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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

隔離領域

作者: 氷上人鳥

 男が目を覚ましたのは、知らない部屋のベッドの上だった。山小屋のような簡素な部屋で、一つある窓からは深い緑の木々が覗いている。

 彼が覚えている最後の光景は、コンビニに行く途中で通った横断歩道だった。横断中に強い衝撃を感じたような気がするが、何が起こったのかは覚えていない。

 男は状況が飲み込めずしばし呆然としていたが、やがて冷静さを取り戻し、自分が置かれた状況を知る為にとにかく動く事にした。

 部屋の中にはベッドとテーブルがあり、テーブルの上には歪な形の棒と一枚の紙が置かれていた。

 棒は太い木の枝を加工した質感で、野球のバットよりも若干短い。

 紙には、印刷で良く見る整った文字で次のように書かれている。


『森に潜む者を仕留めよ

 さすれば望む世界への扉が開かれる』


 一体何に巻き込まれたのか?

 男は自分なりに考え、一つの答えに行き着いた。


「さしずめ、愉快犯的な誘拐って所か」


 おそらくここに連れて来た犯人は、自分と同じような人間を何人か集め、いわゆるデスゲームでもさせようとしているのだろう。そして勝者のみ解放する、みたいな趣向か。

 そう結論付けた男は暗澹たる気分になるが、どうせ拒絶した所で無駄死にするのがオチだと割り切り、棒を手に持ち部屋を後にした。


「……何が起こったんだ?」


 男は今、ベッドの上で横になっていた。

 彼は確かに部屋を出て、外に広がる森に足を踏み入れた。

 しばらく進んだ所で上から何かが落ちて来たのに気付いた次の瞬間、男はここにいた。

 身体に異変は見当たらず、部屋も出る前と変わらない。

 男は再び考えるが、今回は答えが出ない。仕方が無いので、次は周囲を警戒しながら外に出る。


「あれか」


 結論として、前提が間違っていた。そもそも相手は人間では無かったのだ。

 さっき男に落ちて来た物の正体は、黒くてブヨブヨした、巨大なスライムのような物体だった。それはさっきの位置でじっとしている。

 あれが紙に記された森に潜む者なのは間違い無いだろう。そして今なら、今度はこちらから奇襲を掛けられる。

 男は慎重に近付き……

 再びベッドの上で身を起こした。

 しかし、今回は多くの情報を得る事ができた。

 まず黒い物体は、男の姿を確認すると触れようと近付いて来る。そしてわずかでも触れられると一瞬で取り込まれ、ベッドに逆戻りする。

 逆にこちらからの攻撃は、棒で叩いた部分が一部抉れた。有効ではあるが、討伐にはかなりの回数叩く必要がある。

 状況的には極めて不利だが、勝てる可能性がゼロでは無い上にこちらは何度でも挑戦できるらしい。


「こうなれば、とことん付き合ってやるか」


 男は覚悟を決め、三度部屋を出た。


 数え切れない程戻された。

 その中で、うねうね動く物体の行動パターンを少しずつ見切り、回避と攻撃が的確にできるようになっていく。やがて……


「倒した……のか?」


 黒い塊が完全に見えなくなり、森は再び静止した。

 男は初めて徒歩で小屋に戻ると、部屋の内側の壁に別の扉ができていた。


「いつの間に。そもそも何でこんな所に?」


 見ると、その扉には綺麗なフォントの文字が刻まれていた。


『より明確たる世界の姿を想像し、この扉を開けよ』


 意味ありげな文字だが、こんな場所にある扉を開けた所で、外の森に出るだけのはずだ。だが、他に手掛かりも無いので、意を決して扉を開け……





 経過報告/◯◯管理AI✕✕✕

 管理区域にて看過不可のバグを検知

 既存のツールでは対処不可と判断し、外部からの調達を申請

 交通事故により肉体的に生存不能となった人間を一個体、医療名目で確保

 生存可能な状態に処理をした後、意識を対象領域に転写、バグの対処に当たらせる

 計百二十六回の再転写の後、バグの除去に成功

 再利用の可能性を考慮し、意識の維持を目的として疑似生活を送らせる為の領域を新規構築

 以上

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