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二股宣言!されました。  作者: 春氷
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庇って貰って当然な態度

 マリーアンを庇えば折角否定した姉妹関係の噂が再燃するし気分的にもしたくない。かといって突き放せば頼りにしてすがりついてくる令嬢を袖にしたと冷たい印象を周囲に与える上にアレックスからも苦情が来るだろう。

 主催者の伯爵夫人はオロオロして頼りに出来そうにない。

 クリスティアナにしがみつくマリーアンを引き剥がそうとカミラがマリーアンの腕を引っ張る。

「止めて、止めて。クリスティアナ様助けて」

 流石に強引すぎるカミラを止めようとする前に、マリーアンがクリスのドレスを引っ張ったせいでバランスが崩れ髪で隠していたブローチが露になった。

「あっ!そのブローチ」

 マリーアンの小さな叫びに皆が注目した。

「クリスティアナ様も付けてきてくれたんですね。嬉しい」

 その言葉にカミラの手が止まった。

 その隙にマリーアンはクリスティアナの後ろに隠れた。

 そしてクリスティアナにだけ聞こえる声で囁いた。

「これで皆が私達のこと仲良しだと分かってくれますね」

 甘く可愛らしい声なのに背筋がぞっとした。 

 明らかに皆が誤解する言い方をしたマリーアンのずる賢さに目眩がしそうだった。これではクリスとマリーアンが二人で仲良く買い物をしたように聞こえる。


「クリスティアナ様・・・そのブローチ。まさか同じものですか?」

 カミラが恐る恐る訊ねてくる。

 クリスは無言のままだ。

 マリーアンは鼻息荒く勝ち誇っている。

 それを見ていたマクシミリアンはふうんと小さく呟くとクリスの前に手を出した。

「ちょっとそのブローチ見せてくれるかな」

 言われてクリスは黙って外し、マクシミリアンの手の上に乗せた。

 マクシミリアンはそれを握り締めて手元に引くとくるりと手の平を翻して開いた。

「よく似ているけど違うみたいだね」

「え!?そんな馬鹿な」

 先程まで確かに同じだったブローチは立派な宝石で出来た花のブローチにすり替わっている。  

 道化師のような鮮やかな手並みに感心していると、誰にも分からないように素早くマクシミリアンはクリスにウィンクした。


 勝ち誇ったようにカミラが笑った。

「おほほほほ、そんなガラス玉のブローチと本物のルビーを使ったクリスティアナ様のブローチを同じだと思うだなんて、ああ可笑しい。あら失礼本物の宝石など見たことないから分からないのも当然ですわよね。これ以上恥をかかないうちに退出なされた方が身のためではなくて?」

 犬をおい払うかのように扇子で追い払われ、マリーアンは恨みがましい目をカミラではなくクリスティアナに向けて渋々退出して行った。

 その目はなぜ助けてくれなかったのかと訴えていた。

(どうして私が助けることが当然だと思っているのか・・・)

 クリスティアナは冷めた紅茶を無理矢理喉に押し込んだ。舌先に残った紅茶の渋みがマリーアンの目と重なって余計苦く感じた。

 

「はい、どうぞ」

 隣に座ったマクシミリアンがクリスティアナの手にブローチを返してきた。

 それはアレックスからプレゼントされたものではなく、突如現れた宝石のブローチの方だった。

「私のじゃないわ」

「今から君のだ」

「こんな高価な物意味もなく貰えないわ」

「だからって先程のブローチをもう一度付けることなんて出来ないだろう?もうそのブローチは君のだと皆が認識してしまったのだから」

 にっこりと微笑まれてクリスティアナは助けられたと思うよりもなぜか嵌められた気分になった。

 だが助けられたのは事実だ。 

「・・・ありがとう」

 お礼を言ってブローチを胸に付けるとうんうんと小さく何度もマクシミリアンが頷いていた。

 余程嬉しいのだろう。マクシミリアンの周囲に小花が舞ってるような気がした。

 更に黙って手を差し出すとうん?とマクシミリアンは小首を傾げた。

「私のブローチを返して」

「今付けたじゃない」

「本当の私ののよ」

「えー」

「えーじゃないわ。返して」

「いいじゃんこんなの。愛人にも同じ物を寄越すようなセンスのない男のプレゼントなんて持ってる価値ないでしょ」 

 二度と使う気はないが仮にも婚約者から貰ったプレゼントを他の男の手に渡すわけにはいかない。

「返して」

 少し強めに言うとちぇっと呟いてマクシミリアンはハンカチに包まれた物を手の中に入れて差し出した。

「ありがとう」

 ハンカチごと受け取り中からブローチを取り出そうとしてそっと手で押さえられた。

「いいよ、そのまま持ち帰って。誰かに見られたら困るだろう」

 確かにそうだったので、感謝して頷いた。

「私の物が君の中にあると思うとそれはそれで興奮するし」

 卑猥なもの言いに感謝した気分は一瞬で吹き飛んだ。

(本当に王族って変態しかいないんだから)

 机の下で拳を固めていると、殺気を感じたマクシミリアンが急いで席から離れた。

「じゃあそろそろ退散するよ。そのハンカチを胸に抱いて眠ってくれればきっと君の夢の中でも私に会えるよ。セクシーなネグリジェを着た君と夢の国で会えることを期待しているよ」

 最後まで王子は変態的なアピールを忘れない。走り去った柱の陰で護衛だか侍従だかが王子の手を引いて文句を言っている。

 恐らく仕事を抜け出してここへやってきたのだろう。

 変態的に行動力のある王子だ。

 その後すぐにクリスティアナも友人と主催者に断って家路に就いた。主催者の家の馬車を借りるから友人にはもっと遊んでいて良いと伝えたのだが、お目当ての男性が他の女性といい仲になっていたようで、怒って自分も帰ると一緒になって帰ってきてしまった。

  

 無事に家に戻って来た時には緊張がほぐれて自然と息が出てしまった。部屋の机の上でそっと握っていたハンカチを開くと6枚の花びらのうち2枚が根元からポッキリ折れていた。

「まあ」

 クリスティアナは最初自分が強く握りすぎたせいで折れてしまったのかと思ったが、無事な花びらを試しに強く押してみてもびくともしなかった。

(殿下ね)

 思えば渡されるとき不自然に手に力が入っていたように見える。

 そんなにこのブローチが気に入らなかったのか。

 それでもこれでブローチを付ける正当な理由がなくなってクリスティアナはホッとしていた。   

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