不足している…(シリウス)
今日は朝から大変な一日になった。
ルーチェフルールと共に朝食を取っていれば、前日にお忍びしてきたアクベンスのカンセがやって来たのだ。
本来なら彼女は迎賓塔にて食事を用意していたのに、周りに居た兵士や侍女を脅して最上階まで来てしまった。
それからは彼女との言い合いになった。
確かに彼女は前々から私に近づく女性を、何かと言って排除してきたのを知ってはいる。
私自身も他のすり寄ってくる女性が排除出来ているのでそこまで彼女の行動を黙認してはいた。
と、言うよりも愛し子である彼女の行動を制限出来る者は少ないのだが…。
だが現状、私には将来「番」として迎えたいルーチェフルールが居る。
だからこそ、少ない時間でも共に出来る大事な時間を邪魔されたことに、腹を立てた。
確かに私も大人気なかっただろう。
しかし、文句も言いたくなる。
急にエルタニンに来た時点で大事なのだが、それ以上にアクベンス側が何も把握していなかった事にも問題がある。
おかげでルーチェフルールの成人の儀・夜会でのお披露目で、城下の治安維持、各国からの要人の警護、その他の雑務がここ数か月で膨れ上がっており、それでなくてもルーチェフルールとの時間が取れておらず、唯一、一緒に居られる時間を邪魔されたのだ。
来てしまったのは仕方がないので、アクベンス側に引き取って貰おうとすれば、返答は「所在が確認できて良かった。暫く預かってくれ」と何とも無責任な回答。
カンセに至っては、護衛どころか侍女も連れておらず、火の最高位精霊様と一緒に来ただけ…。
一体、アクベンスの教育はどうなっているのだろうか?
その後も結局、食事どころでは無くなり執務室で軽食を取ることになってしまった…。
手が離せなかったため、ジルを使いに出せばカンセを優先してくれと、返事をされてしまい私がどれ程の絶望を味わったことか…。
そこから幾度となく手紙を書くが、ルーチェフルールは素っ気ない…。
私が書いた手紙への返事は、殆どが一言。
唯一、ちゃんとした返事をもらえたのは、ルーチェフルールが現在進めている商会の事への返事だった。
会えないまま、月日のみ進んでいく…。
ルーチェフルールに『竜心』を渡して随分と、月日が経った。
『竜心』と言う物は、竜人にとってかけがえのない物だ。
特に番となった者が、竜人以外だった場合に。
この世界には色々な種族が居るが、その中でも私たちは長命種だ。
そんな私達からすれば人など瞬く間に居なくなってしまう。
だが共に生きていくことを可能とするのが『竜心』だ。
竜心はその持ち主…つまりは玉を出した竜の命を、渡した相手…番にしたいと望む者に竜自身の命を分ける物だ。
これが竜同士であれば、特に恩恵はない。
だが他種族ならば、その恩恵は計り知れない。
長い時を生きれるのだから。
稀にそれを目当てに、竜人と番になろうとする者が居るが、竜人にとっては生涯に一度のことだ早々、叶うことはない。
だが逆に言えば、人であることを捨てさせることになってしまう。
家族や親しき友人…その者達よりも長い時を生きることになる。
どんなに私達が寄り添い、愛そうとも心を病む者は少なくない。
そんな者が辿る末路は、いつも決まって悲しい出来事になる。
それに竜も番を人とした場合、死ぬことが多い。
なぜならば、竜と違って人の心は移ろいやすい。
人同士であれば、結婚・離婚は簡単に出来ることだ。
だが竜に対して離婚などという文字はあり得ない。
その為、逃げ出したり浮気をしようものなら、竜は番を手にかけ自死を選ぶ。
他にも竜が自死を選ぶ時がある。
それは竜心を渡していたのにも関わらず、婚儀の前に何かしらの問題が起きた時だ。
病気であったり、事故であったりで将来の番を亡くした時だ。
その悲しみは計り知れないだろう。
考えるだけで、心臓が止まりそうだ…。
私自身もそうだが竜は一途な反面、非常に面倒な生き物だ。
私の知る中では、番を誰にも見せたくない!とかで、囲ってしまう者も居た。
気持ちはわからんでもない。
現状、私とルーチェフルールは竜心を渡した婚儀前になるのだろうが…。
渡した時にルーチェフルールには『彼女の居場所を知るための物』として渡した。
確かに常に彼女の居場所は把握しておきたい。
それは間違いないのだが…ゆくゆくは番になってもらうつもりで居る。
彼女には両親と呼べる者が居ないし(一応は居る)彼女が普段、関わっているのは精霊か竜人だ。
この先も今までと変わらない生活が送れるだろう。
そうやって少しずつ、少しずつ外堀を埋めてきたのだが……ルーチェフルールに恋愛と言う文字はまだ無い様だ。
成人もしたことだし、この先どうやって私の事を意識してもらおうか……と考えていたのに、この騒ぎだ。
ルーチェフルールに意識してもらう前に、何とかこの騒動を収めてからではないと話にならない。
現状、話すことも拒否されてるのだが…。