4音 R to R
□■□
「……Ummm (……うーん)」
首筋に痛みを感じつつ、ベッドから身体を起こし、ゆっくりと目を開けると窓の外はすでに夜と化し、人工の光が星々の代わりとなって街を彩っている。その光景を数秒ほど眺めたかと思うと、サァーっと起き上がった人物の顔から血の気が引いていく。
「Ray!!! Ray! Where are you!!!!! (レイ!!!レイ!どこにいるの!!!!!)」
自分と一緒にベッドに座っていた少女の姿が見えず、その事に不安に駆られながらベッドから飛び降り、部屋という部屋のドアを開けに走る。
しかし、時すでに遅く。全ての部屋を確認するも少女の姿を確認できなかった。
レーガンはその状況が信じられないとばかりに、ふらついた足取りで最初にいた寝室に戻ると未開封のプレゼントを手に取り、胸に抱く。
「Why…why don't you take me? Why don't you let me stay with you? I…I really (何で…何で連れて行ってくれなかったの?何で傍にいることを許してくれないの?私は…私は本当に) 」
すすり泣く彼女の手は、置いて行かれた悲しみからか怒りからか込められる力が強くなる。それに伴い、箱が悲鳴をあげ始め、レーガンは咄嗟に箱から手を離す。箱はそのまま床へと転がり、てっぺんに取り付けられたリボンの飾りが取れる。
箱が転がっていく様を見続けながら、その景色は止まらぬ涙によってぼやける。涙は頬を伝い、カーペットへと落ちていく。床に座り込み、嗚咽を我慢するかのように声を押し殺して泣き続けるレーガン。その姿はあまりにも切なく、悲しいものだった。
そうしてどの位の時間が経ったのだろうか。彼女の両目から流れていた涙はとうに枯れ、その瞳を充血させていた。
「Ray……」
机に置かれている時計を確認すれば、すでに時刻は零時を過ぎており、既にこの場には居ない少女の十五歳の誕生日を迎えていた。
時計に表示された12月26日という日付けが、置いて行かれたという事実を彼女に思い出させる。泣こうにも体中の水分をすでに涙にしてしまった彼女は、震える手を伸ばしてレイへのプレゼントとして用意した箱を拾う。
すでにボロボロになったラッピングを丁寧に剥がしていくと、銀色のリングケースがその姿を見せる。照明の消された部屋の中でも輝くそれは、少女の髪色を想起させ、レーガンは今だ震えの止まらぬ手でそのケースを開ける。
そこには以前自分の隣で寝ていた少女の指を測って作らせたものと、自身の指のサイズに見合う二つの指輪が並んで入っていた。少女のものには『S to R』、そして自分のには『M to R』の刻印が施されていた。
その意味は―――
「―――『Reagan Snyder to Ray』, 『Ray Miller to Reagan』」
二人の名だった。
「I love you, Ray」
ここには居ないレイへの愛の告白を告げると、レーガンはリングケースを胸に抱いて急いでどこかへと電話をかけ始める。
「It' me. I have a new project for you. We gonna start our own security company. Yes, I am serious. Can you arrange my flight? I go back to Finland today (私よ。新しく事業を始めるわ。セキュリティ会社よ。えぇ、本気よ。飛行機を手配して!今日にはフィンランドに戻るわ)」
―――I will find you, Ray(必ず見つけ出すからね、レイ)
その目にはもう悲しみの色は見えなかった。