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こんにちは、世界の夜側さん  作者: 浅木宗太
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三月のある日のこと

 おじいちゃんが死んだ。私が高校二年生になる春、桜の咲く三月末の事だった。

 私、白滝藤花はおじいちゃん子だった。母はテレビ番組にも出るくらい有名な弁護士で、父は警察の上の方の役職らしい。二人とも仕事が忙しく、家にいる事が少なかった。兄は父と同じ警察官の道を選んだ。昔はよく遊んでくれたし、優しくてどこか抜けた所のある兄。警察学校に入る頃には勉強で忙しく、邪魔しちゃ悪いな、と幼いながらに思ったもので、そこからきっと私が遠慮がちになってしまったが故に、あまり話ができていない。両親も似たような理由で距離を掴み損ね、そこからどうしても話ができずにいる。唯一、ずっと幼い頃から面倒を見てくれ、一緒にいたのがおじいちゃんだった。死因は塵肺による肺炎。家族全員に看取られて旅立って行った。

 おじいちゃんは昔から面倒見の良い人だったようで、いろんな人がお葬式には来ていた。そんなおじいちゃんのお葬式の後、やはり父も母も仕事で職場に戻って行ってしまった。兄は上司に呼び出されて現場へ葬式後のその足で向かってしまった。でもそれも仕方のない事で、巷では最近、少女連続誘拐事件が起こっている。今月に入って二件、先月も二件。捜査本部を立ち上げ、その責任者が父で、兄の所属する課も捜査を行なっているのだと言う。母はと言うと、それなりに有名な弁護士であるが故に、来年度までぎっしり詰まった仕事達を消化しているところだ。この忙しさの中でおじいちゃんの見舞いには皆、こまめに来ていたようだが、如何せん仕事の合間なので時間がまちまちであまり会うことはなかった。本当は母は「家まで送っていこうか?」と聞いてくれたのだが、私はそこで素直に「うん」と頷くことができず、「自分で帰れるよ、大丈夫だから、心配しないで」とやんわりと跳ね除けてしまった。そんな自分にどうして素直に頷けなかったんだろう、と去り際に見た母の少し困ったような顔を思い出すとため息が出る。

「ただいま。」

 誰も返事を返してくれないのはわかっているのだが、それでも誰か返してくれる気がして言ってしまう。

まだ、夕焼けの陽射しの入る玄関で靴を脱ぎ、洗面所へ向かおうとして、私は足を止めた。誰かの、声が聞こえたのだ。

ボソボソと聞こえるその声を辿り、廊下を抜けてダイニングを通り、すぐ隣のリビングへ。更にそのすぐ隣、おじいちゃんが使っていた仏間まで来てしまった。小さな声は、仏壇横のクロゼットの中から聞こえていた。おじいちゃんの使っていたクロゼットは確かに縦に長い。だが、幅は大人一人分程。横の箪笥に人が入れるとは思わないし、入るとすればここしかないだろう。そもそもここから声が聞こえてくるわけなので、十中八九当たりのはずだ。そうじゃなければお化けか。

意を決してクロゼットの扉を開ける。少し力を強めに入れないと開かないそこには、生前、おじいちゃんが外出時に決まっていつも着ていた背広が掛けられていた。とうとう家から出られなくなるまで、週に数回はデイサービスを利用していたし、元々お洒落さんだった様でいつだって身なりはきっちりと整えていた。冬になれば皮のジャンバーを上から着ていたし、夏になれば涼しげな素材で出来た上着を着ていた。小さな頃はお土産に喜んだものだ。ふとした小さな思い出にすら涙が目から溢れそうになる。私は思い出達の間に腕を入れ、そのままクロゼットの後ろ側の壁に重心を傾けた。その時だった。後ろは壁があるはずのそれはカチャ、と何とも軽い音を立ててそのまま開いてしまったのだ。

「えっ?うわ!」

上着たちを巻き込んでそのまま前に倒れ込む。おでこは打ったが擦りむいたり怪我をしてはいないようだ。

 じんじんと痛むおでこを擦りながら体を起こす。そして自分の置かれた状況を把握しようと顔を上げると、そこに居たその人と目が合った。

「なんだァ?お前……。」

 黒く光るボディに爛々と光る目、それは幼い頃におじいちゃんに連れられてお兄ちゃんと見に行ったヒーローショーの怪人そのものだった。

選考落ちたしせっかくだから載せよ!って思い立った結果です。

ついでだし、書いてた続きもここに載せちゃお!とポジティブに考えました。

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