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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

邦題:ジョーズ転生~異世界行ってサメになる~(原題:Narou Jaws)

作者: 黒好 光軍

 全米が泣いた(大嘘)作品です。クソサメ小説なので期待しないで読んで下さい。なお、実際のサメ映画を再現し切れていないので、サメ映画風であることも期待しないで下さい。

 俺はサメだ。名前はまだ無い。元々は日本の男子高校生だった気がするが、気が付いたらサメになっていた。サメの脳味噌が人と違うせいか、思考が余り纏まらない。それでも自分が元々は人間だったという記憶だけは残っている。


 そんな俺はサメの本能に従って、海で多くの生き物を食べて成長していった。地球の七割が海と言うだけあって、生き物をそれ相応に多くいた。


 いっぱい食べたし、食べられそうな危機にも陥った。しかし、人間だったというそこそこ高い知性が、海の危機から俺を助けてくれた。


 何年たったのか全く分からないが、気が付いたらこの海……というか、この世界が地球とは違うことが分かった。


 ゲームの世界のようなUIとそこに表示されるステータスが存在していたのだ。地球であったARのような感じで視界の中に表示される整った分かり易いUIから見えるステータス画面は、俺を示す様々な数値を表示していた。


 そして、俺は海の中で他の生き物を食べる度に成長していった。食ったかた成長しているのか、殺したから経験値が入ったのか、若しくはその両方なのか分からないが、それでもどんどん成長していったのだ。


 その結果、普通のサメのサイズだった俺は、メガロドンを超える巨体を手に入れた。更に海の生き物の身体的特徴を再現できるようになった。下半身をタコにすることだってできる。また、戯れに食べた金属の効果により身体をメカにすることもできる。頭を五つに増やすこともでき、最近では空を飛んだり霊体化することもできる。


 なによりも、この世界には魔法があり、俺はその魔法が使えるようになったのだ。海の中だから火の属性は上手く扱えないが、水、風、土の三属性と、光と闇の相克属性を扱える。海の生き物たちは多くて二つまでしか属性を持たなかったことを考えると、俺は結構凄いサメなのではないかと思う。


 最近では海の中に生息していた首長竜を食った。海の中で今まで会った中で最も強い生物であり、俺は激戦を繰り広げた。


 戦いの余波で海は荒れ、周辺の生物が絶滅してしまった。最終的には俺が首長竜を食い、勝利した。食った後に分かったことだが、その首長竜はリヴァイアサンと言う名前だった。聞いた事がある気がしたが、ぼんやりとした記憶なので別に気にすることでも無いと思った。そう言えば最近、人間の頃の記憶が薄れている気がするが、まぁどうでもいいだろう。


 そして、俺は海の覇者になって。俺より強い海の生物が存在しなくなったからだ。しかし、俺は更に強くなりたかった。その為、海の生物を食い続けたが、リヴァイアサンを食った以降は全くといっていい程レベルが上がらなかった。


 現在の俺は976レベル。UIから判断するに、恐らくは999がカンストなのだろう。俺は999レベルを目指して食い続けたが、幾ら食っても一レベルも上昇しなかった。海の生物を八割を食ってもレベルが上がらないことから、これ以上は難しいと判断した。


 困った俺は、新たな方法を考えようとした。レベルが上がったことでそれ相応に知性も上がった俺は(サメ基準)、海から出ることにした。つまり、陸に上がるのだ。


 そう思って陸地に近づこうとすると、サメ生が始まって初めて見た大型の船を見つけた。巨大な帆船型のそれは、多くの人間らしき存在が乗っていた。


 俺は早速、その船を襲った。魔法や様々な力を使わずにただ自分の身体だけで、その船を噛り付いた。

 

 人の悲鳴や絶叫が聞こえてきたが、そんなものはどうでも良い。人間はそこまで美味くは無いが、初めて食べた海以外の食事は新鮮な気持ちを与えてくれた。


 数分も掛からずに船と船に会った物資と、船の乗組員を食い尽した俺は、とても驚いた。あれだけ上がらなかったレベルが一つだけ上がっていたのだ。


 レベル976からレベル977。たった一レベル分の上昇だが、俺はこの上昇に歓喜した。そして思ったのだ。人間は経験値効率が良いと。


◆◇◆◇◆◇◆


 陸地を辿り着いた俺は、早速人間を食べ始めた。浜辺のビーチなどという洒落た場所では無かったが、此処は大きな港町であり、人が沢山居た。


 人を大勢食えば、またレベルが上がった。レベル978となった俺は、更にレベルを上げる為に人を食い続けた。港町から人の気配が消えた頃には。レベル981となっていた。海時代では到底考えられなかった経験値効率だ。


 陸地だが、魔法や身体変異で陸地に対応した俺は、問題なく行動していた。


 幾ら経験値効率が良いと言っても、レベルが上がるとまた上がり難くなった。数百人食えば上がったレベルも、今では数万人以上食わなければ上がらなくなった。それでも一国を食い散らかせばまだレベルが上がるので問題は無かった。


 現在はレベル992。大陸中の人間を食えばレベル999に到達できるかなぁ、と思っていた矢先に、とてつもなく強い人間と遭遇した。


「おのれ、難きメガロ・ドーンめ。私が成敗してくれる!」


 何を言っているのかは、食った人間から手に入れた言語理解のスキルで判断できた。そうか、俺はメガロ・ドーンと呼ばれているのか。ステータス上では未だにただのサメだが。


「くぅ、何たる強敵…………貴様はもしや、伝説の海龍か…………」


 今戦っている人間は、リヴァイアサンには劣るが、今まで戦って来た相手の中で五指の指に入る程の実力者だ。今の俺には指は無いが。


 あの人間から俺は、膨大な魔力で構成された様々な魔法で攻撃されている。しかし、俺はその人間が放つ光の魔法を闇の魔法で打ち消していた。そして、人間の小さな身体では、俺の巨体に傷をつけることは出来なかかったのだ。


 この人間が十数人居て、それが高度な連携をとっていたら危なかったかもしれない。しかし、相手は一人で、一人ならば俺が負ける可能性は無かった。


「クッ…………私はこれまでか…………アイラ、すまなっ」


 なんか言っている気がしたが、俺はその人間が言い終わる前に食った。


ムシャムシャムシャムシャ。


 鎧と人肉のアクセントの違いが、食感に変化を生んで楽しめた。


 食った後で分かったが、食った人間の名はクラインと言うらしい。レベルは763。相当な実力者だったことが分かる。


 此奴を食って、レベルが一つ上がった。現在はレベル993。残りは6レベル分だ。やはり人間も海の生物もレベルが高い方が喰った時にレベル上昇も高いのだろう。これは思ったよりも早くレベルが上げれそうだ。


◆◇◆◇◆◇◆


 此処はサイラム帝国。西大陸の大国であり、この場には各国の重鎮達が集まって会議をしていた。


 その会議の内容は、メガロ・ドーン対策会議。しかし、その会議は踊っていた。


「なんなんだ!?あの化け物は!?」


「知らん!宮廷魔術師共は何と言っている!?」


「奴らはあのような魔物の存在は文献に無いと言っている。強さだけならリヴァイアサンという魔物に近いと言っているが、姿が全く違うと言っている」


「そんなことはどうでも良い。あの魔物を倒せるかが問題なのだ」


「あの英雄クラインすら敗れたのだぞ!?」


「何処のバカがクラインを一人で戦わせたのだ!」


「戦力の出し渋りを言い出したのはお前だろうに!」


「国防の観点から見て、戦力を全て出し切るのはリスクが高すぎる。そんなことは貴様とて理解できよう」


「その結果が、英雄を無意味に失っただけではないか!?」


「次こそは各国の英雄を集結せざるえまい」


「貴公の国が、英雄不在の国を襲わんとも限らんがな」


「何を言うか、貴様!?」


「考えつかんような者はこの場には居らんよ」


「何だと!?貴様。恥を知れ!」


 話はまとまらず、意見は感情で叩き潰されている。誰もが疑心暗鬼に陥り、メガロ・ドーンへの対策よりも他国への警戒が先に来ている。


 俺はサメなので人の営みは分からない。どうしてこんなに面倒くさいことをしているのか皆目見当がつかないのだ。


 アレッ?俺は確か人間だったような気が…………まぁ、遠い過去の記憶だ。今とは関係あるまい


 また、この会議は一か月前から開催されている。基本的に同じ内容を繰り返している不毛なものだと理解している者は本当に少ない。詰まらない尺稼ぎを見せつけられているようだった。


 耐えきれなくなった俺は霊体化を解いて、この会議場の人間を食べだした。


「メガロ・ドーンだぁあああああああああああああ」


「逃げろぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお」


 ムシャムシャ。そんなことを言っていた人間を食る。クラインレベルの英雄が中々出会えなくてとても悲しい。早くレベルを上げたいというのに、こんな雑魚を幾ら食っても全く足しにならない。


 メインディッシュはこれからだ。


「皆さん、お逃げ下さい」


「此処は我々が死守します」


「さぁ、早く!」


 サイラム帝国に集まった重鎮を守る護衛達。彼らが今回のメインディッシュである。英雄未満の存在であるが、この場に多くいる雑魚よりは遥かにマシだろう。


 まぁ、結局は結果は変わらないが。


 その後、俺はサイラム帝国に居た全ての人間を食い尽した。何人かは逃してしまったが、まぁ誤差の範囲内だろう。お陰でレベルがまた上がった。現在はレベル994。後少しである。


◆◇◆◇◆◇◆


 此処はアルバトロ王国。英雄クラインの母国であり、現在ではメガロ・ドーンの被害から逃れた難民たちが集まる国でもある。此処では今、人類を襲う未曾有の危機、メガロ・ドーンを倒す為の勇者を呼び出す召喚魔法の準備を進めています。


 私、アイラは恋人のクラインの仇を討つ為に異世界より勇者を召喚しようとしています。


 クラインは各国の思惑によって一人で戦うはめになり、たった一人でメガロ・ドーンと死闘を繰り広げました。クラインの墓は、死体がメガロ・ドーンに食べられてしまった為、空となっています。


 私はあの魔物が難くて堪りません。恋人を、そして多くの人々を食っていくあのメガロ・ドーンを殺さなければ、この思いが晴れることは無いでしょう。


 しかし、メガロ・ドーンは強敵です。


 人を大きく超え、船にも匹敵する巨体。全てを食い尽すアギト。宙を自在に飛び、その速度は凡百の竜よりも遥かに早い。巨体に応じた圧倒的な暴力と、頑強さは、無為に暴れるだけで台風や地震などの災害よりも遥かに酷い被害を出します。


 更に、魔物でありながら五つの属性魔法を使いこなします。その姿は、宮廷魔術師を超えた技量を示しており、私よりも魔術師として強いことを突き付けてきます。


 また、その巨体を消すこともでき、どんな場所にでも突如として現れる神出鬼没さも持ち合わせています。


ハッキリ言えば、勝ち目は殆どないでしょう。


 全世界の英雄が集まり、一度にメガロ・ドーンと戦えば勝機はあります。しかし、それは困難でしょう。サイラム帝国で行われた大虐殺の結果、各国は英雄を国外に出さずに防衛に努めるようになりました。


 その結果、各国はメガロ・ドーンの確固撃破を受けてしまいました。現在無事な国家は殆どありません。


 多くの英雄は食われ、メガロ・ドーンの血肉となってしまいました。僅かに残った英雄は私を含めて四人。これでは全く足りません。


 だからこその勇者召喚。メガロ・ドーンを倒せる英雄を超える勇者こそが、今の我らに必要な存在です。


「本当に良いんですの?アイラ。この召喚で、貴方が命を落とすことになって」


今まで実験を繰り返し、入力した設定通りの勇者が召喚できたことは実証済みです。しかし、メガロ・ドーンを倒せる勇者という条件で召喚するには、それ以外の条件とは比較にならない程の魔力が必要であることが分かりました。


 メガロ・ドーンを倒す勇者の召喚には大量の魔力が必要になります。そして、その魔力は私の魔力だけでは足りません。つまり、命を魔力に変換しなければ勇者召喚は出来ないのです。他者の魔力を使うことも考慮に入って居ましたが、それには人間が数万人必要です。メガロ・ドーンを倒す為の勇者を呼ぶ為に多くの人間を失うのは、本末転倒です。


「問題ありませんわ、ユリィ。この召喚で確実にメガロ・ドーンを倒せる勇者が召喚出来る。悔いが残るとすれば、それはこの目でメガロ・ドーンの死に様が見れなくなることだけですわ」


「やっぱり、クラインの死が…………」


「そうよ。あの人が居ない世界なんて私には耐えられないの。それに、私の命一つであのメガロ・ドーンを倒せるのなら、安い対価よ」


 そうなのです。メガロ・ドーンの被害はもはや許容できる範囲を大きく超えています。


 同じ英雄であるユリィは私のことを心配してくれますが、私の意思は変わりません。それに——


「あの人が待つ天へと行けるなら、それもまた良しだと思っています」


 ——天で待ってくれているクラインを、これ以上待たせる訳にはいきません。恐らく、クラインはもっと生きていて欲しいと思っているでしょう。しかし、残された者の気持ちも考えて欲しいものです。


「決意は変わらないのね……」


 ユリィに悲しい顔をさせてしまいました。これもまた一つの後悔になりそうです。しかし、それでも止まる訳にはいきません。


 数日後、私はこの身に宿る魔力と命の全てを使って、勇者を召喚しました。召喚された勇者はユリィを含めた英雄三人と共に、メガロ・ドーンと戦ってくれるでしょう。私は天でクラインと共にそれを見守っています。


 どうか、あの魔物を倒して下さい。それだけが、今の私の願いです…………。


◆◇◆◇◆◇◆


 俺だ。サメだ。今、めっちゃツエー奴と戦っている。


 パッと見、俺の元となった日本人という人間に似ている気がするが、人間とは思えない程強い。


 なんかスゲーの、アイツ。魔法は六属性使って来るし、俺よりも早く動くし、俺の身体に傷を入れてくるしでマジ強い。


 大陸で食いまくった俺のレベルは現在998レベル。そんな俺と同等以上に戦うなんて、本当に驚いた。


 霊体化してもなんか攻撃を通してくるし、剣を振るうだけで大地とか割れてるしで、本当にビビる。


 今までここまで強い人間が居なかったことを考えていると、マジで何処から湧いて来た?と思う。


 駄目だ、逃げよう。


 初めての逃走。リヴァイアサン相手にも逃げなかった俺が初めて逃げる。プライドが多少刺激されたが、生存の為なら仕方ない。それに、一度退いてから再度戦えば良い。アイツにも多少傷を入れたし、俺の傷は勝手に治る。こうして少しずつ負傷を増やしていけば、何時かは倒して食えるだろう。そして、アイツを食えばきっと俺はレベル999に到達できるだろう。それがとても楽しみだ。


 しかし、ただ逃げるの癪である。


 アイツの近くに居る三人の英雄を食う。レベルは上がらないだろうが、まぁ、腹いせのような物だ。


「危ない!ユリィ」


 アイツが声をかけたが間に合わない。俺のアギトは即座に英雄を挟み、咀嚼した。美しい金髪をしていたが、ただそれだけだ。


 その後すぐに他の英雄を食った。味を感じる訳では無いが、それでも多少は満足した。


「クソっ!逃げるな、メガロ・ドーンッ!」


 いいや、逃げるね。これは生物としての本能だ。


 俺は宇宙に向かって飛翔した。どうやらアイツは宇宙空間での活動が出来ないらしい。予想通りと言うべきか。


 声が空に響か無くなる程度頃には、俺は宇宙を泳いでいた。そして、海に向かって落ちる。


 大気圏突入の際に、多少俺のサメ肌が熱くなったが、すぐに海へと落ちて身体を冷やした。只今、我が愛しき故郷よ。何処から何処までが自分が生まれた地域かは分からないが。


◆◇◆◇◆◇◆


 そして俺とアイツは互いに激戦を繰り返した。基本的に最後は俺が逃げる形になってはいたが、徐々にアイツの身体に傷を負わせていった。


 戦っていると、どうやらアイツは勇者と言うらしく、此処とは別の世界から呼ばれた存在らしい。


 この世界に来てから超常の力を手に入れたらしく、食って成長してきた俺とは違い、最初から恐ろしく強い力を与えられたそうだ。


 少し狡いと思ったが、俺の餌になるためにやって来てくれたと考えると、まぁ赦せる話だ。


 そして、今日、最後の決戦が始まろうとしていた。


「今日こそ、貴様を倒す。メガロ・ドーンッ!」


 勇者の身体は傷だらけだった。剣や鎧といった装備自体は整備されている為、問題ないのだろう。しかし、肝心の勇者の身体は幾ら回復しようとも限度があった。


 俺の巨体に剣と突き立てようとする勇者に反応し、俺はその部位だけを金属化して防ぐ。伝説の金属であるオリハルコンを超える硬度を誇る肌は、勇者の剣を弾いたが、目立つ傷を入れられてしまった。


 俺と勇者の魔法は、互いに打ち消し合って無効化している。勇者対策の為に俺は火属性の魔法を習得したが、火属性魔法は肌が乾燥するので余り使いたくはないのだが、致し方ない。


 俺のアギトが勇者を捕えようとするが、スルリスルリと避けられてしまう。一度でも捕まえれば噛み砕けることを考えると、妙に歯がゆい思いになる。


 そして、三日三晩続く戦いが終わりを迎えた。当然、俺の勝利でだ。


 俺の口の中には勇者が居る。今すぐに噛み砕いてやりたい所だが、流石に俺も疲れた。身体の大半を失ったし、本当に疲れた。食ったとしてもそれを収める胃が無いのであれば意味が無い。


 まさか自分から食われに行って内側から攻撃してくるとは思わなかった。俺のアギトが一瞬で勇者を噛み砕くと思っていたが、それよりも早く攻撃してくるとは……流石は勇者である。


 身体はもう、思考する為に頭と食う為のアギトしか残っていない。死を近くに感じ、それが定められた運命だと自覚してしまう。


 しかし、それでも食う。これは俺の勝利の証であり、食うことで俺の勝利を示せるのだ。


 無理やりアギトに力を入れて、勇者の身体を砕く。


 ムシャムシャムシャムシャムシャ。


 咀嚼は出来ない、しかしゆっくりと顎を動かす。結果として見るとコレは引き分けだが、最後に生きていたのは俺なので実質俺の勝ちである。やったぜ。


 すると——


 ——俺のレベルが——


 ——999となった。


 すると、俺の身体に活力が戻り始めた。失った身体を補填し、千切れたフカヒレも元通りになった。


 食った勇者の名は浅井・新。食ったことで読み取った知識によると、勇者の召喚は意外と簡単に出来るということが分かった。


 宮廷魔術師級の魔術師がその命を消費すれば召喚出来るというのは、流石に厄介である。また浅井・新と同じレベルの勇者が召喚されると、今度こそ敗北するかもしれない。


 そう考えた俺は、とある秘策を思いついた。レベル999という目標を果たした以上、もう戦う意味は無い。

 

 故に、この身体は捨ててしまおう。


◆◇◆◇◆◇◆


 勇者浅井・新がメガロ・ドーンと壮絶な相打ちをして一年。世界は戦勝記念を祝っていた。


 異世界からの勇者の力によって救われたこの世界では、浅井は神聖視されている。


 一年前、勇者浅井とメガロ・ドーンの激闘の後には、メガロ・ドーンの死体と、そのアギトの中に砕かれた勇者浅井の死体があった。ピクリとも動かないメガロ・ドーンの死体は、それでも圧倒的な威圧感を放っていた。


 生き残った人類は、丁寧に浅井の身体を回収して丁寧に埋葬した。そして、メガロ・ドーンの死体は解体されて、欠片も残さずに様々な武器や装具に加工された。


 こうして、世界は救われた。


 しかし、とある魔術師は疑問に思っていた。メガロ・ドーンの解体に携わったかれは、その死体の不可解な点を指摘した。メガロ・ドーンの死体は傷が治っており、その損傷が無かったこと。そして、解体されたメガロ・ドーンの死体には丁度人間一人分の空白があったこと。その二つを指摘したその魔術師は、考え過ぎだと言われた。みんな、メガロ・ドーンが死んだという事実のみが大事であり、それに水を差すような言葉には耳を貸さなかったのだ。


◆◇◆◇◆◇◆


「これが、人の身体かぁ。小さぇなぁ、本当」


 サメであった俺はもう存在しない。


今の俺はレベル999のただの人間である。


仕組みは簡単だ。俺のサメボディから人間の身体を作り、その身体に意識を移したのだ。人間の身体は、今まで散々食って来たので完全に理解していた。細胞の隅から隅まで完璧に再現出来ているだろう。まぁ、俺の新しい身体になるのだから、人体として最高峰の出来になるように作ったが。


霊体化したことで、魂がこの世界での生命体の本体であることが分かっていた俺は、魂を身体に挿げ替えればその身体が新たな身体になると思っていた。


 人化しても、魂が本体である以上、レベルはそれに依存する。レベル999の俺の魂は肉体が変わってもレベル999である。


 こうして人になった理由は簡単だ。メガロ・ドーン、つまり俺の死を偽装して新たに勇者を召喚されることを防ごうとしたのだ。


 もう俺に戦いは必要ない。レベルの上限に辿り着いた以上は、戦う必要性が見当たらないからだ。


 レベル999にもなったことだし、これからは平穏な人生でも送ってみるか。


 そう思っていた俺だったが、レベル999の力と、世界各地に散らばった俺の身体製の神器を回収する嵌めになった。


 サメであったサメ生よりも面倒で大変な人生を送ることになるとは、今の俺には全く思いもつかなかった。


 これだけが、俺の最大の誤算だろう……まぁ、人生退屈しないだけマシだと思うようにしよう。


 なろう系のかつてのテンプレートの一角、魔物転生とアメリカで人気のサメ映画を組み合わせた作品を意識しました。序盤はなろうテンプレートでよくあるなんちゃって努力描写です。その後の人間パクパクはなろう主人公で良くあるKAKUGOを乗り越えた結果です。記憶が曖昧になっている事は気にしないで下さい。その後の同郷対決と人化もなろうでよくある展開だと思います。

 そして、サメ要素が少ないです。ある意味、サメである意味が薄いことがなろうらしいのかもしれません。

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