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二股宣言!されました。  作者: 春氷
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変態王子が現れた

 解決するどころかますます複雑になっていく事態にクリスは頭を抱えて布団の仲で蹲った。

 元凶の二人を別れさせれば全てが綺麗に解決するが、その二人が別れそうにないのでポコポコと波状的に問題が発生している感じだった。

 あれからマリーアンからはお詫びの品という名目で花が贈られてきた。さすがにそれを突き返すほど子供ではないので受け取ったが、そんな暇があるのなら少しでも早く噂を取り消して欲しかった。

 アレックスとはあれから1ヶ月無視をした結果母親に上手く行っていないことがバレ、原因を説明出来ないクリスは単にすれ違いという曖昧な言い訳をした結果強制的に週に1度は会わされるようになった。浮気をしたアレックスの為に仕事を手伝う気にもなれないし、自分の家に招いてマリーアンのことで口喧嘩するのも危険行為だったので外で会うようにしたが、これが案外正解だった。街は常に刺激に溢れ、アレックスも何度か恋人(マリーアン)のことを口にしようとしていたが、話す前にアレックスの気を引くような物を見つけてそちらに誘導すれば単純なアレックスはすぐにそちらに気を移した。

 アレックスは武具よりもからくり箱や玩具等を見る方が好きで、クリスは積極的にそれらの店を回った。

「クリス、これ見てご覧よ」

 アレクが瞳をキラキラさせて差し出したのは可愛らしい花の形をしたブローチだった。

「綺麗ね」 

 ガラス製の安物だったが作りはとても綺麗だった。

「そうだろう?でも面白いのはこれからなんだ。ここを押してここを引っ張ると」

 アレクがクルクルと木の飾りを回すと花の形が蝶になった。

「まあ、形が変わったわ」

「面白いだろう?からくりブローチだよ。一つで二回付けられるよ。彼氏に買って貰いなよ、お安くしとくよ」

 店主のおじさんが二人に向かって声を掛けた。彼氏と言われたアレックスは頬を掻きながら同意した。

「プレゼントするよ。かしこまったパーティーには無理だろうけど、普段使いなら大丈夫でしょ」

 確かに話のネタにはなるのでクリスは有難くプレゼントしてもらった。

「ありがとう」

 心からお礼を言うと、アレクは照れたように笑った。

 その笑顔は昔のままで、このままマリーアンを忘れて前のような二人に戻れたらとクリスは願った。


 しかしその願いはあっけなく砕け散った。

 数日後友人に好きな人を紹介したいから一緒に来て欲しいと言われて行ったお茶会で、会いたくもなかったマリーアンに会ってしまった。

 彼女はオレンジのドレスを着ていた。

 フリルがふんだんに使われたドレスは少し大きめだが、マリーアンの髪色と相まって良く似合っていた。

 が、注目すべきはドレスではなかった。胸元に付いているピンクの蝶のブローチが青い花のブローチをしているクリスと色違いのものだと気付いたからだ。

 マリーアンはクリスに話掛けたそうにチラチラと視線を寄越していたが、クリスはその視線を完全に無視して席に付いた。そして自分の胸元に付いているブローチを掌に握りしめた。


(アレクはマリーアンにもこれをプレゼントしたのね。あの時昔の二人のように戻れたと喜んでいたのは私だけだったんだわ。・・・結局二人で過ごしてもアレクの胸の中のマリーアンの存在を消すことは出来ないのね)

 デートが楽しかったせいでよけいにクリスは惨めになった。今すぐブローチを取り外して池の中に投げ捨てたかった。

 取り外しても入れておく鞄もポケットもなかったので、仕方なくクリスは髪を前に流してブローチを隠した。

 友人の家の馬車で相乗りして来た為ブローチを取り外しても預ける侍女がおらず、馬車も友人家のもの。更にクリスティアナにとって初見の貴族のお宅だった為下手に目立つ行動を取りたくなかった。頼りになるはずの友人も着いた早々好きな男性が他の女性と仲睦まじそうに会話をしていることに嫉妬してそちらに行きっぱなしになっていた。 

 幸いマリーアンは話かけたそうにはしていたが、こちらに近づいて来る様子はなかったのでクリスは無視を決め込むことにした。姉妹の噂が出た二人が少しも接触しなければ貴族階級によくあるデマ話だったと周りは思うことだろう。だが話さなくてもお揃いのブローチをしていると露見してしまったら、全てが台無しになってしまう。

 一見しただけでは花と蝶のブローチがお揃いに見えないのが幸いだった。髪で隠していれば尚露見しにくいだろう。

 上位貴族であるクリスティアナの席は主催者に近い上座でマリーアンは下座に座っていたため席も離れている。このまま何事もなく時間が過ぎれば良いと思いながら近くに座っている顔見知りのご婦人方と楽しく談笑していると、ワッと離れた席で歓声が上がった。

 何事かと視線を向けるとマリーアンを中心に人だかりが出来ていた。

「何事ですか?」

 主催者の伯爵夫人が声を掛けると一人の令嬢が興奮したように答えた。

「マリーアン嬢のブローチが蝶から花に変わったので皆驚いているんです」

 やはりそうだったかとクリスは再度しっかりと髪でブローチを隠した。

「まあ、珍しいブローチですのね。私にも見せて下さいな」

 ご婦人方が次々と立ち上がってマリーアンの側に行った。

 席に残ったのはクリスティアナだけだった。

 一人黙々とケーキを食べていると、スッと横に誰かが座った。

 視線を上げると一人の男性が甘く微笑んでいた。

 クリスティアナは無言で向き直るとまた無視してケーキを食べ続けた。

「これもどうぞ」

 無視されてもめげない男性はクリスの前に美味しそうなフルーツのタルトケーキを差し出した。

 クリスは「どうも」とそっけなくお礼を言ってまた食べ続けた。

「君は()()に興味がないの?」

 アレとフォークで指したのはマリーアンのブローチだった。

「ありませんわ」

 グサッと大きなフルーツの固まりを刺して淑女にはあるまじき口の大きさで放り込む。

 もぐもぐと口を動かしていると、ああと男性はクリスの胸を指さした。

「君も持ってるんだね」

 髪で隠していたのにバレて大きくむせた。

「隠しているってことは先を越された訳ではないのかな?」

「あなたはどこに()()()()()んです?」

 咳き込みながら話題を反らす為に男性のことに言及すると、男性は意図を分かっていながら敢えて受け止めた。

「少し離れた席にいただけだよ。珍しく気付くのが遅かったみたいだね。それとも私の変装術が上手くなったかな」

 機嫌良く鬘の髪を引っ張る男性をジロリと睨み、ハンカチで口元を拭った。

「他に気になる人がいただけです」

 正直に答えるとすうっと周囲の温度が低くなったのを感じた。

「誰?どの男?」

 出席者の男性を射殺さんばかりの目で睨み付ける男性に呆れて別のケーキを差し出した。

「女です。女」

「ああ、そう?なら良いんだ」

 一気に機嫌が直り、男性は渡されたケーキを大きな口で一口で食べた。

「お行儀が悪いですよ殿()()

「良いの良いの。今日の私はニワチョリ男爵だからさ」

「何ですか?その名前」

「可愛いだろう?丁度裏口から出るとき宮殿で飼っている鶏が逃げ出していたのを見たからニワチョリって名前にしたんだ」

 ニワトリ男爵にしないだけまだマシだろう。王太子が来ているとなると騒がれるのは間違いないので、偽名と変装をしてくれていて良かった。

 輝く金髪をくすんだ灰色にして縁の大きな眼鏡をかけて意識して猫背にしているだけで、人の良さそうな冴えない青年に変身していた。

 それでも眼鏡の奥に光る空色の瞳だけは相変わらず澄んでいて綺麗だった。

「王太子殿下がこんなパーティーに変装までして何か意味があるんですか?」

 主催者は王党派の伯爵夫人だから殿下のお忍びはご存じの上だったのだろう。


「君に会うために来たって言ったら?」

「帰ります」

 本当に席を立とうとして慌てて手を握られた。

「待った待った。久しぶりに会ったのに酷いじゃないか。そんなに私が嫌いなのかい?」

「私と会っていることがバレたらお父様に首を絞られますよ」

「アップルビー公爵にバレたら間違いなく殺されるだろうね」

 物騒な発言の割には口調が軽い。

「死なないくせにどうやって殺すんです?」

 王家の人間は風竜を先祖に持つ一族の為身体がとても頑丈である。刀で刺されたところで致命傷になどならない。恐らく胸を刺されてもピンピンして刺されちゃったよ~と笑って頭を掻きながら登場するだろう。        

「君たちアップルビー一族の誰かが私達に死ねと言えば死ぬと思うよ」

「嫌ですよ。喜ばれながら死んでいく姿なんてみたくもありません」

「あはは、冷たいよねぇ。私達にとっては君たちに近づくなと言われるより死ねと言われる方がマシだもんね」

「言ってませんよ、私は」

「うん、公爵には言われたけどね」

 がっくりと肩を落とす殿下を更に崖下に叩き落とす。

「仕方ありません。顔見せをした途端抱きついて押し倒してキスしてくるような変態だと知っていたら私も最初から逃げていました」

「その説は本当にごめん。君を見た瞬間理性がぶち切れて自分でも良く覚えていないんだよ。でもキスはしてないよ。未遂だよ」

「そうですね」


 クリスティアナ8歳。マクシミリアン王太子9歳のことだった。

 二人が初めて顔合わせをした瞬間マクシミリアン王太子は滂沱の涙を流しクリスに突進し抱きしめるとその勢いで倒れたクリスにまたがりキスをしようと顔を近づけた。

 その瞬間アップルビー公爵の鉄拳がマクシミリアンの頭上に落ち、公開セクハラは終了した。


「呪いのせいですから仕方がないと私も思っています。王家の方は初回は皆そうらしいので私どもは耐性が出来ています。父様も兄様も通ってきた道らしいので」

「呪いなんてとんでもないこれは我々王家にもたらされた祝福だと私は・・・いや我々は考えているよ。君と出会う前の無味乾燥の世界と比べたらどれだけ今が幸せなことか。例えあれから公爵に君の前でも理性が保てるようになるまで半径100mは近づくなと言われ、特訓と称され何度も血反吐を吐くような苦痛を味わわされてきたとしても」

(・・・お父様、殿下に一体何をしたのかしら) 

「私は君と出会えた幸運を神に五体投地して感謝するよ。いや、むしろ君にしよう、私の溢れん愛と感謝と未来と希望を余すところなく全て!」

「結構です」

 放っておくと本当に五体投地しそうなので即座に却下した。  

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