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宇宙人到来  作者: 南 北道
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未知の知的生物

ショートショート


宇宙人到来


ある日のことである。

晴天の昼である。突然日が影ったので空を見上げると上空に巨大な円盤が音もなくあった。

まさに突然の出現である。しかも何の音もしない。

テレビではたちまち大ニュースとして報道された。その巨大円盤は世界の有名都市に出現しているらしい。パリ、ロンドン、ベルリン、ニューヨーク、カイロ、北京、東京、ニューデリー、その他にも世界の国々の首都の上にその巨大な円盤が、上空にとどまっているらしい。

各国の空軍は一斉に飛び出し、その巨大円盤の周辺を探りながら様々の電波で反応を見たが、何の応答もなく、ただ沈黙したまま停止しているだけである。地球規模の恐怖は極点に達した。人々は恐れて部屋に籠ってしまった。やがて日がたつとともに、慣れというのか、好奇心というのか、あるいは初めの恐怖が和らいできたのか、その円盤の沈黙が安全だと勘違いしたのか、ともかく、初めは恐る恐る外に出てそれを見上げた。それでも円盤は沈黙していた。

 円盤を冷静に見ることもできるようになった。各国の空軍はその円盤の大きさも計測した。ほぼ直径100キロくらいの巨大円盤である。厚さは500メートルくらい、地上から10キロくらい上空に停止したままである。地上から見ると空を覆っているように見えるが、冷静に見ると巨大すぎて、恐怖がさせたのかも知らないが上空を塞いだように見えても、実際は上空の全部の空を占領しているわけではなかった。

 人々はともかく日常生活をしなければならない。会社に行くもの、学校に行くもの、買い物に行くもの、遊びに行くものたちの様々の日常は次第に回復した。巨大円盤の未知の恐怖は有るものの、沈黙している円盤に対して恐怖ばかりで家に隠れていても仕方がないと思い始めた。

各国の政府は、その円盤に対してどのように接するか。その円盤に悪意があるのか、ただ単に交流のために地球訪問をしたのか、議論は白熱したが、空軍のあらゆる伝達手段も無視され、あるいは初めから通じない未知の文明なのか不明のまま、巨大円盤は沈黙を続けていたのだ。

人々は日常を取り戻し、巨大円盤を見上げるのは単なる見物になってしまった。

 円盤は金属製の光沢を発揮して、まるで卵の殻のように継ぎ目もなく、どこが出入り口になるのかすらもわからなかった。連日テレビ放送は巨大円盤を生中継して、評論家は各自のもっともらしい意見を言った。が、それは何の意味もなかった。全く得たいが知れないのだから、どうしようもなかった。

 国連は、この未知の物体に対してどのように接触するかを検討したが、どんな応答手段も通じない相手に、それでは形程度の攻撃をしてみようかという案が出された。

 人々は今では恐怖よりも好奇心が勝っていた。沈黙する円盤に軽い攻撃でも、空軍が攻撃すれば、どのような変化が起きるのかと人々は外に出て、その様子を観察するために、かたずをのんで見守っていた。

世界の大勢の人々が会社を休み、学校を休み、買い物を中止して、遊びを中止して、上空を見上げた。空軍の飛行機が無数に飛び出した。そして一応の攻撃を加えてみた。ミサイル程度のものでは、何の損傷もつけることはできなかった。

 その時である。上空の円盤の下部の色が変わった。

巨大円盤の下部に、円盤と相似形の形をした円盤より一回り小さい円盤形の色が変わった。それは空間のようにも見えるが、ただ半透明に色が変わっただけのようにも見える。やがて音が聞こえてきた。ヒューという台風の時の風の音のように聞こえた。天気は晴天である。円盤の周囲の空は青空である。それは円盤からの音というより、地球の風の音のようでもあった。しばらくその音が続くと、人々の体から体重がなくなるような気分になりだした。人々が浮き出したのである。

部屋にいた人間が空を見上げると大勢の人々が上空に群れて浮き上がっていた。その人々の群れは巨大円盤の色の変わった円盤の部分に吸い込まれるように消えていく。次々と人間がその円盤に吸い込まれるように見えた。

 この日、円盤に対して小攻撃で反応を見ることに決定したことで、大勢の人類は円盤を見物するために外に出ていた。それらの人類が突然に円盤の下部の色が変わって、しばらくすると吸い込まれるように人間の群れが浮き上がり、上空10キロの円盤の中に消えていった。 

それは大体5時間くらいの出来事だった。やがて、円盤の下部の変色部分が消滅した。と共に、それは全く跡形もなく初めの卵のように継ぎ目も見えない円盤形に戻った。そして次の瞬間、ふっとその円盤は消滅した。上空はこの一か月余り何事もなかったかのように青空が広がっていた。だが、地上では、多くの人類が消滅したことで大混乱が起きていた。父母を失った子供、子供を失った親、隣人を失った人々、あちらこちらで悲嘆の涙と絶叫が飛び交った。

 一日たち、2日たてば、世界の国々は人類の人口の1割程度が消滅したと報じた。会社は再び動き出し、工場も稼働し、一割の人口の消滅を埋めるかのように、日常生活は続けなければならなかった。が、それはそんな甘いものではなかった。


消滅した都市


世界の主要都市から大勢の人々が消滅した。だが、それは爆撃のような悲惨な光景を見せることもなかった。負傷者や死体が無数に転がっているわけでもなく、ビルや橋が破壊されたわけでもない。むしろ大都市は整然としており、まるで早朝の風景のようであった。

 だが、大都市や首都から大勢の見物人が見知らぬ物体に吸収されたように消滅した結果、世界の政官財の指導者たちも消滅した。地方では何の影響も受けない会社、工場、自治体が残っていたが、指導者たち、首相、大統領、君主、大企業の社長、大学教授、警察官僚、軍事官僚、それらの第一線にいるべき指導者たちは消滅してしまった。世界の人口の一割ほどが消滅したと報道されたが、実体はおそらくそれより少ないだろう。ただ、世界の主要都市と首都から多くの人々が消滅した弊害は大きかった。国そのものが動けなくなってしまった。東京はそのままあるが、本来そこにいるべき群衆はいないばかりか日本の指導者層はほとんど消滅してしまったのだ。飛行機も飛ばず、新幹線も走らず、車も停車したまま、電車も地下鉄もそのまま、電機はやがて停電した。病院も患者を残したまま、開店休業になってしまった。地方の自治体に対する指示も、会社の本部からの指示もないままに、世界はどこも機能不全に陥った。

 だが、大都会のインフラはそのままである。冷静に考えれば、人口が突然減少しただけである。台風や地震のような災害ではない。死体も負傷者もいない風景は異様でもあるが、残忍性は感じられない。それが救いのようだった。地方自治体はそのまま残っている。地方の指導者層もそのまま残っている。支店業務も工場の組織もそのまま残っている。次第に地方の指導者層が、国の第一線の消滅した指導者層の代わりを務めるようになり、やがて、世界の混乱は次第に回復しだした。意外なことに、世界の対立も減少した。人々は自分たちの前に人類をはるかに超えた異次元の知的生物の存在を実感したのだ。軍事対立が子供の喧嘩のようにばかばかしくなり、紛争は減った。紛争している場合ではないことに初めて気が付いたようだ。

 世界の指導者たちが消滅して、それまで二流の指導者だった人たちが、指導者に入れ替わった。現場をよく知る二流の指導者たちはかえって現実的になり、意外とうまく行政も会社運営もうまくいった。人類も捨てたものではない。やればできるのだが、日常の中で知らず知らずのエリート教育に騙され、特権化していく自分たちの精神文化の変化に気が付かなかっただけである。世界は平和を取り戻し、地球は平安になった。


エリートたちの生活


 科学は進歩した。今では農業が工業になってしまった。農地で時間をかけて作るということはなくなった。工場で短時間に収穫できるようになった。蛋白質は化学合成ですべて賄うことになった。自然破壊は進み、農地であったところは砂漠になり、反対に山奥の森林地帯は暴風雨が日常となっていた。山崩れ、がけ崩れ、土石流はいたるところで発生していた。  

穏やかな自然はわずかに残るだけとなり、そこで遊ぶことはエリートだけの特権になっていた。

エリートになると仕事はしなくてもよかった。仕事はしないが収入だけは特別大きかった。巨額の収入は使っても使っても減ることはなかった。金で解決できないことはなかった。どんな無理なこともできた。行きたいところに行き、食べたいものを食べ、着たいものは着る。現実の多くはまがい物に過ぎないが、彼らエリートだけはいつも本物の景色、本物の食事、本物の住まい、本物の衣服だった。

 家族団らんのキャンプは最高の贅沢だった。エリート家族の久しぶりの穏やかな自然の中でのキャンプである。昼ご飯は本物の肉でバーベキューである。本物の肉が食べられることなどエリート以外にはなかった。時々夕食には刺身料理を食べることができた。これもエリートだけの特別料理である。子供は新鮮な刺身料理が好きだった。まだ刺身の身がぴくぴくと動いている新鮮な刺身料理だった。「あっ、動いている。まだ生きているのだ」新鮮な刺身を食べて子供は幸せを感じた。


まさるの生活


 もうこの時代は勉強することは無くなっていた。かつて受験生が覚えていた知識はすべてコンピューターに記録されていた。そのコンピューターも腕時計の大きさになっていた。学校に行く年頃になると科学病院に一か月ほど入院した。そこでコンピューターに記録された知識は脳に直接転写された。今では誰でも知識人だった。

 勉強からの苦痛は無くなったが、子供たちが幸せだと感じることは少なかった。

 100年前に突然宇宙船がやってきて、世界の主要都市から数千万人の人間が消えてしまった。東京の人口は一挙に数万人に落ちてしまった。だが、それは破壊を伴うものでなかったから、住まいも施設も店も会社もそのまま残った。ただ、それを運営する人間がいなくなっただけである。だから、地方の役人、支店、工場から、次々と人が派遣され、やがて東京は何とか運営できるようになった。それはまさるの曾おじいさんの時代であった。祖父の時代を経て、父の時代になっていた。人口もほぼ元通りになった。まさるもその運営の一員であった。年齢は少年であるが、知識は大人と変わらなかった。だから、お父さんと一緒に東京都庁に行って、同じような仕事をしていた。ただ、少年であるから、成人までは父親と同じ仕事をすることが義務教育に変わる義務就労というモノに変わった。そのようにして社会の仕組みを体験するのだった。

 ある日のことである。それは再びやってきた。空を見上げれば巨大な円盤が居座っていた。

世界の主要都市の上空にそれは出現した。伝説として外に出たものは消滅したというから、誰も外には出なかった。空軍は傍観していたわけではなかった。すぐに攻撃にかかった。あれから100年、ミサイルの技術も破壊力も格段に増した。一斉にミサイルが発射された。だが、それは何の反応も示さなかった。やがてミサイル攻撃が全く無駄だと知った人類は会議を開いた。どうするか。そのころのことである。その巨大な円盤から美しい音楽が流れてきた。人々はその音楽に魅せられた。平和な、平安な気分になってきた。これは神の使いかもしれないと人は思った。前回消滅した人々は神に召されたのかもしれない。と思うようになった。何もしない巨大な円盤が、空に浮かんだまま、美しい調べの音楽を奏でる。平和な気分で人々は外に出ていった。宗教家は、これは天使の姿だと人々に語り掛けた。そうして多くの人が外に出て空を見上げた。まさるもその一人だった。

 やがてまさるの体が軽くなりだした。けっして不愉快ではなかった。身も心も軽くなっていくのが解った。周りを見ると大勢の人が浮いていた。浮いたまま、巨大な円盤に吸い込まれるのが解った。

 檻のように区切られた中に、100人程度ごとに隔離された。みんな立ったままである。横たわることは不可能である。いつの間にか衣服がなくなっていた。みんな生まれたままの姿である。老若男女が入り混じって収容させられた。誰かがが言った。これはエデンの園でアダムとイブがリンゴの実を食べる前の姿だ。これはきっと天国への道だ。

 どうしたわけかお腹はすかなかった。だが、生理的欲求は確実にくる。小便と大便は我慢できなくなり立ったまま、その場に垂れ流す以外に術はなかった。猛烈な睡眠が襲ってきたが横たわることはできなかった。立ったまま、いつの間にか隣人にもたれて眠る。当然浅い眠りで終わる。小便と大便の排泄物の中で、その悪習と汚れにも慣れてきた。睡眠不足は地獄のような苦しみだった。とうとう肉体的に弱った人間が死んでいった。その死臭も加わった。あるとき、その死体だけが空中に浮かびどこかに消えていった。

 まさるは疲れ果てた。もう死んだほうがもういいとさえ思った。そんな時、まさるの体が空中に浮いた。浮いたまま何の模様もない部屋に運ばれた。しばらくいると周りから何やら風のようなものが体に触れた。自分の体から汗や排せつ物の汚れが取れていくのが解った。久しぶりに清潔になった開放感がやってきた。睡眠不足の肉体はそのまた横たわって爆睡に入っていた。

 突然、激痛が走った。右腕が切り取られ、今頭上に大きな人間らしきモノが大きな刃物を振り下ろそうとしていた。左腕に衝撃が走り、次に両足に衝撃が走った。悲鳴を上げたが、自分の腹の上に大きな手が添えられていて身動きができなかった。やがて、腹に刃物が向けられ、内臓が取り出された。次に胸に刃物が向けられ、肋骨がむき出しなり、肉がそぎ落とされ、心臓は何故か動いていた。痛みは極点に達し、悲鳴は絶叫となったが、巨人には聞こえないようだった。やがて自分が大きな器の上に移され、どこかに運ばれた、上を見上げれば、巨人の子供のような目が見えた。私は苦し気に身もだえした。早く殺してくれと叫んだ。巨人の子供が口を開いたようだった。「お父さん、見て、これまだ生きているよ、新鮮な刺身だね]。


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