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7.フェンリルのノリ

 目を覚ますと、鳥のさえずりが耳に届く。

 窓の隙間からの日差しで、朝を迎えたことが分かった。

 身体の調子は昨日よりもずっといい――というか、やっぱり夢とかそういうのでもなく、ミリシャは完全に生き返ったらしい。

 まあ、死んでいたら夢なんて見られないだろうけど。

 ちらりと、視線を横に向けると、昨日と同じように美少女がミリシャの隣で眠りに就いていた。

 服は身に纏っておらず――ミリシャも今は裸のまま。

 肌寒さは感じないけれど、やはり全裸でいるのは恥ずかしいというか、落ち着かない。

 一応、服を何も着ないでルマの傍にいた方が、ミリシャの状態は安定するらしい。

 言われた以上は従うしかないし、ルマが噓を吐いているとも思わない。

 ――わざわざミリシャを生き返らせて、裸で抱き着きたいだけなんてことはさすがにないだろう。


「すぅ……」


 ルマはまだ、小さな寝息を立てている。

 昨日はすぐに起きたけれど、今日は安らかな寝顔を見せてくれていた。

 人の姿ではあるけれど、お腹をしっかりミリシャに見せている――これは、信頼の証ということだろうか。

 正直、ミリシャはルマのことはまだ全然よく分かっていない。

 分かってはいないけれど、昨日少し話した限りでは、間違いなく人間とは感覚が違う。

 時間に関する考え方は年単位でもそれほどかかっていない、という感じだし。

 まあ、魔法を極めた者の中にはそういう考え――いわゆる、不老不死に近いような者もいると聞いたけれど、ミリシャは見たこともないし噂程度だとは思っている。 

 まずは、ルマを知るところから始めよう。

 それとなく、ルマの髪に触れてみた。

 フェンリルの姿をしていた時は、毛並みを言葉で表現するならば『ふわふわ』で『もふもふ』だった。

 失礼な言い方になるかもしれないけれど、どんな高級クッションよりも質のいい……そんな感じ。

 逆に人の姿だと、さらさらとしていて触り心地はいい。

 普段から手入れをしている、とは言っていたけれど、きっと人の姿の方も同じなのだろう。 

 肌だって綺麗で、同じ女性でも思わず見惚れてしまうほどだ。

 さすがに肌に触るのはまずいだろうか、触れそうになったところでピタリと手を止める。

 自然と髪を撫でていた手が、下の方に動いてしまっていた。

 ――一体、何をしているのだろう。


「……撫でてくださらないのですか?」

「……!? へ、起きてたの!?」


 突然、ルマの声が耳に届いて心臓が高鳴る。

 うっすらと目を開けて、いつの間にか彼女はミリシャの方を見ていた。


「直接触れていただいているんですし、目くらい覚めます」

「ご、ごめんね。せっかく寝てたのに……」

「? 何故、謝られるのです? むしろわたしは、撫でてくださって嬉しく感じました」


 そういうルマは確かに嬉しそうな表情を浮かべ、呼応するように尻尾をぶんぶんと動かしている。

 彼女の感情は、特に尻尾の方に出やすいのは間違いない。

 ルマはごろん、と仰向けになった。

 完全に素肌や大事なところも隠していないために見えてしまっている――思わず、ミリシャは視線を逸らす。


「もっと、撫でてくださいますか?」


 ルマはそう、求めるように言ってきた。

 さすがに美少女の姿の、それも全裸の女性を撫でるというのは――ミリシャにも抵抗がある。

 だが、彼女は明らかにミリシャが撫でるのを待っている。断ればそれで納得してくれるのだろうけど、撫でて喜んでくれるならやった方がいいだろう。


「えっと、こう……?」


 恐る恐る、ミリシャはルマの喉元に触れた。

 人の姿とはいえフェンリル――犬などと同じような扱いでいいのか分からないが、指で触れると自ら頭を上げるようにした。

 滑々とした白い肌。

 ルマは目を瞑ったままミリシャの手にじゃれつくような動きを見せる。

 ミリシャから見て、今のルマは大人びた女性だ。

 そんな彼女が、まるで子供のように甘えてくる――いや、子供でもこんな甘え方はしてこないだろう。

 なんというか、変なことをしているわけでもないのに、妙な気分になってくる。

 胸の鼓動がドキドキと高鳴って感じられた。

 ――まだ、ミリシャの身体は正常ではないのだろうか。


「……ひゃっ!?」


 不意に、手の甲に感じた湿った刺激に、思わず驚きの声を上げる。

 見れば、ルマがミリシャの手を舐めていた。

 ――だが、ミリシャの声を聞いてか、ルマは目を見開いて身体を起こす。


「……っ! し、失礼を! つい、フェンリルのノリで舐めてしまいました……! ど、どうやら寝ぼけていたようで……」


 フェンリルのノリ――そんな言葉を聞いて、ミリシャは思わずくすりと笑ってしまう。

 ルマは焦った表情をしているが、別に少し驚いただけで怒ってもいない。

 彼女がただ、本当に撫でてほしくて甘えているのが分かっただけだ。


「ううん、大丈夫。おはよう、ルマ」

「! ――おはようございます、ミリシャ様」


 昨日の執事モードに戻ったルマと挨拶を交わす。

 ――まだ、お互いに全裸のままだけど。

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