回想7 3人で
「......そうか、それはよかったな」
一之瀬がニッと笑う。
「俺は嬉しいぞ、シーマに友達ができて」
海真も笑う。
今日の海真は朝早くから起きて、一之瀬に昨日の出来事を話していた。結花が協力してくれるということも。
「そうか、あの佐江警部の子が......」
一之瀬はううんと唸る。その反応を見て、海真がはっとなる。
「もしかして、佐江警部って、あの髭面のちょっと太った......」
「残念だったなシーマ。警察関係者の中に、一体どれだけの髭面小太りがいると思う?」
一之瀬はコーヒーを啜りながら苦笑する。
「まあ、特徴としては間違ってはいない。シーマも何度か見かけたことがあるはずだ」
「じゃあ、今度教えてね。ところで、この前言ってた事件って、どうなったの?」
海真も真似してジュースを啜る。それに対して一之瀬は大きなため息をついた。
「ああ、あれか。あれは......断られたよ」
「えっ?」
突然出てきたワードに海真は驚く。
「どういうこと?」
「いや、俺もびっくりしてるよ。突然言われたんだからな。あの日はシーマのこともあって行けなかったが、後日もう一度その店に訪ねたんだ」
一之瀬は目を細めた。
「そしたら、断られた。『もう事件はなかったことにして欲しい』ってね。だから詳しく聞いてみた。『もう万引きだか窃盗だかは収まったんですか』って。したら、向こうはずっと黙ってるんだ」
怪しいなあ、と独り言を漏らす一之瀬がふと時計を見ると、慌てたように言った。
「やばっ、もうこんな時間か。朝食作らないとな。シーマも支度しとけ」
台所へと入っていく一之瀬を見て、海真はううんと唸った。
「怪しい......」
* * *
「おはようシーマ!」
朝から元気良く、彼女は海真の机へとやってきた。海真はびっくりしながらも、小声で「お、おはよう.....」と返した。周りはそれを怪訝そうに見つめる。
「あの佐江さんが......?」
「あの子誰だっけ」
「確か柚木っていう......」
「ホラ、この前の事件で凄かった子でしょ」
「えー、なんか怖。何されるかわからなくない?」
「佐江さん大丈夫かな」
海真は周りから注目されることへの耐性が無かった。結花はムッとして、教室中に響き渡るいい声で言った。
「あのね、アンタたちがアタシのこと悪く言うのは構わないけど、アタシの友達のあることないこと言うのやめてくれる?」
海真はもう死にそうだった。結花に圧倒されてヒヤヒヤしていた。周りもそれを機に噂話をやめる。
「あんなの気にしなくていいよ」
結花が海真にニッと笑いかける。
「私たち、友達じゃん」
海真はその言葉に少し安堵した。少し騒がしい朝だった。
休み時間になり、海真と結花が話していると、一人の少女がやってきた。きれいな赤色の髪で、三つ編みを後ろで一つにくくっている。
「よう、ユイ」
鈴が転がるような、きれいな声だった。
「......と、柚木ちゃん」
彼女と目が合うと、海真は思わず目を反らした。凛とした瞳だった。
「あ、初めてやから緊張しとった?自分、ユイの友達やねんけど、仲良くしてくれへると嬉しいねんけどね」
そう言って海真に手を差し伸べてくる。海真は当然混乱した。
「アンタ、名前くらい言ったら?」
結花が呆れ顔で彼女を見やる。その子はせやね、と言うと、んんっと咳払いした。
「自分は桐谷しぐれ言うもんやわ。呼び方はとりあえず、しぐれでええで。よろしくな~」
そう言って彼女は海真にニッと笑いかけた。結花がため息をつく。
「変なテンションの子なんだけどさ、それなりに仲良くしてやってよ。悪い子じゃないから」
「『それなりに』てなんやねん!自分はめちゃくちゃ仲良くなりたいんやで?」
ね?と海真に尋ねてくるものだから、海真は混乱した。さっきからついていけていない。
「ホラご覧。混乱してる。海真は人付き合いが苦手なんだから、あんまりグイグイしない方がいいよ」
「せやね、悪かったわ。まあ今日は挨拶しに来ただけやし、ほなまた後でな。ふぁ~眠い眠い」
そう言ってしぐれは立ち去って行った。結花がまた大きくため息をつくと、頭をポリポリとかきながら言った。
「ごめんね、あんな感じの子なんだよ。ホント悪い子じゃないから!でもこれからは3人で仲良くできるといいなぁ~って」
海真があまりにきょとんとしているので、結花がクスクス笑いながら小声で言った。
「あの子、授業中寝てばっかでいるんだよね。寝るのが趣味でさ。今みたいに、こう長々と立って話せてるのも珍しいんだ」
今のが長々なのか、と海真は思う。どんなに凛としたあの瞳でも、やっぱりどこか眠そうだった。ちらりとしぐれの席を見やると、机の上に顔を埋めて眠っている。
「能天気だよねー。でも一応、しぐれも海真に協力するつもりなんだ」
「えっ」
海真は驚く。いつの間にそんなことを。結花も気まずそうに言う。
「だから、その......。海真とうまくやれそうなのなんて、アタシらしかいないし......」
その後はゴニョゴニョと何かを言ったようだが、海真には聞き取れなかった。すると、「そんなことより!」と、威勢のいい声が飛んで来た。
「今日の放課後、シーマの家に遊びに行っていい?」
「へ?」
海真は彼女が何を言っているのか一瞬理解できなかった。結花は目をキラキラさせながら海真に詰めよって来る。
「もちろん、"捜査"の一貫としてだよ?今日はシーマからゆっくり、そのユキって子のことについて話を聞きたいなあって思って。......それに」
海真は目を見開く。
「一度でいいから、一之瀬探偵にも会ってみたいし!イケメンなんでしょ?アタシのお父さんのコネもあるだろうし、サインくらい許してくれるよねっ?」
顔を赤らめながらそんな風に話す結花を見て、海真は苦笑する。
「.......お願いしてみるね」
「ホントっ!?」
やったぁ!と結花が叫ぶと同時に、休み時間終了のチャイムが鳴った。
しぐれもそれを聞いて顔を上げたが、彼女にとってそんなことは、知ったことではないことだった。




