言の葉(短編小説)「声の先」
私は生まれつき音を知らない
幼少期から、金魚のように口を動かしている両親を不思議に見ていた。
パパの肩を叩くママ。
そのままを見て俯くパパ。
涙の理由も保育園に入るまで分からなかった。
保育園に行くと、金魚の数は増えた
楽しそうに口を動かし合う。
誰も私には声をかけなかった。
その事実を知るまでは他人事だった。
私は普通ではなかった
みんなが口を動かすのは会話をしていた
私には会話はできない
声が出ないから。
聞こえないから。
ママを泣かせたのは私だった。
パパを俯かせたのは私だった。
その事実を知り、私は家から出れなくなった。
この無音の世界から出してくれたのは……。
ラッキーだった。
初めての犬。
ふわふわのしっぽと毛をして、言葉は通じないのに、心で通じた。
私は暗闇から抜け出せた。
それから、手話を覚えた。
そしたら、世界は広がり相手の言葉がわかる。
私の明日は
無音の中の光が見えた。
ラッキーとパパとママ。
今では友達ができた。
諦めは簡単。でも、努力は明日を産む。それを私は大切に生きていく。