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偽りの静寂者~雑音でしかないこの世の中で~  作者: 空色 蒼
序章 人生の選択
2/13

2音 BYE

□■□



 「You should have known who I am, kid…. Hey! Does anyone give me a favor? (私が誰か、知っておくべきだったわね…坊や。ねぇ!誰か手伝ってくれない?)」


 「……」


 事態の収拾に取り掛かる彼女は少女に部屋で待っているように伝え、ルームキーを渡すとホテルの従業員達に指示を出していく。


 被害者の男は『後悔する』なんて捨て台詞を言い放ったが、それは彼の方なのだ。彼がただの親の七光りであることは巷では有名な話だ。反対に少女をこのホテルに連れてきた彼女は世界中に展開し続けている化粧品会社―R&RのCEOであり、多くの著名人が彼女の会社の商品を贔屓にしている。まだ十年の歴史も持たない会社であるため、知名度の点において他社には劣るかもしれないが、それでもセレブの間では有名なのもまた事実。彼女の経営手腕に惚れて、どれだけの会社がヘッドハンティングを試みようとしたか―――。


 (―――それほどの彼女が私に関わる理由か)


 鍵を受け取った()はロビーを後にして、エレベーターに乗ると外の流れていく景色を眺めながらそんな事をふと考える。


 玲はこの容姿のため間違えられることが多いが、本当は日本人の血が四分の一だけ混じっている。父親の父親、つまり玲からすると祖父にあたる人がフィンランド出身で、彼の妻である祖母が日本人なのだ。そして、ハーフである父とスウェーデン人の母が結婚したことで玲が生まれた。

 このような家族構成のためか白人系の遺伝が強く表れ、髪の色はプラチナブロンドで目も碧眼と日本人らしさは微塵も見て取れない。


 そんな玲だが、いま現在はレーガン・シュナイダーの許で暮らしている。


 「ここか…」


 エレベーターを降りた彼女はキーに記載されている部屋番号を確認してから、部屋のロックを解除して中へと入る。


 「これは…」


 部屋の奥へと進んでいくと、ベッドが置かれている部屋に辿り着く。二つあるベッドの片方にはラッピングされた小箱が置いてあり、添えられているカードには『To Ray』と書かれていた。今日は、世界中の人々から最も祝福される日―――クリスマスである。なら、これはレイへのクリスマスプレゼントなのかというと、おそらく違うだろう。では何なのか?それは―――


 「―――Ray~? Where are you?(レイ~?どこにいるの?)」


 どうやら下の片付けは終わったようだ。


 「Hereここだよ


 「There you are! Oops~ you found it…(そこにいたのね!あ~見つけちゃった…?)」


 照れさそうに頬を掻くと、彼女は開けたドアを後ろ手に閉めてレイの方へと歩み寄る。


 「It's for tomorrow's birthday(それは明日のアナタの誕生日にね)」


 そう、明日の12月26日はレイが生まれた日であり、最も祝福とは縁遠い日である。それは何故か――ー多くの人がクリスマスを祝福し、この地に平和をもたらした聖人への感謝の言葉を口にし、そして翌日にはその感謝の念を忘れるからである。なら12月24日もそうなのではと思うかもしれない。だがイブはクリスマスの前夜祭。名もない26日とは扱いが違う。


 「Thank you」


 「No problem. Hey, Ray. Why don't you open it right now?(良いのよ。それよりもレイ、今すぐ開けてみてよ!)」


 「……Before doing that, can you tell me why you take me here. (それをする前に……どうして私をここに連れてきたのか教えて)」


 「―――Okay, you're right. Can you come here and sit? (―――そうね、ここに来て座ってくれる?)」


 レーガンはプレゼントを置いていないもう片方のベッドに座り、レイにも自分の隣に来るようベッドをポンポンと叩く。その指示に素直に従い、レイは先程レーガンが叩いた場所に腰を下ろす。二人の距離間は家族にしては近く、しかし恋人としては遠いという絶妙なものだった。


 「Tomorrow, you are 15 and you gonnna go to high school next year. So…, I think this is the best time to deceide to…… move to the State from Finland. (明日でアナタは15歳になって、来年からは高校生でしょ。だから…今が一番良いタイミングだと思うの…その、フィンランドからアメリカに移住するのは)


 「No」


 レーガンが近頃悩むような素振を見せていたのは、これが原因だったのだろう。だからやっとレイに自分の考えを伝えられて胸の内が軽くなったと一段落した直後、その提案に対して拒絶の言葉が返ってきた。


 「Wh ―why Ray! Oh, you don't need to care about money! I pay for you, so…(な、何で、レイ!あのね、アナタはお金の事は気にしなくて良いの。私が払うから、ね?だから…)」


 明確な拒絶の言葉によって駆られた不安に顔を青白くしながら、玲の両腕を横から掴んで言葉をまくし立てる様に言い放つ。彼女の眼は不安と、そして恐怖の色が滲み出ていた。どうか自分の予感が外れてくれとでも訴えるような、そんな眼だ。


 「That's not the reason. I'm not gonna go with you (それが理由じゃない。私はもう貴女とは一緒にいられない)」


 「I'm asking you why!!! Ray, listen to me. I wanna take care of you because your parent helped me. ――― I'm not sure whether you know this, I'm a lesbian. And for this, I was alone. No one like me, even my parent, but, your parent accepted me, …accepted my identity. I was saved by them! I also wanna help ypu instead of them…… please, Ray(だから何でって聞いているの!レイ、聞いて。私はアナタの面倒を見たいの。あなたの両親が助けてくれたから…。アナタが知っているか分からないけど、私はねレズビアンなの。これが原因で私は独りぼっちだったわ。誰も私に愛を注いでくれなかった。私の両親でさえも。でもね、アナタの両親はそんな私を受け入れてくれた。私という存在を。彼らは私を救ってくれたの!だから私は…彼らの代わりにアナタを助けられるようになりたいの…お願いよ、レイ)


 彼女の両目からは大粒の涙が流れ、それらは一層彼女の表情を悲しみに歪ませる。腕をつかむ手にも力が入り、震えている。

 その言葉を黙って聞き続けた少女は自分の両腕を掴むその手に目をやり、そして顔を俯かせる目の前の女性の方へと視線を移すも―――彼女の悲愴感に溢れる告白を聞いても、少女の心に届くことはなかった。レイは優しく、レーガンの手を解かせるとその手を自分の手と重ねる。


 「Ray?」


 「……Sorry, Reagan. Take care(ごめんね、レーガン。幸せになって)」


 そう言葉を伝えると、首の後ろに強い衝撃を与えて気絶させる。小さい悲鳴をあげて倒れこむ彼女の身体をそっと腕で迎える。自分よりも20cmは高い彼女は、その見た目に反して随分と軽く、彼女の力なく項垂れた頭を自分の太ももにのせてから、脚もベッドの上にのせてあげるとその綺麗な茶髪を丁寧に手櫛で梳かしていく。

 彼女に自分の家族の事でここまで胸を痛ませ、悩ませていたのを先程の言葉で初めて知ったレイは、彼女の目尻に残る涙を指で拭うと今度は頭を撫で始める。この行為にどこまでの効果があるのかレイ自身解っていないが、それでも()()()()()が幼い頃の自分に、こうするのが好きなんだと言っていたことを思い出し、自分を家族として扱ってくれた彼女に恩返しの意味を込めて優しく、それでいて掌の温度が伝わるように力強くやり続ける。


 そうして十分が経過した位だろうか、レイは一人、レーガンを部屋に残しホテルから立ち去った。



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