ここからは私の悪あがきっ!
「ん、何だい? アリサ」
振り返るルシファーの口元には、ほんのり笑いかけるように見えた。しかし、その瞳からは一切温かさを感じることができない。いや、ルシファー自身に他人を見下すという意図はないが、周りにはそう感じさせる。
だから、周囲の者は唖然とした。
なぜ、引き留めるのかと。無論、そこでひれ伏しているアレックスまでもが。
「失礼ながらも、申し上げ宜しいでしょうか」
「いいよ、アリサ」
「アレックス様は未だ、万全ではなかったご様子。ここにいらっしゃるまでの道中でお疲れのようでした。なので日を改めて、また試合をするというのはいかがでしょうか?」
「いや、昼間から私に突っかかっていたじゃないか?」
「それは……」
言葉に詰まるも、その通りだった。
何ともお粗末な引き留め方だ。何の根拠もない。でもここで行動を起こさないと、何も起こらない気がしてして――。
そこで、苦し紛れにご令嬢の目を見た。
すると、ご令嬢は何やら分かったかのようにポンと手を合わせた。
「確かに、ここにくるまでの道中、アレックスの体調は良くなかったのかも。ルシファーに立てついていたのも、そう見えないよう隠すためだったんじゃないの?」
「なぜそれを隠したんだい?」
「そんなのおっしゃらなくても、察してくださいな。決闘を申し込んでおいて、こちらの都合で断るなんてできるわけないじゃない」
「はっ、なるほど。そういうことか」
合点が行ったように、ルシファーは頷いた。
「私の方が浅慮だった。なら、尚更ここで休息するといい。では3日後、改めて仕合うことにしよう」
そうして、ルシファーは今度こそ屋敷の方へ踵を返す。
その顛末を見ていて使用人たちも仕事に戻った。
そして去り際に、ご令嬢がアリサにだけ聞こえるようにして耳打ちした。
「ありがとうね、アリサ。これで、3日はここにいられるわ。ルシファーは用事が終わったら、すぐ返そうとするから。ナイスアシストよ」
広場に残ったのは、アリサとアレックスだけになった。
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