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最終的に書きたいものの一部

短編 細雪・密室・永遠

作者: 間開

3つのお題をジェネレーターで生成し、短編小説にしております。

すみません、細雪のイメージが掴めないため誤用かも知れません。

ありきたりではありますが、最後までお付き合い頂けると幸いです。

 天気予報の通り、坂の頂上に着く頃には雪が降り始めていた。

 本来であればもう少し早めに家を出るはずだったが、外気温に触れるのが億劫で普段より一杯多めにコーヒーを飲んだのも原因の一つではある。明確なタイムリミットは学園の年末休暇終了まででありそこまで急ぐ必要は無かった。しかし、今年中に決着をつけておきたいという心理――食料を買い込んで年始に出歩きたくないという主婦にも似た考えが頭の片隅に存在した。


 車を止める。ばたむという音と共にひんやりとした外気に触れる。寒いのが苦手というほどでもないが思考が鈍るような気がしてならない。門扉を開けると同時に警備員が詰め所から出てくるのが見える。

 寝ている事の多い警備員に手を振り、いつも通り詰め所で待っていてくれと伝える。結局は書類へサインする必要があるのにわざわざお出迎えするのは合理的ではないし相手をする時間も勿体ない。私の車が見えた時には待っていて良いという非公式ルールを作ったはずだが、それを知らない者なのか。キーを回しゆっくりとアクセルを踏む。スムーズな走り出し、タイヤがアスファルトを噛む音に短い舌打ちを乗せつつ停車位置へと滑らせる。


 来訪の予定……作業が有ることは先週の時点で事前に伝えていた。設置する台数と作業時間数の見積もりを提出することが必須ではないが、警備する側としては有った方が安心するだろうと作ったのだ。不用な誤解の生まれる余地は極限まで減らすべきだし定型化することで以降の作業手順について説明する手間が省ける。毎回同じことを同じように説明するのはまさに無駄の塊だ。


 車を完全停止させる。ウィンドウに薄っすらと積もる雪に若干の煩わしさを感じていた。イチとゼロ、降るか降らないかの二択であるべきなのに無視できる程度のこの雪。誰に文句を言うことも出来ないし考えるだけの価値も無い。

 車を降り最短ルートで校門へと戻る。気を利かせたつもりなのかわざわざ門を閉めようとしている姿に苛立ちを感じる。本日の来客は私だけで有ることは事前に確認していたし、帰った後に閉めた方が効率的だ。ただ彼らの業務内容としてはそれが正しいのかもしれない。何に対してカリカリしているのだと自分を諌めつつ、警備所のガラス戸を指でノックする。


 いつもの顔だ。こいつは話が早くて助かる。彼自身は楽をすることを良しとしており私は費用対効果を重んじる。共通する部分が多いビジネスパートナーと表現するのが適切だろう。

「やぁ。連絡していたのだが聞いているかね」普段よりも柔らかく伝わるよう明るい口調にしたが相手の表情は暗い。

「何かあったのか? 誰も居ないというのに。」

「何も無いから困ってるんですよ、新人のお守りを任されて暇からは程遠いんですがね」と校門から戻ってくる相棒を指差した。

 ははあ、だからか。合点がいったと言わんばかりに頷いてみせる。規則としてはこうですよねと口うるさく言われるのか、ご指導ご鞭撻の真っ最中か。どちらにせよ年末だと言うのにこんなところに詰め込まれて「災難だな」と言うと、深い溜め息で答えてくれた。


「で、何もなければ二時間程度でしたよね。」

「ああ、そのつもりだが。何かあるのかね?」この後の予定などを聞くつもりは無かったし興味もない。確認の意味を含めての問いかけだとは分かっていたが、何となしに聞いてみる。

「ええと……言ってもいいのかな。教員棟の赤外線センサーが誤反応しているので業者を呼んでいるんですが、明日まで来れないそうでして。」

 職員室とコンピュータールームを含む教員棟には高額な機器や楽器類が多々置いてあり、厳重な警備が敷かれている。重要なものを一箇所にまとめるのは実に合理的だがこういうイレギュラーに弱い部分もある。さしずめ、反応がある度に確認しに行くが何もないというのをここ数日繰り返しているのだろう。何もなくて困っているというのは中々に洒落が効いている。

「お互い良い一日となるよう祈っているよ」と手元の書類に記入を済ませ、いつの間にか戻ってきていた奥の警備員に目をやる。先程までは制帽用のビニールと半透明のレインコートを上に被っていたが既に取り払い通常のスタイルとなっている。確かに初めて見る顔で、髪型や化粧っ気の無さから生真面目な印象を受ける。これはさぞかし質問攻めにあっているのだろうなと気の毒に思ってしまった。


 職員用玄関への道はうっすらと雪が積もり始めていた。

 細かな雪でも蓄積し人を転ばせる可能性がある。メンテナンスを怠った銃は暴発もするしいざというときに動かない。そういう意味では新機種へのリプレースが望ましいのかも知れないが、メンテナンス料と購入代金のどちらが高く付くかは想像に難くない。業者への委託が安くなっているとはいえ自分たちの仕事道具――学生たちにとっての長い相棒となる彼らを他人に任せたくないという実にシステマチックではないその考えが、今の私をここに立たせている。

 下駄箱に雪のついた靴を入れると職員室へは立ち寄らずそのまま作業現場へ向かう。機材は休暇が始まる前に搬入していたし、開梱・設置・セットアップのみなら流れ作業で二時間程度。無駄に人員を動かす必要も無い。


 誰も居ない校舎は雪の降る音すら聞こえそうな静寂に包まれていた。普段がオンなら今はオフであり、基盤上の電流が生徒を表すのなら私達は抵抗である。どちらが無くても回路としては成り立たず、インプットされた知識が教養としてアウトプットされていく洗練されたシステム。


 ロマンチストとリアリストの境界はどこかと聞かれれば、文学を学んだ事が無いので分からないと答えるだろうし、自身がどちらに居るのかと問われればどちらとも言い切れないと返事するだろう。デジタルとアナログ両方の良さを持ち合わせていることが重要でありどちらかに偏ることで視野が狭くなるのは勿体ない。部屋の前でネックストラップを伸ばしカードリーダーへと近づける。


 ブラウン管テレビの匂いと表現しても若い世代には通じないだろうし、同世代に言っても変人扱いされる。どんな仕組みで動いているのかぐるぐると見回して分解し、父親にこっぴどく叱られつつも元通り組み立て直したのを思い出した。電源を入れた際のショートしたような音とともに立ち上る機械臭……明確にその中の何が匂いを発しているかは分からないが、薬品のようで金属味を帯びたその香りが脳を仕事時間に切り替える。


 一角に高すぎないよう積まれたダンボールの山を見やる。全部で64台という数字に若干のキリの良さを感じるのはもはや職業病というべきだろう。全て開けて横並びで作業さえすれば予定通りに終わるという明確な自信があったものの、常に想定外の事態を想定しておくべきなのだ。


 べりべり、ばこん、ごとん。なるべく発泡スチロールの屑がマットに落ちないよう注意しつつ作業を進める。作業中の待ち時間がどこに発生するかなど完全に頭の中に入っているし今更迷うこともない。淀みのないこの手の動きと足運びは連携プレーの必要性すら感じさせないだろう。この作業自体の楽しさを他人に譲るかと言われればそれはノーであり、マニアかと言われればイエスである。


 全ての箱を空けて袖をめくる。腕時計には10時と表示されており予定タイムの半分しか経過していない。我ながらベストタイムすら狙えそうなこの作業速度を褒めてやりたい。だが、賞賛の言葉をかけてくれる人間はここには存在しない。


 ふと喉の渇きを覚える。空調の止まった部屋が寒かったので暖房を入れたが、元から少々高めに設定してあったか、それともいい運動となっていたのか。セットアップが進行中であることを指すその進捗バーを横目に財布の中に小銭が有ったか記憶をたどる。胸元に揺れるストラップを掴み、カードリーダーへと接触させる。


 違和感に気がついたのはその時だった。普段であればカードをかざした時点で鳴る筈の解錠音が無い。入室時にも鳴らなかったかは定かではないが、ドアが開かないという事実だけ見つめるべきだ。

本来であれば外部への連絡を取れる状態にしていなければならない。だがダッシュボード上にスマホを置き忘れていたことに今更気づいた。学内の内線を取る相手も居ない……いや、警備所がある。

 教員用のデスク脇に置かれた内線表を頼りに番号をプッシュする。一瞬受話器の上げられる音がするも、なぜか切れてしまう。三度目の通話終了音を聞くと同時に閉じ込められたのではないかという不安が押し寄せる。

いや、手動での解錠はまだ試していない。ドアの中央付近へとかがみ込み錠前部分を視認するが、まるで勝手が分からない。


 喉の乾きが加速する。ごくりと生唾を飲み込む音が内側から鼓膜を揺らす。いざとなればドアのガラス部分を割る事も出来るだろうしそこまで焦る必要がないと自分へ言い聞かせ、改めて一番近い液晶画面を覗き込む。進捗バーが表示されているべきその黒い画面は何も表示されていない、無が広がっていた。


 初期不良で電源が落ちる事はよく有りどうするべきかも心得ている。この状況がなければ平常心で居ることが出来ただろう。人生で何度目となるか数え切れない舌打ちが室内に響くと共に画面に文字が浮かび上がる。

 正しくセットアップされたのであればこの後の画面は雄大な大地を思わせる風景写真のはずだ。しかし中央に表示された文字がイレギュラーであることを示している。


「なぜ着服したの?」

 ――心臓がぎゅっと握りつぶされそうなサイズまで圧縮される。


 私立学園の教師としては異端であるという自覚はあった。経歴を問わず有能であれば雇い入れるというその条件と片田舎という誰も知らないであろう土地。騒ぎから距離を起きたいと考えていた矢先に見つけたその求人広告は願ったり叶ったりだった。いくつかの簡単な面接と試験をパスし平穏無事な生活を続けてきたというのに、今更なぜ責められなければならない。いつまで責め続けられなければならないんだ。


 オカルトを信じていない訳ではない。デジタルに囲まれるが故の神頼み。sync sync sync Think.あの時に自分のアカウントを使わなかったのは卑怯だと思ったが恨みも有った。アイツは遅かれ早かれああなるべきだった。誰に許しを請いたいというのか、空回りを続ける頭は合理的でないキーワードを並べ立てる。


 ドアの外で何かが動く音がする。思わず手近にあったマイナスドライバーを握りしめる……護身のためだと言うのか。こんなちっぽけなもので何を護れるというのだ。ガタガタとドアを鳴らすその何者かに突き立てたとして効果があるのか分からない。指が白むほど力を込めて縋り付いたその金属は、恐怖に震えている。



 がらがらと音を立てて入ってきたのは、先程の新米警備員だった。

 安堵すると共に液晶画面を振り向くも、そこには見慣れた風景が広がっているだけであった。


 作業予定時刻を大幅に過ぎているのに帰ってこないのはおかしい、と先輩をねじ伏せて見回りに来てくれたのだと言う。

 普段であれば要らぬお節介だと突っぱねるところだろうが、今はただありがとうと繰り返す事しか出来なかった。

 液晶に浮かんだあの――知られてはならない罪が、許される時がいつか来る。そう願いながら怯える日々を送ることしか出来ないのだ、今の私には。


 校舎を出ると雪が降り積もっており、白い月だけが罪人を見下ろしていた。

緊張感や不安などを感じさせる文章の難しさを痛感しました。

三人称視点はやはり自分の肌に合っていないと感じ一人称視点を意識して書いていますが、上手い人がどのように書くのかもっともっと勉強して読みやすいものを書いていきたい、です。

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