ルシファー様は仇敵(友)が欲しいっ!
「そろそろいいお時間です。休憩されてはいかがですか?」
アリサは、タオルをアレックスへ差し出す。
「ちっ」
アレックスは受け取り、力強くタオルで汗を拭いていた。
夕陽が差す中、彼の顔が照らされる。その表情は荒々しく、まるで刃物のように冷たく鋭い。彼の目の奥には、対抗心や執念のようなモノが宿っていた。
対して、ルシファーは涼しい表情だ。汗一つ書いていない。氷のように冷たく、まるで何事もなかったかのような表情を崩さない。
両者の凍るような冷たさが、ぶつかり合っていた。
「全然ダメだね、アレックス。一度も僕に届いていないじゃないか」
「うっせ、まだ始まったばかりだろうがっ!」
上段から垂直に、木剣を振り下ろした。
アレックスが突然、ルシファーに斬りかかった。
「いや、もう届くことはないよ」
振り上げるよりも速いっ!
アレックスの木剣を巻き込むようにして、ルシファーは僅かに腰を下げてから斬り上げた。
「くっ」
アレックスが呻くのも無理はない。
手元からすっぽぬけ、木剣が宙に舞ったのだから。
アレックスが、先に仕掛けたにも関わらずだ。ルシファーの一閃は、それほどに鋭く速い。見てからでも対処できるほどに。
先ほどの幕間だけで、嫌というほど実力差がはっきりしてしまった。
「学園が春休みに入る前だったが……キミが私に突っかかるようになったのは。嬉しかったのだよ、アレックス。挑まれることがほとんどないからね」
そこで、落胆したようにルシファーはか細く息を吐く。
「なのに、これは何だい? 一度も剣が届くことはなかった。せっかく、競い合える仇敵ができたと思ったのに」
特別、ルシファーにアレックスを見下しているつもりはない。
しかし、完璧と言っていいほどの剣技と凛とした立ち振る舞いが、周囲にいる者たちを圧倒している。そんな彼が冷たく見えてしまうことも多々あるのだろう。ほとんどのモノは距離を置き、まるで月のように届かない存在に思わされるのだから。
だからこそ、アレックスも地面にひれ伏したまま何も言えなかった。
それほどに、ルシファーという男が遠い存在なのだと、思い知らされたから。
「しばらくここにいるといい。けど、もう相手にすることはないかな」
ルシファーがアレックスを背に踵を返そうとしたところで――。
「お待ちください、ルシファー様」
アリサは、ルシファーに声を掛けていた。
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