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名探偵の回想録  作者: 時雨
8/8

回想7   3人で

「......そうか、それはよかったな」 

一之瀬がニッと笑う。

「俺は嬉しいぞ、シーマに友達ができて」

海真も笑う。

今日の海真は朝早くから起きて、一之瀬に昨日の出来事を話していた。結花が協力してくれるということも。

「そうか、あの佐江警部の子が......」

一之瀬はううんと唸る。その反応を見て、海真がはっとなる。

「もしかして、佐江警部って、あの髭面のちょっと太った......」

「残念だったなシーマ。警察関係者の中に、一体どれだけの髭面小太りがいると思う?」

一之瀬はコーヒーを啜りながら苦笑する。

「まあ、特徴としては間違ってはいない。シーマも何度か見かけたことがあるはずだ」

「じゃあ、今度教えてね。ところで、この前言ってた事件って、どうなったの?」

海真も真似してジュースを啜る。それに対して一之瀬は大きなため息をついた。

「ああ、あれか。あれは......断られたよ」

「えっ?」

突然出てきたワードに海真は驚く。

「どういうこと?」

「いや、俺もびっくりしてるよ。突然言われたんだからな。あの日はシーマのこともあって行けなかったが、後日もう一度その店に訪ねたんだ」

一之瀬は目を細めた。

「そしたら、断られた。『もう事件はなかったことにして欲しい』ってね。だから詳しく聞いてみた。『もう万引きだか窃盗だかは収まったんですか』って。したら、向こうはずっと黙ってるんだ」

怪しいなあ、と独り言を漏らす一之瀬がふと時計を見ると、慌てたように言った。

「やばっ、もうこんな時間か。朝食作らないとな。シーマも支度しとけ」

台所へと入っていく一之瀬を見て、海真はううんと唸った。

「怪しい......」


*                       *                        *


「おはようシーマ!」

朝から元気良く、彼女は海真の机へとやってきた。海真はびっくりしながらも、小声で「お、おはよう.....」と返した。周りはそれを怪訝そうに見つめる。

「あの佐江さんが......?」

「あの子誰だっけ」

「確か柚木っていう......」

「ホラ、この前の事件で凄かった子でしょ」

「えー、なんか怖。何されるかわからなくない?」

「佐江さん大丈夫かな」

海真は周りから注目されることへの耐性が無かった。結花はムッとして、教室中に響き渡るいい声で言った。

「あのね、アンタたちがアタシのこと悪く言うのは構わないけど、アタシの友達のあることないこと言うのやめてくれる?」

海真はもう死にそうだった。結花に圧倒されてヒヤヒヤしていた。周りもそれを機に噂話をやめる。 

「あんなの気にしなくていいよ」

結花が海真にニッと笑いかける。

「私たち、友達じゃん」

海真はその言葉に少し安堵した。少し騒がしい朝だった。

休み時間になり、海真と結花が話していると、一人の少女がやってきた。きれいな赤色の髪で、三つ編みを後ろで一つにくくっている。

「よう、ユイ」

鈴が転がるような、きれいな声だった。

「......と、柚木ちゃん」

彼女と目が合うと、海真は思わず目を反らした。凛とした瞳だった。

「あ、初めてやから緊張しとった?自分、ユイの友達やねんけど、仲良くしてくれへると嬉しいねんけどね」

そう言って海真に手を差し伸べてくる。海真は当然混乱した。

「アンタ、名前くらい言ったら?」

結花が呆れ顔で彼女を見やる。その子はせやね、と言うと、んんっと咳払いした。

「自分は桐谷(きりや)しぐれ言うもんやわ。呼び方はとりあえず、しぐれでええで。よろしくな~」

そう言って彼女は海真にニッと笑いかけた。結花がため息をつく。

「変なテンションの子なんだけどさ、それなりに仲良くしてやってよ。悪い子じゃないから」

「『それなりに』てなんやねん!自分はめちゃくちゃ仲良くなりたいんやで?」

ね?と海真に尋ねてくるものだから、海真は混乱した。さっきからついていけていない。

「ホラご覧。混乱してる。海真は人付き合いが苦手なんだから、あんまりグイグイしない方がいいよ」

「せやね、悪かったわ。まあ今日は挨拶しに来ただけやし、ほなまた後でな。ふぁ~眠い眠い」

そう言ってしぐれは立ち去って行った。結花がまた大きくため息をつくと、頭をポリポリとかきながら言った。

「ごめんね、あんな感じの子なんだよ。ホント悪い子じゃないから!でもこれからは3人で仲良くできるといいなぁ~って」

海真があまりにきょとんとしているので、結花がクスクス笑いながら小声で言った。 

「あの子、授業中寝てばっかでいるんだよね。寝るのが趣味でさ。今みたいに、こう長々と立って話せてるのも珍しいんだ」

今のが長々なのか、と海真は思う。どんなに凛としたあの瞳でも、やっぱりどこか眠そうだった。ちらりとしぐれの席を見やると、机の上に顔を埋めて眠っている。

「能天気だよねー。でも一応、しぐれも海真に協力するつもりなんだ」

「えっ」 

海真は驚く。いつの間にそんなことを。結花も気まずそうに言う。

「だから、その......。海真とうまくやれそうなのなんて、アタシらしかいないし......」

その後はゴニョゴニョと何かを言ったようだが、海真には聞き取れなかった。すると、「そんなことより!」と、威勢のいい声が飛んで来た。

「今日の放課後、シーマの家に遊びに行っていい?」

「へ?」

海真は彼女が何を言っているのか一瞬理解できなかった。結花は目をキラキラさせながら海真に詰めよって来る。

「もちろん、"捜査"の一貫としてだよ?今日はシーマからゆっくり、そのユキって子のことについて話を聞きたいなあって思って。......それに」

海真は目を見開く。

「一度でいいから、一之瀬探偵にも会ってみたいし!イケメンなんでしょ?アタシのお父さんのコネもあるだろうし、サインくらい許してくれるよねっ?」 

顔を赤らめながらそんな風に話す結花を見て、海真は苦笑する。

「.......お願いしてみるね」

「ホントっ!?」

やったぁ!と結花が叫ぶと同時に、休み時間終了のチャイムが鳴った。

しぐれもそれを聞いて顔を上げたが、彼女にとってそんなことは、知ったことではないことだった。



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