して!!!」


「……了解だ!」


「お任せっスよ!」


 上空を指さし叫んだアムリタに応じて飛び出すウィリアムとマコトの二人であった。



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