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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

言霊の意味

作者: クロマニョン

「言霊って知ってる?」

彼女は僕に問いかける。彼女はたまにこうして言葉について問いかけてくる。詳しく教えてくれるものもあれば大雑把にしか教えてくれない時もある。

勿論僕が知っている言葉もある。そんな時知らないフリして話を聞く。そのやり取りを行う時間だけが退屈を無くしてくれる。

彼女は恋人でもなければ、想い人でもない。でも彼女といる時だけはいくら努力しても、いくら結果を残そうとも、いとも簡単に鞭を振るわれる親に敷かれたレールから僕を引っ張って脱線させてくれる。だから親はそんな彼女を嫌った。

「いいや、知らないよ」

すると彼女は少し首を傾けて微笑んで

「じゃあ教えてあげようか?」

「せっかくだからお願いするよ」

「んー、面白くないからやっぱり教えなーい」

彼女の悪い癖だ。だがその時見せる楽しそうな笑顔が可愛い。夕日が後ろから更に彼女を可愛くさせる。

「なに見とれちゃってんの?」

ペチンとデコピンをくらう。

「ごめんごめん、あまりにも君が可愛くて」

彼女は顔を背けた。一瞬頬が赤くなっていたような気がした。照れ隠しをするように階段を駆け登り自転車にカバンを乗せる。

「ほら、そろそろ帰るよ!」

僕はまだこの心地よい解放された時間に居たかったのだが、腕時計は淡々と針を進め、その時間、その場所に留まることを許さない。そんな憂いを晴らすかのように彼女は楽しそうに鼻歌を歌う。

「なんていう曲だい?それ」

少しでもこの時間を楽しみたくてゆっくり歩く。彼女はそれを理解しているのか、歩を合わせてくれる。

「んー、CMで流れてた曲だから名前は知らないや!」

そんな何気もない会話をしていると気付けば彼女の家に着いていた。先程の場所から2km以上はあるはずなのだが。

彼女との別れに少し落ち込んでいると彼女が

「ここから塾って近いよね...送って行ってあげる!!」

突然の提案に驚きを隠せないでいた。いつもならまた明日ね、とすぐに家に入ってしまう。どうしてだろう。どうしてかは気になったが、願ってもない提案だった。おかげで今日の授業は退屈せずにいられそうだ。

塾は彼女の家から10分ほど歩いたところにある。どうせならと思い少し遠回りをしようと車通りの多い交差点に向かう。そうすれば最低でも3.4分は長くいられるだろう。

ふと先程の会話の続きが気になり信号待ちでタイミングも良かったので問いかけた。

「そういえばさっきの言霊の意味教えてくれるかい?」

「あ、そうだね、言霊はね簡単に言ったら言葉に力が宿ることなんだ。例えば、優しい言葉を聞けば気持ちが穏やかになったり、悪口を聞けばたとえ自分のことじゃなくても嫌になったりするでしょ?それのこと。他にもことわざの【嘘から出たまこと】とかも言霊からだよ。」

よかった。今回は詳しく教えてくれる言葉だったようだ。言霊。そう聞くと非現実的なものを感じるのに、例えを出されると身近なことに感じる。これもまた言霊の力なんだろうか。

そう考えていると、彼女がボソッっと何かを呟いた気がした。なにか言った?と聞くもなにもないと言う。やはり気のせいだったようだ。

「ありがとう、とてもわかりやすい説明だったよ。でも言霊に関することってなにかあったっけ?」

「うんん、特に意味はないよ。でも今日は特別な日ではあるよ。なんの日かわかる?」

特別な日。彼女とは恋人ではないから記念日でもない。今日という日になにか意味があったか覚えていない。そのことを彼女に伝えると、

「嘘?!ほんとにそれ言ってるの?」

どうやら、とても意味がある日だったらしい。こんなにも驚いている彼女を見るのはたまにしかないから。もう一度考えてみたがやはり思いつかない。少し申し訳無さを感じてしまう。

「だって今日は、今日は、まさくんの、、、」

彼女が言いかけた途端、交差点に異様な音が流れる。そちらを見ると、トラックが猛スピードでこちらに突っ込んで来ていた。あまりにも突然で非日常的な出来事に僕の脳は反応できなかった。もちろん体は動かない。動け!という簡単な命令を脳が発するだけなのに、処理されない。呆然と立っていると、横からドンっと強い衝撃とともに僕の視界は横に倒れる。衝撃の原因は彼女だった。この恐怖と絶望の中、彼女は動いたのだった。しかも自身のためでなく僕のために。

時間にして数秒の永遠が終わる。トラックが建物に突っ込んだ。その瞬間彼女の姿が視界から消えた。彼女が気になり立ち上がろうとするも右腕に痛みが走る。どうやら折れてしまっているようだった。どうにか立ち上がりトラックが開けた穴から彼女を探す。どこだ?無事なのか?様々なことが頭をよぎる。

「まさくん...」

ふと、僕を呼ぶ声が聞こえた。彼女の声だ。声をたどる。居た。見つけた。しかし、絶望した。彼女の下半身がなくなっていたのだ。素人目にもわかるような死の呼び声。彼女には似合わない赤い血が彼女を飾る。まるで死神の迎えを待つ哀しき花嫁のようだった。呆然と立ち尽くす中、彼女は最後の力を振り絞るように話始めた。

「ごめんね...もっとまさくんと居たかったなぁ...ねぇまさくん...これから私は居なくなるけど...頑張ってね...ごめんね...」

やめてくれ、謝らないでくれ!そう叫ぼうとしても声は出ない。気づけば涙が溢れていた。

彼女の隣に座ると涙がもっと流れ出る。

「僕が、僕がいつもと違う道を通ってしまったから...僕のせいだ...」

「いいの...まさくんのせいじゃないよ...それにこうなることを願ってしまったのは...私だから...」

え?今なんて...彼女の言葉が理解できなかった。もっと居たかったと今彼女が言ったのに。

「正確にはね...少し違うんだ...正確には...まさくんのお父さんとお母さんが居なくなればいいのに...そう願ったんだ...」

衝撃的なことに違いはなかったが、僕のことを思ってだったのだろう。彼女は決して悪くない。そう言い聞かせる。

「まさに嘘から出たまことだね...少し違うけど...それよりも...まさくん...」

彼女は本当に最後の力を振り絞り僕の頬に手を当てる。涙が彼女の手を伝う。僕には同仕様もできない状況。その無力さがまた僕に涙を流させる。遠くから救急車のサイレンが聞こえる。もう遅い。

「本当は...もっと後で言おうと思ってたけど...ごめんね...まさくん...誕生日おめでとう...」

その言葉とともに彼女はこと切れた。そうだった。今日は僕の誕生日だった。彼女はそのことをしっかり覚えていた。彼女の最後の言葉が僕を祝う言葉なんて彼女らしい。僕には似合わないほど立派だった。彼女の遺体を抱きしめたまま僕は気を失った。


数日後、僕は病院に居た。事故による後遺症がないかの検査らしい。あのあと保護され、この病院に運ばれた。彼女が身を挺して守ってくれたおかげか、腕の骨折以外に目立った怪我はなかった。両親は僕の意識が戻ったあと、見舞いに来た。そして問題ないと認識したのかすぐに研究室に戻っていった。なんとも非情なことだろう。もし、もしも彼女が生きていたら僕の隣で目を覚ますのを待っていてくれただろうか。そんな考えが僕の空っぽになった心を通過する。

警察に教えてもらったのだが、あのトラックは居眠り運転だったそうだ。しかも運転手は生きているという信じがたいおまけ付きで。僕はこの理不尽が許せなかった。だからといって彼女が帰ってくるわけでもないのに。そして日が経つごとに僕の目から生気は消えていった。

数十年後、僕は有名な医者になっていた。親に敷かれた既定路線をただ歩き、親が決めた女性と家庭を持った。子供もできた。気づけば子どもたちも成人し、僕の両親は亡くなっていた。

僕も余生を過ごす身になっていた。

ある日、ふとあの交差点が気になり足を運んだ。あの時から数十年経っているため当時の建物は消え、周りはビルになっていた。それに人通りもあの頃に比べ多くなっている。あの事故の現場に改めて立つといまだにあの時の衝撃を鮮明に思い出すことができる。

悲しみにふけっていると、トラックが信号を無視してこちらに向かってくるのが見えた。

あぁ、僕も死ぬんだな。直感的にそう感じた。なんと運命的であろうか、あの日と同じではないか。僕の本能も、もういいよ。と言っているかのように体の力が抜けた。

「向こうでは彼女に会えるかな。」

その瞬間、強い衝撃とともに僕の意識は深い闇の中に落ちていった。




読んで頂きありがとうございました。

初めて書いた作品なので言葉遣い等々おかしいところもあるかと思います。どうぞ遠慮なく教えてください。今後の参考にさせて頂きます!

ありがとうございました!

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