10音 突然
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「君!ぜひともうちの剣道部に入らないかい?」
「いやいや、うちの空手部に来るべきだ!!!」
「何言ってんのよ、テニス部にこそ相応しいわ!」
通学路を歩いていると、学校を取り囲む塀を越えてまで騒がしい声が聞こえてくる。入学式と書かれた看板はすでに撤去され、昨日の時点ではいなかった生徒達が正門までの一本道の左右に立ち並ぶ。どうやら昨日登校していなかった二年生以上の生徒達のようだ。それぞれが「サバゲ―部」や「バスケ部」、「茶道部」などのプラカードを高々と掲げ、勧誘に勤しんでいる。
朝から迷惑だとばかりに玲はその喧騒を耳に入れないようヘッドフォンを装着し、他の新入生達が勧誘という名の罠に引っ掛かっているのを横目に集団の合間を縫うように校舎へと近づく。
「あ、あの…私……部活には」
「そんな事言わずにさ!見学だけでも!!!」
「そうだよ!貴女みたいな子はうちの部活でこそ輝いて欲しいもの!」
またあそこにも先輩達に捕まった新入生の姿が見える。それほど気弱である印象は受けないが、周囲の圧に耐えきれるほどの胆力は持ち合わせていないようだ。うっすらとだが涙目になっている。だが、そんな彼女を見ても玲はお気の毒様と言うような感じで、彼女を中心とした集団も避けていこうとするが…。
「待って…お願い!助けて!!!」
(―――はっ?)
「た、助けてって…ん?あの子は君の知り合いかい?」
「は、はい!!!そのようなものです!なので勧誘ならあの子の方が良いかな~と」
急にこちらを指差して大声を出してきたかと思えば、玲を知り合い扱いにして勧誘の連中を押しつけようとする言動。自分でも申し訳ない事をしているのは解っているようで、先輩達に向ける笑顔が引き攣っている。なるほど、罪悪感を感じているあたり真面目な子なのだろう。だが今その事は関係なく、玲にとっては面倒事を押し付けてきたいけ好かない生徒として認識せざるを得ない。
(逃げるのも手…だけど余計な注目を浴びるだけの愚策ね)
「ねぇ君!俺らの部活にどうかな?」
「私達の方がもっと楽しいよ~。うちに入ろうよ!!!」
女子生徒を取り囲んでいた上級生達はものの見事に全員玲へと標的を変え、様々な勧誘の言葉を投げかけてくる。玲を取り囲む彼らの隙間からこちらに頭を下げる姿がある。そして頭を上げると口パクで「ごめんなさい」と一言。そのまま彼女は玲を置き去りにし、校舎内へと入っていく。
(……)
愚痴の一つでも言いたい状況だが、玲は顔色を変えることなく勧誘の嵐が過ぎ去るのを、授業開始五分前のチャイムが鳴るまでただただ耐えるのであった。




