刑事の見たもの
俺は刑事として、この事件に関わってきた。
最初の失踪が起きたのは、半年前。一人で夜道を歩いていた女子高生が行方をたった。俺たちは性的な暴行を目的とした犯行か、身代金目的かと考えて捜査を始めた。
しかし、いくら探しても女子高生の足取りを掴むことができず、身代金の要求もなかった。全く成果を上げることもできずに数か月がたち、焦りが募る中、第二の被害者が出て、それから毎日のように行方不明になる者が出るようになった。
その事実をもって、警察は、これが連続誘拐事件と認識し、大きく動き始めた。共通点は、行方不明になる直前の目撃情報が全くないというもの。俺たちが探していた女子高生も、最初の被害者として数えられることになった。
捜査の人数もぐっと増え、集まる情報も増えた。夜間の警戒も増した。だが俺はそれが面白くなかった。俺は独自に調査を続け、行方不明のあった場所や時間帯を分析し、幸運が重なって、一人の人物にたどり着いた。
日野正治。二年前に娘を亡くしてしまった憐れな男だった。最初期に事件があった場所は、日野の所有する家を中心に広がっていたのだ。
それで俺は誰にも伝えずに、単身、日野の家に入り、そして隠すように作られた地下室を見つけた。
覚悟を決めて地下室に入った俺が見たものは、想像をはるかに越したものだった。
「生き返りって話、あるじゃないですか」
ソファに座る、高校生くらいの娘。ソファ。イカれたセンスに反吐が出そうになる。
娘が座っているのは、皮張りの真っ赤なソファだ。ただし人の皮と、血でできたという注釈がつく。
十二畳くらいの、裸電球だけで照らされた部屋は、凄惨な有様だった。血痕があちらこちらに飛び散り、鼻が曲がるような死臭が漂っている。床には怪しげな魔法陣か何かが描かれている。
娘の身に着けた制服は血で変色し、顔にもついている。
娘は地下室の奥で、死体のソファの上に座っている。死体があるのはそこだけ。行方不明の数と、死体の数がつりあっていない。なら、ここにない行方不明者はどこへ……
彼女の顔は、写真で見たことがあった。日野愛美。事故で死んだはずの正治の娘だ。それが生き返ったなどと言って、目の前にいる。
愛美はひどく冷めた顔で語っていた。平凡で、どこにでもいるような顔なのに、妖艶さを感じるのはなぜだろう。見た目は人間なのに、まるで人間に見えない。作り物めいて、まがい物めいている。
時折見せる、感傷めいた言葉が彼女を辛うじて人間足らしめている。
全てを達観したような愛美は、手に、薄汚れた表紙を持っていた。彼女はそれを一度撫で、ゆっくりと開く。手帳を開く時、パリパリと、乾いた血がはがれる音がした。
「父の、手記です」
愛美は、手記に目を落としたまま、ページをめくる。そして淡々とした声で手記を読み始めた。
まるでそこに、生き返りの理由があるとでも言うかのように。
胸に拳銃を潜ませた俺は、それを構えることすらできずに、ただ茫然と立ち尽くしていた。