13音 唐突
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あれから数分、すでに廊下には多くの生徒が立ち話を始め、お互いの自己紹介をしていた。一クラス40人構成の計3クラスが一学年。つまり120人の生徒が居るはずだが、すでに玲のクラスでも退学者が出た。今現在の人数は100人ちょっとと考えるべきだろう。
「ねぇ、少し良いかな?俺、機動科の―――」
「邪魔」
「えっ…」
「うっわ!ダッセぇなーお前。見てろ。なぁ―――」
「論外」
次々と話しかけてくる男子生徒達を一刀両断の勢いで断っていき、玲は廊下の奥へと進んでいく。教室を出てから話し掛けてくる者以外の観察もしているが、正直お眼鏡に適う生徒が居るとは思えない。先程の時間に狡噛に会いに来た生徒はいなかった。つまり玲一人しか特科に選ばれなかったということであり、それを考えれば当然の結果なのだろう。
「あー---!!!朝の!!!」
(今度は誰……)
「今朝はごめんなさい!もう先輩達に二十分以上捕まっていて、流石に限界で……アナタが丁度通りかかったから押しつけちゃった…。私は柴乃咲柚葉!」
(あぁ、あの時の)
「ねぇ、名前を教えてもらっても良いかな?」
「お断りよ」
突出した力があるとは到底思えない子と馴れ合う気は毛頭無い。それよりも暗殺に向けて使えそうな生徒がいないかを見つけるのが最優先事項だ。この子に構っている時間も、暇も、玲には無い。
「ん?…んん?ま、待ってよ!ごめんね、今朝の事は本当に悪いと思っているんだ。でも考えてみてよ?まだ学園生活二日目で緊張しまくりなのに、そんな心理状態の中であんな笑顔が怖い先輩達に何十分も取り囲まれたら誰だって逃げ出したくなるでしょ!え~と、いや。別に言い訳をしたいんじゃなくてですね…んもぅ!とにかく、私はアナタと友達になりたいの!だ か ら!!!名前を教えて!!!」
「うるさい。邪魔よ」
いくら言葉を積んだところで耳を貸す気のない玲は彼女から離れようと、再度鋭い言葉で彼女の頼みを切り捨てる。
「えっ?」
そんな彼女の言葉に柴乃咲も呆気に取られ、開いた口が塞がらない。しかし、柴乃咲はすぐに気を取り戻すと意外にも玲に対して声を荒げることはしなかった。
「そっか~うるさかった、私の声?でも―――じゃあ名前教えてよ。ねっ?」
「…っ。私の言葉は…聞いていたのよね?」
「う、うん。うるさいんだよね?私の声が」
「解っているなら、何故まだ話し掛けてくるの?貴女がそうまでする理由が私には理解できない」
「理由……理由かぁ。うん、それはね~アナタは覚えていないかもしれない、なんなら気付いていなかったかもしれないけど。私ね―――昨日の入学式の時アナタの隣の席だったんだ」
(……?)
「もうね!一目見た時から絶対に話しかけようと思ってたんだ~。まぁ最初の出会いがあんな形になっちゃたのは残念だけど、お友達になりたいってずっと考えてて。……そしたら担任の先生がもう今日の授業はこれで終わりで、後は交流でもしていろって言うからチャンスだって思ってね?そしたらすぐ目の前にアナタが現れてくれるから、今日しかないって!今日を逃したらアナタと関われないんだって思ったら、どうしても名前を訊きたくて。だって―――友達になるのに名前を訊ねるのは絶対条件でしょ?」
目標を決めたら一直線で突き進む超突猛進な性格をしているようで、何が何でも玲の名前を訊き出してやろうという気概がみえる。名前を教えない限り、このやり取りが昼までずっと続くのかと考えると嫌気がさす。
「未来玲」
「えっ?え、今のって……」
「二度は言わないわ。……もうこれ以上関わらないで。貴女を相手にしていると疲れる」
「分かった。今日はもうこれでやめるね!また明日話しかけに行くね~玲ちゃん。これからよろしく!!!」
玲の言葉の意味を曲解したらしい柴乃咲は明日も関わりに行くみたいだ。明日から、この調子で来られるのかと想像すると溜息がでる。
「……ハァ」




