5話 ツン子とクール子
お茶会のあとにテルミはシイナを探しに屋上に向かった。
屋上には誰もいなかったが、塔屋の扉が開いていた。
テルミは塔屋の中に入っていった。
テルミがシイナを探しに屋上に来たが、屋上にはシイナもエリコもいなかった。
見回すとテーブルの奥の塔屋の入り口が開いていた。
みんなあそこにいるのかな。と思い、テルミは塔屋に向かった。
塔屋に入って、テルミは唖然とした。
そこには、繭のようなもので包まれた人がいたからだ。
その数は6人。皆眠っているように静かだった。
テルミは、その人たちは行方不明になった生徒だと察した。
「あら、テルミさん、ここを見つけてしまったのね。」テルミが後ろを振り向くとそこにはエリコがいた。
「……。エリコさん。これは一体何?」
「ここは、保管庫なの。祭りが始まるまで大切に保管しているの。」
「あ、あなたが誘拐の犯人?」
「ふふふ。言葉には気をつけたほうがいいわよ。」
そういうとエリコはテルミに近寄る。テルミは逃げるように後ろに下がるが、壁に追い詰められた。
テルミの体が震えた。
「何してるの」シイナが塔屋の入り口に立っていた。
エリコの顔が歪む。
「シイナさん、どうして屋上に。」
「トイレ行って教室戻ったらテルミがいなかったから、屋上を見にきたんだ。」
「そう。」
「シイナ。……。」
シイナはエリコの横を通り、テルミに駆け寄る。
「こっち。」
シイナはテルミに近寄るとすぐに手を取り、出て行こうとした。
塔屋から出ようとして、二人は入り口の何かに引っかかった。
それは糸のようなものだった。
「あら、どこに行こうとされているのかしら。」
エリコが二人に顔を向ける。その顔はいつものエリコの表情で、テルミをぞっとさせた。
「帰るんだよ」
シイナはポケットからナイフを取り出し、糸を切る。
「あらあら」エリコは静かにその姿を見る。
糸を切り終わるとシイナはテルミの手を取ると二人で逃げ出した。
「早くこの学校からでないと」
「どうしてシイナは屋上まで来てくれたの?
「そりゃ、いなくなってたら心配になるでしょ。」
「……。ありがとう。」
テルミはシイナに向かって小さく言った。シイナの横顔は頼り甲斐があって、
その姿は小さい時にみたシイナのままだった。
「でもまさか、エリコさんが?」シイナは出口に向かいながらテルミに言った。
「多分そう。塔屋を管理している人はエリナさんみたいだから。でも一体なんで」
「あれ、ドアが開かない?」
シイナが屋上から出る扉を開けようとしたが、扉は硬く閉ざされていた。
「帰れると思ったのかしら。」
二人が振り向くとそこにはエリコがいた。
「妹だからと思って、見逃していましたけど、
あそこが見つかってしまったからにはかわいい妹でも見逃すわけにはいかないの。」
エリコが手を挙げる。シイナはテルミの前に出てナイフを前にした。
「テルミ、下がって。」
シイナはテルミの前に出るとエリコと向かいあった。
エリナの顔はいつもと同じように見えたが、体から発する気はシイナとテルミにも伝わっていた。
「あなたは怖さを感じないの?」エリコは両手を広げながらシイナに向かって言った。
「私は引かない」
エリコは両手を閉じると、見えていなかった白い糸がシイナに襲いかかった。
しかし、シイナはそれをかわし、反対にエリコに向かって飛んだ。エリコは後ろに下がるしかなかった。
シイナは押していた。逆にエリコの顔に焦りが見えた。
そのとき、後ろのドアが開く音がした。
テルミがドアノブを回すとドアが開いた。
「シイナ、ドアが開いた!」
「早く行って。」
シイナは振り向くことはできなかったがテルミに向かって言った。
「ふっ。」エリナの顔には何とも言えない笑みが浮かんだ。
テルミは出口からでれなかった。シイナを一人で屋上に残すことができなかったからだ。
何か武器はと探すと近くに傘を見つけ、テルミは傘で応戦しようとする。
「うふふ。あなたたち二人は本当に仲がいいのね。」
「テルミ! 早く行って。」
「いけない。シイナ残していけないよ」
そのとき、エリコはシイナではなく、テルミに向かって微かに光る糸を出した。
テルミは糸に捕らえられ、エリコは引っ張る動作をした。
「テルミに触れるな」
シイナはテルミに向かって飛び、糸を引きちぎった。
しかし、それはエリコの想定通りだった。
エリコはすでに別の糸を仕掛けていたのだった。
大きく引く動作をするとシイナは壁に吹き飛ばされた。壁に叩きつけられたシイナは動き出す気配はなかった。
テルミは糸から抜けるとシイナのそばに向かった。
「シイナ。」
「……。大丈夫。でもちょっと体が動かないかも。」
「そんな。」
「テルミお願いだから君だけは逃げて。」
「できないよ」
するとテルミは涙した。シイナも涙していた。
「危ないところだったわ。惜しかったけど残念だったわね。
最後に言いたいことはあるかしら」
エリコは静かに二人に向かっていった。
壁を背後にテルミとシイナの周りにはたくさんの糸が張り巡らされていた。
「お前に言いたいことはない。でもテルミにはある。」
そう言うとシイナはテルミに向かって小さく呟いた。
「あなたのことが好きだったんだ。誰よりも」
「私も好きだったよ」テルミも小さく呟き、シイナにキスをした。
エリコは自分の好きだったものを思い出し始め、体が止まった。
しかし、エリコは契約を果たすことが必要だった。見逃すことは許されない。
「美しい、、けど。」エリコは手を下ろすと糸が二人を拘束した。
「別に命までは取らないから安心しなさい。」
テルミは消えゆく意識の中でエリコの言葉が聞こえた。




