「有給申請」という名の「怪文書」
ご無沙汰しております。先日は「秋定与太話・拡大版」などという「身の程知らず」にも程があることをやらかした秋定弦司です。
アレに関しては、本作が「第五版」まで行った「区切り」として書かせていただきました。
ほら、最近でこそ見なくなりましたが、かつてのアニメ番組では「~スペシャル」とかという内容で普段(だいたい30分)よりも長時間(約1時間)の番組を流すってありましたでしょう?そんな感覚でした。
(アホ言うな!そんな感覚で言ったらあんなモン「劇場版」レベルじゃボケ!反省文書け!反省文!)
知りませんがな!そんな事言われても……。とりあえず、今回からは「しばらく」元の超ショートショートに戻しますから勘弁してください。
(「しばらく」だぁ?お前またよからぬこと考えてるだろ?正直に言うてみぃや)
……さぁ、何のことでしょうかねぇ(すっとぼけ)。
まあバカ話はこのぐらいにして、今回は「不謹慎」かな?と思いつつ作品にしてみました。(そもそも拡大版含めて全部不謹慎レベルだろうが!)
(ガン無視を決め込んで)それでは、「秋定与太話第六版」開幕です!
どうぞご覧あれ!
飾磨県明石郡某所より
秋定 弦司
(お前さぁ、もうひょう……期待するだけ無駄だわ)
大沢の勤め先では、有給申請の際に理由を書く必要はない。たまにマメな人が「私用」と書くぐらいだ。上司への報告はもちろん必要だが、「事後報告」でも特に何も言われることはない。
しかし、大沢の有給申請にだけはその面倒な内容に労務管理関係者一同が頭を抱えていた。「(理由)のため(目的地)に行きます」までなら「あ、そうなの。」ぐらいで済むが、「自宅でゴロゴロします。」というどうでもいい理由まできっちり書いてくる。
「自宅で~」なんかいらないでしょうに。バカ丁寧にも程があるわ!
そんな大沢が、有給申請を出してきた。最初事務員は「また面倒くさいモノを……」ぐらいにしか思っていなかったが、理由欄がいつもとは違った。
「さがさないでください」
との一言だけだった。
ふだんの大沢のクソバカ丁寧な申請と違いあっさりとした理由もさることながら、その内容があまりにも不穏過ぎる。当然職場では大騒ぎになった。上司、事務員で目を合わせて
「あいつ何か悪いモノでも食ったのか?」
え?心配するのそこなの?
そんな事になっていることなどつゆ知らず、大沢は「有給申請出してるから文句はないでしょ」と言わんばかりの態度で電車に乗っていた。しかも朝イチから。
別に仕事のストレスからの気分転換などという「高尚な理由」ではない。
平日の朝イチから電車に乗ったので、当然通勤ラッシュに巻き込まれる。そりゃそうでしょ。文句があるなら指定席特急料金を払えばいいだけの話である。
そんな通勤客の「民族大移動」といってもおかしくないような乗降りの流れを尻目に、大沢は車窓からの景色をアホ面全開で眺め、時々目を見開き、かつ口をパカーンと開けたりしていた。傍から見たその光景は「異常者」にしか見えなかった。
観光客が初めて見る景色に対して「おーっ!」となるのは当然のような気がするが、大沢のそれは明らかに一般の観光客以上だった。
そんなこんなで、車窓からある時は工場やらオフィスビルの中、住宅地、一面の田んぼ、そして林の中と様々な風景を見せながら、トコトコと走っていった。
そうしているうちに電車は目的地に到着した。
かなり昔にそこには行ったことはあったが、その駅は当時とは全く違う光景を見せていた。
「新幹線」の駅がその駅の構内にできたのである。彼も当然その話は知っており、写真も見たことはあったが……デカい!とにかくデカい!ひたすらデカい!……もうええわ!
その大きさに圧倒されつつも、とにかく駅から出るにはどうしようかと迷った。かつてからあった改札口を選んでもよかったのだが、係員が確実にいるであろう新幹線側に向かそれが失敗だった。
新幹線側のコンコースに着くと、思わず「うげぇ」という言葉が漏れた。「遠すぎた橋」ならぬ「遠すぎた改札口」だった……。
仕方なくその遠すぎた改札口をめざしてトボトボ歩いていく途中に別の改札口が見えた。早速改札を出ると誰もいない。そして駅から出ると、やはり誰もいない。
あるのは綺麗に整備されたタクシー乗り場とその向こうに見える小川だけ。
まあちょうどいいと一服し、市街地のある反対側の改札口に出ようにも相当の距離がある。復路の乗車券は持っているものの、反対側の改札口でその切符を見せてあれこれ説明するのも面倒くさい。ならば「入場券」を買って構内に入ればいい。色々と説明する手間を考えれば入場券の料金など安いものである。
そうして反対側の市街地に出てみれば、少し観光客の多い普通のそれだった。「少し」とは言っても明石の観光客に比べれば多いのだが。しかも「平日」である。休日はもっと観光客も多いだろう。
あと「本当の」ビジネスホテルが増えた。「ビジネスホテル」と銘打ちながら、いざ足を運んでみるとそこには「ご休憩」と書かれた……もういい!
とにかく市街地を少しブラブラしていると、ちょうどお腹も空いてきたので……と思ったが、みんな考えることは同じで、どこの店も満員。
仕方ないと思い、改めて空いてそうな店をさがしていると、そこには「コンセプトカフェ」という、明石では聞いたことのない店が。
その看板をみると「どう見てもメイドカフェやんけ!」と思ったが、何らかの事情でそれを名乗れないのだろうか……知らんけど。
結局そのまままっすぐ帰ることにした。ただし電車に乗り遅れて約1時間ホームのベンチでアホ面を晒して次の電車を待つことになった以外は。とにかく自宅にたどり着くことができた。「明石のバーサーカー」と呼ばれる大沢ですらヘトヘトになっていたが……。
翌日勤務先に行くと早速上司から呼び出された。
「お前何だあの有給申請の理由は!」
「いやぁ適切な言葉が思い浮かばなかったんですよ。」
「アホか!もう少し『書き方』ってあるだろうが!か・き・か・た!」
「じゃ何ですか?いちいち旅程まで書かなきゃいけないんですか?」
「『私用』でいいんじゃ『私用』で!」
「そんなの面白くないじゃないですか。『仕事を休んで平日に旅行する背徳感と優越感を味わいたかった』って書くのが面倒なんで簡潔にしたんですよ。あ、ところでこれ経費で落ちません?」
と差し出されたのは乗車券の領収書、そして「山吹色のお菓子」とその領収書だった。
「こっ、このアホンダラぁっ!」
そんなやり取りの後、大沢は机に向かって黙々と「反省文」を書いていた。
周囲の笑いをこらえるのに必死になっている目線を一身に浴びながら……。
今回も私のつまらない「与太話」にお付き合いいただきありがとうございました。
このシリーズ、回を重ねる毎に「これ不謹慎じゃないのか?」と思うところはありまして、本作も原題は「さがさないでください」だったのです。
内容はともかく、「報い」という「人命にかかわる冗談だけは絶対にするな!」と言った同じ口でこんなタイトルにするか?という自分の中でも「それだけはアカンだろ」と思い、タイトルを変更しました。
さて、この話ですが元は同僚との「軽い冗談」から始まりました。
私の職場では、休暇、休日出勤などの勤怠管理をスマートフォンでもできるようになっており、その中で「有給申請」も対面ですることもなく出来るようになりました。
確かに使用者側、労働者側のお互いに労務管理は便利になったのですが、その反面こういったこともできてしまうという、「便利さの中にある不便」を私なりに皮肉を込めて書いたつもりです。
こんな話を実行すれば、当然上司から電話なり対面で説明を求められ、理由を説明すると当然「おしかり」を受けることは理解しています。
「寒いので休みます」、「暑いので休みます」レベルの冗談では済まされないでしょう。
長々と言い訳を書き連ねましたが、本作内容についてのお話をさせていただきます。
この話は先述の同僚との会話の中で、同僚も別の方向に「有給を取って日帰り旅行をした」という話から、「それじゃ私も有給を取って別の方向に日帰り旅行に行ってきます。」という話に発展しました。そこからこの話は生まれました。
結構実体験が入っています。最後の大沢の「背徳感と優越感」は私も持っています。とはいえ、「労働者の権利とはいえ業務に穴を開けた」という「罪悪感」も持っていますが。
最後なのでネタばらしをしますが、この話は「敦賀駅」を中心に私の実体験(「琵琶湖一周日帰り旅行」)を基に書きました。
「琵琶湖一周~」だけでも「ショートショート」レベルの話は書けそうな気はしますが、このシリーズの「コンセプト」から外れると思いますので、気が向けば書こうかな?ぐらいのお話になりますが。なにせ優先順位としては並行作業で執筆中の「私は送迎介助員」をまず書かなければなりませんので、その「息抜き」レベル、もしくは「私は~」の「スピンオフ作品」になるかと思います。
(あと、話中に出てくる「山吹色のお菓子」は実在します。一度検索してみてください。)
それでは、またご縁がございましたら、その時は何卒よろしくお願い申し上げます。
改めて、私のつまらない「与太話」にお付き合いいただきありがとうございました。
秋定 弦司