2.恩返し
温かい何かに包まれる感覚があった。
ここが、あの世というところなのだろうか。
真っ暗で何も見えないし、時間の感覚もない。
ずっと長い間こうしていたような気もするし、あるいは一瞬だったような気もする。
――次の瞬間、ミリシャはベッドの上で目覚めた。
「……へ?」
思わず、間の抜けた声を漏らしてしまう。
ミリシャは身体を起こして、腹部の傷へと触れる。
傷跡は残っているが、出血は止まっている。
それどころか、しっかりと治療された痕跡があった。
ミリシャは誰かに助けられたのだろうか。
あの状況で、助けてくれる人がいたのだろうか。
よく見れば、ミリシャは布切れ一枚すら着ていない――完全に裸の状態で、ベッドで寝かされていた。
頭が混乱する中、まだ眠気が強くてベッドに手をつくと、何やら柔らかい感触があった。
ちらりと視線を動かすと、そこには今のミリシャと同じく一糸纏わぬ姿の――犬耳と尻尾が生えた女性がいた。
「え、獣人? 誰?」
この人が助けてくれたのだろうか――というより、どうしてこの人も裸で、しかも隣で寝ているんだろうか。
そんなことを考えていると、女性が目を覚ます。
「あ、お目覚めになられたのですね」
凛とした声をしていて、思わずドキッとしてしまった。
肌も白いが、髪の毛も白。
耳と尻尾も同じ色で、純白という印象が強い。
瞳の色は深い青色で、吸い込まれそうだ。
「あの、もしかして私を助けてくれたんですか?」
「いえ、逆です」
「……逆?」
「わたしが、あなたに助けられたんです」
「……?」
いまいち話が噛み合わないし、意味が分からない。
獣人の知り合いなんていないし、死にそうだったミリシャを助けてくれたのではないのだろうか。
困惑していると、獣人の女性は何かに気付いたように口を開く。
「あ、そうですよね。この姿ではお分かりにならないかと」
「この姿って……」
「では、改めて自己紹介させていただきます。わたしの名前はルマ。五百年前に、あなたに治癒していただいた『フェンリル』です。どうしても、助けていただいたお礼が言いたかったので、先日習得した『蘇生魔法』を使わせていただきました」
「え――えええ……!? フェンリル……それに蘇生魔法って……! え、あの森にいた子犬!?」
「! はい、その子犬です! 犬ではなく、フェンリルなんですが」
開いた口が塞がらないというのは、まさに今のようなことを言うのだろう。
助けた子犬が『白狼』とも呼ばれる伝説の魔獣の幼体で、しかもお礼にミリシャを生き返らせたと言うのだから。
整理がつかない中、ミリシャが思ったことはただ一つ――
(恩返しのレベルが高すぎる……!)