特訓と言えば、心と気を鍛えるものっ!
「あばばばばばば……」
上から降り注ぐ滝の勢いが思った以上に強いのか、アレックスは息継ぎする暇もなかった。アリサに向けて何か必死に訴えかけようとしているが、水の音で声が掻き消さて声が届かない。
「やっぱ修行って言ったら、滝行よね」
「おばばばばば……おおおおお、オ、メェ」
「滝の音が耳に心地いい。環境との一体感というか、自然との調和を感じるわ」
「おめめめめぇ……オメェ、ど、どどどど、どうしてッ!」
「修業とか、特訓とか、滝行が定番じゃない(漫画の世界では)」
「おおおおおお、オメェ、あぼでおぼえてやがれっ!」
(アレックス、うるさない。滝でも清められない粗雑さって何だろう?)
アリサはこの滝行に至った顛末を思い返す。
夜明け。
朝露が庭の芝生からキラキラと零れ落ちる中、アレックスは木剣で素振りをしていた。気迫あふれる声を発し、朝の静けさを破っている。木剣が空を斬る音が、うるさく屋敷に響いていた。
「この時代の人って、朝が早いとは聞いていたけど……全く朝から支度するメイドの気持ちにもなってほしい」
「オメェが朝から稽古って言いだしたんだろうがっ! こちとら夜中から素振りしてんぞっ!」
汗が額から滴り落ち素振りをしている中でも、呼吸を整えて、アリサに食って掛かるアレックス。朝から元気で羨ましいと、アリサはため息をついた。
「だからこっちも準備していったでしょ。特訓の段取りとか準備とか、色々と大変だったんだから」
「……というのか、いいのかよ。オメェ、ルシファーのメイドだろ」
「昨日、ルシファー様に3日間のお暇をいただきました。この特訓のことを話しましたら、快く了承してくださいましたよ」
「相変わらず、ムカつくやつだぜ。アイツ、何か言ってたか?」
「私に一本いれられるくらいには、強くなってきてくれ、と」
そう言った瞬間、空気が凍った。
まるでその場が、アレックスの怒気で圧縮されたように錯覚する。喉から声を出せないほどで、押しつぶされるような感覚だ。
「上等だぜ。その余裕綽々な態度、粉々に砕いてやるっ! アリサ、特訓ってのは今すぐできんのかっ!」
「だからその準備を今までしてたと、そう言ったでしょ。すぐにでもできるわ」
「よっしゃ、気合が高まってきたっ!」
と、アレックスは木剣をブンブン振り回すも、アリサはその肩に手をそっと置いた。
「剣は必要ない」
「ん? どういうことだ?」
「特訓というのは、気と心と体を鍛えるのっ! これから山へ籠るわよっ!」
「オメェ、気でも触れたか?」
アレックスはポカンと軽く殴れ、いざ山へ。
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