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偽りの静寂者~雑音でしかないこの世の中で~  作者: 空色 蒼
第一章 学園編
6/13

6音 適性

□■□



 「…これからお前等クズ共の担任をすることになった辻だ。ようこそ、未来の社畜ども。歓迎しようじゃないか……これからの三年間で何人が生き残れるか楽しみだ」


 4Aの教室に現れたのは、辻と名乗る女性教諭だった。長い黒髪をポニーテールでまとめ上げ、顔に刻まれている斜めに入った刀傷を隠すことなく教壇に上がる。何人かの生徒が息を飲んだのが解る。女性として生きていくには、あまりにも致命的なその顔に生徒達は何かを言えるわけでもなく、ただただ目を伏せる。


 「ふぅーーー。お前等が俺の顔を見て、何を思うかは自由だが……しけた面をするのをやめろ。顔色を窺って話すことほど面倒なことはない。いいか、二度は言わすな。今すぐその面をやめろ。………さて、これからお前等の力を見るためにコイツ等と戦ってもらう。…おい」


 生徒達は辻の反感を買わないようにと何とも言い難い表情をしつつ、前方の開くドアに注目する。入室した者達は、大柄な男子、細身の男子、小さい女子、金髪にしたヤンキー風の女子、そしておどおどした様子の眼鏡女子と計五人。それぞれが辻に対して一礼すると、真ん中に立った少女が口を開く。


 「こんにちは~。警備科の小兵日向で~す。これから新入生の皆は今目の前にいる私達と能力ありありの試合をしてもらいま~す。皆、運が良かったね~。この学校で一番温和な人が多い警備科とヤレて~」


 「えっ?あの、…失礼ですが貴女もですか?」


 前方に座っていた男子生徒が驚きの声をあげると、それに同意するように周りの生徒達もうんうんと頷く。彼らの態度に大柄な男子生徒が「ほらな?」という感じで隣の細身の男子を肘でツンツンと小突くと彼はハァと大きな溜息をつく。


 「いいですか、皆さん。彼女はですね―――」


 「―――日向さんはアタシら警備科二年の中で一番強い御方だ!それを何か?てめぇら文句があるってか!今頷いた奴等全員表に出ろやぁ!アタシが相手してやるよぉ!」


 (((どこが温和だって…?)))


 パンパンパン!!!


 一触即発(ヤンキー少女だけだが)な雰囲気が漂い出した中、不意に大きな手拍子の音が鳴る。その音に眼鏡女子がびくっと肩を震わせるがそれに構うことなく、音の発生源たる日向が隣のヤンキー少女を諫めるように無言で見つめる。


 「……うっ。すいません、熱くなりすぎました。」


 「ごめんね~。元気な子でね、悪気はないんだ~。それじゃあ説明も特にないし早く試合しようか!」


□■□


 「君は直線的過ぎますね。相手の動きが見えていない」


 「ガハハハッ!お前は能力の使い所が良いが、どうにも腕力がなぁ…」


 「あ、あなたは…能力に…頼りすぎてる。もう少し体技の方もね……」


 「あーてめぇは能力の操作が雑だ!もっと丁寧にやれ!」


 教室から室内の運動場へと移動し、試合という名の一方的な戦いが行われている。多くの新入生が五人の先輩達の前に自分の思うような動きをさせてもらえることなく、一人五分と経たずに次々と片づけられていく。そうこうして時間が経つ内に、玲の番が来る。相手は強者の雰囲気を1ミリも醸し出していない日向だ。


 「さ~て次はあなたの番だよ。ミステリアスな新入生さん?どこからでも~かかっておいで~」


 玲はその挑発に意外にものっかるようで一瞬にして日向へと近づくと、顎や鳩尾などの正中線を狙って蹴りと拳を繰り出す。


 「よっ!ほっ!よっとな!」


 間抜けな声とは裏腹にわざと紙一重に玲の攻撃を回避する。加えて、反撃をする訳でもなく運動場内を縦横無尽に駆け回る。玲も彼女に続く形で死角となる背後から再び蹴りや拳を浴びせようとするが、その尽くを身体を反転して受け流され時間だけが過ぎていく。しかし、それで玲の体力が奪われ呼吸が乱れていくという事でもない。


 「へぇー。体力あるんだね!一年生でこれだけついて来れるならかなり期待できそうだよ~!!!やっぱり普段戦わない子とヤるのが一番訓練になるしねー。そろそろ能力使ってきて良いよ?もう身体能力は把握できたからさー」


 「………」


 「ん?あれ、どうしたの~?良いんだよ~能力使っても。というか、そうしてもらわないとこの試合の意味もないし~」


 「……試合の意味?力を見るだけなら……今ので十分な筈だけど?」


 玲の疑問に動きを止めた日向は、苦笑いを浮かべつつギギギッという効果音が入りそうなぐらいゆっくりと首を回して運動場の隅で腕を組んでいる辻へと口を開く。


 「ん~と?先生…まさかこの試合の目的を伝えては―――」


 「―――いない。その必要がどこにある?」


 「あちゃー--!辻先生がこういう人だっていうの忘れてたよ~。そうかそうか、うんうん。それじゃあヒナタが説明してあげよう。この学校は近年他校が目まぐるしい発展を遂げる科学の推進を目的とした科学科を導入する中、人材育成へと着目して将来の官僚―――それも、警察、軍、政府の三つの組織で働ける者達を輩出しようとしている学校でね。実際にこの学校に入学するのは、ほとんどその関係者の子供達であってね~。彼らの育成を効率化させるためにそれぞれの子に適した科に配属させるのが伝統なんだ。科の種類はヒナタ達が所属する警備科、SP科、監察科。この三つは警察関係者に好まれる科だね~。他にも執行科と内調科。この二つは政界関係者からの引く手数多。そして軍関係の仕事に就きやすいのが機動科と装備科の子達。ただし~例外として特科の子達はこの学園のエリート集団だからね~、出世コースはより取り見取りだー!!!」


 「それで、どうして科の選択に能力を開示する必要があるの」


 長々と科について説明する日向だが、先程の玲の質問に対しての回答がなされていない。前置きが長い者は好まれない。常識だ。


 「アハハハ、ごめんね。結局ヒナタが言いたいのは科を配属させるにあたってその子の力を全て把握しておきたいってことなんだ」


 「それならあの子達の力はもう測れたって?」


 五分と経たずに日向達に敗れ去った他の新入生達を見る。彼らはそんな視線に不甲斐ないとばかりに落ち込む。だが玲にとっては彼らの心情はどうでもよく、ただ単純に能力もまともに使わせてもらえていない彼らの実力があの数分でわかったのかという事だ。


 「あーうん。別に大丈夫だよ!例年高一のレベルなんてこれぐらいだし~まして()()()()一人に時間を使ったらもう十分だよ。そうだよねー皆!」


 未だ一年生と試合をしている他の上級生四人は日向の問い掛けに対して、


 「あー当然だろ!なんなら一人三分でも良いぞ!ガハハハッ!」


 「なら僕は二分で十分「あぁ?」ですかね」


 「わ、わたしも…これ以上の…時間を掛ける必要はない…かと」


 「勿論です!日向さん!」


 と何とも頼もしい答えが返ってくる。その言葉にますます落ち込む新入生達だが、自分達が言い返せる実力でないのは先程の試合のやり取りで重々承知しているため沈黙を保つ。


 「まーそんな訳だから心配しないで能力を使ってきなよ~。早くしないと他の子達の試合が全部終わって注目されちゃうかもよ~」


 もう逃げられないよとばかりに臨戦態勢を取る日向に、玲もこれ以上時間をかけても無駄だと悟り左手を前に突き出す。その動作に日向は彼女が能力を繰り出そうとしているのが解り、待ちきれないとばかりに目を輝かせる。しかし玲にとってはそこまで試合を長引かせるつもりはなく、手っ取り早く()()()()()()()()()()()と一度だけ能力を発動する。


 (さぁ鳴り響け……)


 心の内で言葉を唱えると、またしても日向への接近を試みる。それを待ち構えていたかのように両腕を広げる日向だが…。


 「―――えっ」


 一瞬地面が沈んだかのような錯覚に陥り、片膝を慌てて地面につける。しかし接近する少女を目の前にして、その動きが命取りにしかならないことを察した日向は、顔の前に腕を十字に交差させて襲い掛かる膝蹴りをなんとか受け止める。しかしこれで相手の攻撃が止まるはずもなく、玲が膝を受け止められた体勢で日向の頭を両手で掴んだかと思うと、そのまま倒立をするように脚を高くあげて日向の背中にと蹴りを喰らわせる。


 「ううっ!」


 あまりのトリッキーな闘い方に翻弄され、攻撃を喰らう日向だが顔を顰める程度であまりダメージを受けた様子はない。


 「ふぅ~危ない、危ないっと。流石に発動してないと痛そうだったね~」


 玲が蹴りの反動で離れたタイミングで立ち上がると、背中をわざと玲の方へと向ける。そこには大きく膨らんだ水の塊がへばりついていた。攻撃のタイミングを読んでクッション代わりにと能力を使ったのだろう。その能力の発動スピードは流石のものだと言える。


 「さてさて、確認したいんだけど~。()()が君の能力なのかなー?」


 「……だとしたら何だと言うの?」


 「いやー、あまり経験したことのない類いの攻撃だったからね~。…そっか……う~ん。まぁ今ので何となく力のレベルはわかったから~~。遊ぼうか☆」


 仕返しとばかりに接近してきた日向は、今まで防戦一方のスタイルから攻撃優先のスタイルに変えたようで今度は玲が手も足も出ない状況に追い込まれる。そんな攻防を繰り広げること三分。


 「……まぁいっか!はい終わり~」


 最終的に玲を羽交い絞めした日向は、試合終了を宣言する。その声はどこか不満げで聞いていた生徒達は疑問符を浮かべる。


 (…気付かれた?)


 日向が攻撃を始めてから、手を抜いていた玲はその声色から自分の策略がバレた事に気付きつつも指摘することなく他の生徒達が待機するスペースに移動する。その背中を日向とつい今しがた他生徒との対戦を終わらせてやって来たヤンキー少女が見送る。彼女の姿が見えなくなるや否や、ヤンキー少女はイラついた様子で言葉を口にする。


 「日向さん!アイツ絶対に手ぇ抜いてましたよ!あのヤロゥー日向さんに相手してもらっておいて、ふざけたマネしやがって!日向さん!ここは一発舐められないようヤキ!入れときましょう!」


 玲が手を抜いていたのに気づいていたようで、少女は先輩の威厳を見せつけるためだのと理由を並べて、生意気な後輩に制裁を加えることを提案する。しかし、その舐めプをされた張本人である日向は―――。


 「―――う~ん。別に怒ることでもないし~、良いんじゃないかな!」


 「いやっ…でもですね―――」


 「―――それよりも、もう試合が終わったなら早く教室に戻ろうか!」


 取り付く島も見せず、運動場からの撤収を皆に呼びかけ始める。自分がさん付けで慕う日向のそんな態度に納得のいかない少女は、もう一度話を聞いてもらおうと心の内で決め取り敢えず彼女の後を追うことにした。



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