表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名探偵の回想録  作者: 時雨
4/8

回想3   木更由紀

「......とまあ、そんなことがあったわけだ」

一之瀬は一通り話し終わり、ため息をついて、コーヒーを啜った。客の少ないおしゃれなカフェのカウンターで、一之瀬はその人と2人きりでいた。

「なるほど。そりゃあ、災難だったっスね。で、シーマちゃんはその後大丈夫だったんスか?」

その相手は、コーヒーにドボドボと角砂糖を入れながら尋ねた。

一之瀬は気だるげに答えた。

「しばらく、頭が痛いと言って寝込んでたよ。顔色も悪かった。変な夢を見ていたらしい。これはもう、完全に俺のせいだよな......」

一之瀬はまた大きなため息をついた。一之瀬が手を挙げて店員を呼ぶと、メロンソーダフロートを1つ頼んだ。

「相変わらずがっつりしたのいきますね」

その相手は苦笑いした。

「まあ、そういうことも受け入れて助手になってくれたのがシーマちゃんじゃないっスか。心配だけど、頑張ってもらうしかないっスよ」

一之瀬はその相手がうまそうにコーヒーを啜る様子を眺めた。

「......ホント、いつも悪いな、遥人。こんな話聞いてもらって」

その相手、三島遥人(みしまはると)は、一之瀬に向けてニッと笑った。

「当たり前じゃないっスか。なんてったって、俺は一之瀬光探偵の弟子なんスから!」

一之瀬は改めて彼を観察した。短く切り整えた色素の薄い髪は、太陽光に当たってライオンのたてがみのように金色に染まる。ぱっちりとした目に整った顔は、どこか優しい印象を与えた。

「そういえばお前、またとなり町での研究に行くんだろ?いつ頃帰ってくるんだ?」

遥人は通っている大学で、考古学を研究している。本人は地味でモテないと言ってはいるが、やっぱり楽しいらしい。

遥人はううーんと唸った。

「一応は来週には帰ってくる予定なんスけど、また前回みたいに長引く可能性は大なんで......」

「そうか。今は何の研究をしているんだ?」

「今は縄文遺跡をテーマとした大々的な研究を!今回のことが解明されたら、そりゃあもうマスコミにも引っ張りだこで......」

遥人は空気が抜けた風船のようにしぼんだ。一之瀬が驚いたように尋ねる。

「......どうした?」

遥人は居心地悪そうに体を縮めた。

「いや、その。俺が大学の研究ばっかりに精を出して、先生の手伝いとか全然できてないから......俺、弟子なのに、ホント申し訳ないなって思って......」

遥人は頭を下げた。一之瀬はいかにも心外という風に目を見開いた。

「......頭を上げろ。誰もそんなことは咎めちゃいないだろう。お前は自分の好きなことをやっているだけだ。探偵の仕事だって、常日頃からあるわけじゃあない。気が向いた時にまた会いにこればいいさ」

遥人は嬉しそうに笑った。

「は、ハイ!俺、頑張」

「メロンソーダフロートのお客様」

店員が何の躊躇いもなくやってきた。

一之瀬はスッと手を挙げた。


*                 *                 *


海真はしばらく自室で休んでいた。恐ろしく気分が悪い。前にもあの夢を見た気がする。海真は今までに何度も夢を見ている。そのほとんどがユキの出てくる夢だ。だが、今回のは今までのと何かが違う。胸がキリキリする。何かが引っ掛かる。

「......事件の話、どうなったんだろ」

海真は当分行けそうにない。一之瀬が1人で行ってしまったのかもしれない。

『先生、私、ユキの家族に会いたい』

海真はゆっくりと瞼を閉じた。

『葉山家じゃなくて、その前の......ユキが、孤児院に入る前の、ユキの本当の家族に会いたい』


「ユキはずっと言ってた。前の家族に会いたいって。でも、前の名字も知らないし、孤児院に来たのは3歳くらいの時だったから、あんまり覚えてなくて。でも1つだけ、お姉ちゃんがいたことは覚えてるんだって。お姉ちゃんは優しくて、どうして自分はお姉ちゃんと一緒にいれなかったのか、知りたいんだって。だから、ユキの無念を晴らすためにも、私がそれを知りたい。もしそれが知れるんだったら、私、助手になります」


「ユキちゃんの孤児院に入る前の名字ならわかったよ」

一之瀬は言った。

「『木更』だ。彼女の本当の名は、『木更由紀(きさらゆき)』」


それを聞いた瞬間、その響きに、海真は震えが止まらなかった。それから一之瀬は、警察とも協力して、木更家の特定に努めたが、木更家は一向に見つからなかった。海真は、情報を集めるべくして、一之瀬の助手になり、学校へも通った。一之瀬が担当した事件関係者には、木更家の心当たりを聞いて回ったが、それも無理だった。


目を開けると、そこはいつもの自室だった。先ほどまでのダルさは、嘘のように消えていた。

「......お腹空いたな」

海真はベットを下りて、リビングへ向かった。

「おー、シーマちゃん」

そこには遥人がいた。にっこりと笑ってピースまでしている。

「こんにちは、遥人くん」

「先生に頼まれて、面倒見に来たんだ。あの人、1人で事件解決しに行ったんスよ。体調は、大丈夫そうっスか?」

海真はこっくりと頷いた。

「お腹空いちゃって。事件って、今朝言ってた事件のことかな。私も捜査に入れてくれるって言ってたんだけど」

遥人が首をかしげる。

「じゃあきっと先生は、シーマちゃんの体を気遣って1人で行ったんだと思うっスよ。あ、お腹空いたなら、なんか作ろうか?」

「遥人くん、料理できるの?」

海真が怪しげに遥斗を見つめる。

「こう見えても得意なんスよ、料理!よし、じゃあシーマちゃんをあっと言わせるか!」

遥人はそう誇らしげに胸を反らして、キッチンへと入って行った。海真はその様子を見てクスクスと笑った。

「わっ、なんスかこの冷蔵庫!」

声だけがこちらへと聞こえてくる。

「食材がたんまりと......。こりゃ何でも作れそうっスね!さすが料理好きの先生!シーマちゃんは何が食べたいっスか?」

海真はうーんと唸った。

「じゃあ、オムライス!」

海真はドキドキと返答を待った。

「いいっスよー。子供っぽいチョイスで」

「最後が余計」

海真がそう突っ込んで、2人で笑った。

「じゃあちょっと待ってて」

海真が窓の外を見ると、夕焼けが広がっていた。もう夕方か、と思いつつも、1人の少年の姿が頭に浮かび上がった。

(あの子は一体何なんだろう)

しばらくしてケチャップの香ばしい香りが漂ってきた。

海真は、明日からの学校が、少し楽しみになったような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ