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名探偵の回想録  作者: 時雨
1/8

プロローグ  ただの夢


気づけば暗いところにいた。

寒くて、痛い。 早く家に帰りたい。温かい、あの家に。


*         *          *


「いたっ」

そこはいつもの自室のベッドだった。そしていつも通り天井に頭をぶつけた。

頭をさすると、じっとりと汗がついた。

悪い夢でも見ていたらしい。

どんな夢だったか思いだそうとしても思い出せない。それが夢だ。

「シーマ、起きたか?丁度朝飯ができたぞ」

下から威勢のいい声が聞こえてくる。大きなあくびを一つすると、梯子を下りてリビングへと向かっていった。そして朝食を盛るその男に声をかける。

「おはよう、先生。どうして起きたってわかったの?」

男は誇らしそうに胸を反らして言った。

「いつも通り、寝室から鈍い音がしたからな。頭をぶつけたんだろう?この名探偵、一之瀬光にはお見通しさ」

「推理でもなんでもないでしょ」

そう、彼は探偵だった。一之瀬光(いちのせひかる)。この街では知らない人はいない、名探偵。そして、医者でもある。

そして私は、彼に雇われた助手、柚木海真(ゆずきかいま)。男のような名前で、私は好きじゃない。なんでも昔、私がお腹の中にいた時、親は男の子だと勘違いしてその名をつけたらしい。まあどうでもいいが。

顔を洗って歯を磨き、準備は整った。

席につくと、目の前にはたくさんのフレンチが並んでいる。私は目を輝かせた。

「いただきまーっす」

一之瀬はそんな彼女を見て目を細めた。

「そういえば、今日は依頼が来ているんだ」

海真は動きを止める。

「ホントに!?」一之瀬は頷く。

「私の出番?」一之瀬は笑う。

「かも、しれないね」

「どんな依頼?」

一之瀬がうなる。

「うーん、まあ一応窃盗が増えてるってので依頼を受けたね。ま、万引きだね」

その曖昧な言い方に、海真はうかがわしい目を向ける。

「えっ窃盗なの?万引きなの?」

一之瀬はさあ?と言わんばかりに肩をすくめて見せる。

「まあ事情は行けばわかる。シーマも、食べ終わったら学校に行かないと。友達作り頑張れ~」

海真はむむむとうなる。この一之瀬に雇われてから学校に行き始めたのだが、まだ友達が一人もできていない。

「······頑張る」

そうして、今日も海真はしぶしぶ学校へ向かった。



そう、これはまだ誰も知らない。

小さな小さな一つの物語だった。



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