プロローグ
…
……
波の音が聞こえる。
寝惚けているのだろうか?
「…今何時だ?」
目を瞑ったまま枕元にあるはずのスマホを取ろうとすると、突然指に衝撃が走った
「痛っ!?」
一気に目が覚めた俺は、痛みの元凶を確かめると…
そこに居たのはたぶん「カニ」だった
「は?」
たぶん、なんて言い方をしたのにはワケがある
そこに居たのは、ハサミが4本あるカニだった
とにかくその内の一本に挟まれている自分の人差し指をなんとか引き抜き、赤くなった患部を見つめた
「いたた…」
「しっかし、4本のハサミを持つカニもいるんだな…」
そんなことを考えつつ初めて周りを見回した俺は、愕然とする
見渡す限り一面の海、砂浜
背後の陸地には荘厳な山、森
「え…?」
「待て待て待て待て!タイム!」
咄嗟のことに頭はショート寸前だった
一介の会社員である俺の頭なんてこんなもんだろう
俺は深く深呼吸をして、記憶を辿ることにした
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司波広幸
新卒で医療機器メーカーに勤める22歳独身1人暮らし
趣味は料理、園芸、ゲーム、読書など
基本家でできることが大好きで、休みの日は家にいることがほとんどだ
スポーツなど体を動かすことはあまり得意ではないが、父の勧めで幼い頃から弓道をやっている
彼女はいない
「いやいや、そんなことじゃなくて!」
まだ少し錯乱している頭を叱咤し、昨夜の記憶を辿る
「確か…」
昨日は飲み会だった
入社して数ヶ月経ち、久々に同期で集まったんだ
内向的な性格の俺は周りに話を合わせながら、みんなの武勇伝を聞いていた
特に語ることを持ち合わせない俺は、相槌を打ちながらテーブルに並んだ料理のアレンジ方法なんかを考えてたっけ…
そんな飲み会はつつがなく終わり、帰路についた
家に着いた俺は、少し飲み足りない気分でウイスキーを数杯あおり、そのままベッドへダイブした
「無人島にでも行けたらなぁ」
そんなことを呟きながら、眠りに落ちたのだった
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「…まさかあの一言で?」
そんなバカな、と思いながら改めて周りを見渡す
先程と変わらぬ大自然が俺の目に映し出された
真下に目を移すと、寝ていた場所にはいつものベッドは無く、綺麗で柔らかな砂浜が広がっていた
枕だと思っていた物は、ただの流木だったらしい
頭が痛いのは、昨日の酒のせいだけではないようだ
次の瞬間、視界の一部に、正確には左下に、信じられないモノを発見した
「これは……メニュー?」
ゲームでいうところのアイコンがそこにあった
視点を別のところに移しても、ついてくる
ふと、心の中に機械のような声が響く
《アイコンニイシキヲシュウチュウサセテクダサイ》
あり得ないという思いの中で、少しの興味と共に意識を集中させる
すると、
◆ステータス
というアイコンが現れた
《アナタノステータスヲカクニンデキマス》
《チュートリアルヲシュウリョウシマス》
早々と声が二回流れた
「おいっまだまだ聞きたいことがある!」
突然の終了に驚き声を掛けたが、何の返答も無い
ここまで物足りないチュートリアルが、かつてあっただろうか
色んなゲームをしてきたが、俺の経験上はなかった
仕方なく気を取り直し、ステータスを確認する
◆ステータス
ヒロユキ(弓術師)
Lv1
HP:5/20
MP:3/3
特殊技能→採取Lv1、栽培Lv1、調理Lv1、命中率UP小、鷹の目、言語理解、???
見た瞬間、確信した
ここは、異世界だ
異世界小説はいくつも読んだ
心臓はバクバクと波打っている
わからないことは山積みだが、それ以上に、俺は今ワクワクしていた
こうして俺の異世界無人島(?)ライフは始まったのだった