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偽りの静寂者~雑音でしかないこの世の中で~  作者: 空色 蒼
第一章 学園編
11/13

11音 挨拶

□■□



 「全員集まったか…さっさと座れ。おはよう、クズ共。さて、昨日予告した通りまずは科の希望調査を始める。お前等が身につけている端末から俺の方へと送信されるように設定はしてある。昨日のリストから第一希望の科をタッチして送信ボタンを押せ」


 生徒たちは素直に指示に従い、腕時計端末を起動させ希望書の送信を行う。みんな昨晩の内にきちんと希望は決めていたようで未だに迷っているという生徒は一人として見当たらない。


 「送信したな?なら、今からお前等それぞれの端末に演習場の名前が表示される。そこに行け。以上、解散」


 「えっ!?それだけですか?他にも説明することはあるんじゃないですか?」


 「いいや、無い。いいか?俺は必要な事は伝えてある。これ以上何もお前等に伝えることは無いから解散を告げた。俺に文句を言っている暇があるなら、さっさとソレに表示された場所に行くんだな。―――()()()()が痺れを切らしても、俺の知ったことではないがな」


 さっさと行けとばかりに教室を見渡した辻はそのまま教室を出ていってしまった。その場に取り残された彼らは取り敢えずその指示に従うしかないと思い、それぞれが教室から廊下へと駆け出す。授業が始まるまでに残り二分を切っている。急がなければ辻が言う『あいつ等』が何をしてくる可能性がある。玲も彼らに続くように演習場へと向かい出す。


□■□


 「やぁ、君が玲君でいいのかな?」


 玲以外に他の生徒の姿は見当たらず、二階席のど真ん中に座ってこちらに語りかけてくる男子生徒一人のみ。


 「えぇ」


 「なるほど。…小兵君から事前に聞いてはいたけど随分と警戒心の強い子のようだね。嫌いじゃないよ、そういう子は」


 ネクタイもせず、ワイシャツを第二ボタンまで開けていたりと制服の乱れが凄い割には丁寧な言葉を遣うようだ。髪色も赤と派手だが、それを指摘したら玲も人の事が言える髪色ではないので特に話題に挙げることはしない。


 「僕は二年で唯一特科に選ばれた狡嚙(こうがみ)(せつ)だ。よろしく―――と言いたい所だけど、残念ながら僕ら特科は君をまだメンバーとして受け入れることは出来ない。その理由が解るかな?」


 「実力を示せと?」


 「うん、そういう事だね。大丈夫、これは君以外のクラスメイト達も受ける入科前の一種の洗礼みたいなものさ。あぁ念の為伝えておくと、警備科の子達の測定が間違っている可能性があるから…っていう理由ではないよ?その子の実力が何であろうと、僕達はその子が同じ科として今後役に立つ存在になり得るか―――それを見定めるためにヤるんだ。それぞれの科ごとに僕みたいな試験官が派遣されていてね、それぞれのやり方で改めて実力を見せてもらうということさ」


 辻の言う『あいつ等』とは狡噛のような試験官の事を指していたのだと気づく。


 「それで貴方のやり方は?」


 玲がそう訊ねるのを待っていたかのように、狡嚙は顔をにやけさせながら立ち上がると二階席から玲の目の前まで飛び降りてくる。眼前に立つ男の身長は自分よりも高く見下ろされているという感覚が全身を襲う。


 「ふふ、特科だけはその名の通り……特別な科でね。他の科とは一味も二味も異なる試験を受けてもらうことになるよ。もう伝統的な試験内容でね、内部生ならもう知っていたりするのかな?あ~でも君は外部生組だったね。それじゃあ発表しよう。その試験内容とは―――『殺人テスト』!!!」


 「……随分と野蛮なものみたいね」


 「いやいや、これくらい特科に選ばれた子にとっては序の口でしょ?」


 その言葉に何も疑問を感じていないのかその瞳は純粋な感情を醸し出し、彼自身もニヤニヤが止まらないとばかりに右手で口許を隠すようにしている。


 「それじゃあ殺害するターゲットの情報を教えよう。端末を前方に突き出してもらえるかな?」


 玲が言う通りに左腕を前に出すと、狡嚙も自分の端末を出して玲のものに接触させる。


 ―――ピロリン!


 音が鳴り、画面を覗くと『データが送信されました』と表示される。玲は狡噛に視線をやると彼は開けてみてと言わんばかりに顎を上げて指示してくる。玲はメッセージをタップし、ファイルを開く。すると知らない男の顔写真が空中に映し出される。


 「この男は今度うちの学園で開催される『科対抗戦』でテロ行為を企てている者だよ。科対抗戦は来週の土日に警察、軍、政界の官僚達を観客として開催される。君にはテロを事前に防ぐためにこの男の殺害を依頼したい」


 「……なるほどね」


 「何がかな?」


 「―――この科対抗戦は特科の入科試験を実施するためのカモフラージュ。どうやら口振りから察するに例年開催しているみたいね。体のいい餌場をテロリスト共に提供して、試験と一緒にそいつらを潰す。……このシステムを考えた人はイカれているわね」


 おやおや、と目を見開く一方でやはり口許の笑みは消えない。感情を表に出すことの無い玲とずっと感情を出し続ける狡噛は対照的だ。果たして正反対とも思える二人が同じ科の先輩、後輩としてやっていけるのか試験に合格する以前の問題に思えてくる。


 「中らずと雖も遠からずだね。その通り!この行事は飽きることなく学園の生徒を狙うテロリスト達に与えられた格好の場というわけだ。それを向こうは知る由もないけどね。まぁ当たり前だよね!!!知っていたら、わざわざヤられに行こうなんて思わない。でも、学園としては特科の試験を行うためにも重要な場として考えているからね。―――この件に関する情報操作にはかなり力を入れているんだ。けど一つ間違いを正そうか。例年確かにこの行事は開催されているけど、毎年特科に選抜される生徒が出る訳じゃないからね。単純にお披露目会の意味も込められているんだ」


 「そう…」


 間違いの指摘がさほど重要な内容でないことを知り、玲は映し出された男の情報を読み出す。


 『Jack Suzuki

  日系アメリカ人

  テログループ:The Ripperのリーダー

  藤学園の生徒複数名の誘拐と殺害を依頼され、現在日本に仲間と共に潜伏中』


 (Jack the Ripper… )


 欧州でかの天才殺人鬼と謳われた者からあやかったグループ名に玲は呆れる。その後も情報を頭に叩き込んでいく中、狡噛はその様子をじっと見つめる。そうして、全ての資料を十分と経たず読み終えると、玲は口を開く。


 「この試験は一人で…?」


 「いいや。何を利用しても構わないよ?チームやダブル…えっとデュアルの話は辻先生から教えてもらったかな?」


 「いいえ。でも知っているわ」


 「それなら話が早い。けど即席の連携が命取りになることは君もよく解っているはずだ。それにチームとデュアルに関してはきちんと時間を掛けて考えた方が良い。チームの加入や脱退はよくある話だけど、デュアルの解消はほとんど聞くことがない。それだけ皆、この学園で共に過ごす人を決めるのは慎重になっているということだ。なんなら卒業後の進路でも組み続ける人達は多いと聞く。これぐらいの任務で決めるべきことではないよ」


 「…そう。なら単独で構わない。それよりも他には?」


 「即断即決。良い心構えだ。そうだね~、後は単位の取得方法と特科にのみ行われる特別授業やその他カリキュラムを説明する必要があるかな。あっ!因みにだけど、通常授業はどの生徒も必修だからこの時間が終わったら教室に戻ってね。科選択の授業は毎日五、六時間目に行われるからまた午後にここで会おう。それじゃあね、玲君!」


 チャイムが鳴り、狡噛は玲に戻るように手を振る。まだ知りたい情報はあったが今日の午後にまた会えるというのなら急ぐ必要もない。やっと全身に感じる彼からのプレッシャーから解放されると思うと、少し肩から力が抜ける。流石は特科に席を置いている者だけはあると後ろにいる男に視線を送ろうと振り返るが、もうそこに彼の姿はなかった。


 「気味の悪い…」



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