ある兵士の一日 7
鏡に触れた瞬間、波紋が広がり、ギドの腕が吸い込まれた。
特段、引っ張りこまれた・・・と言う訳ではなく、難なくギドは鏡の中に入れた。
「ギド!何かあるか?!」
「特に何もないっす!作りはそっちと一緒っすね。強いて言えば花がある事が違うだけっす」
「なら早くこちら側に戻って来た方が良いわ!そちら側に閉じ込められたら笑い事で済まされないから!」
アンの言葉に、ギドは慌てて花を掴むとこちらに来る。
花は緑だ。
「おい!ギド!急げ!!」
何と花を花瓶から抜いた瞬間、ギドの後ろに人型を取った木の人形が現れた。
「後ろを振り返ってる暇があるなら、こちらに走って来なさい!!!」
アンの言葉に、一目散に走って来るギド。
人形の手と思われる木の根が、ギドの足を掴む瞬間に鏡の中からギドが出て来た。
こちら側に出てくる可能性がある木の根だったが、鏡にぶつかり鏡一面を木の根が覆い隠した。
「どうやらこちら側には、出て来れないみたいだな・・・」
「危機一髪ってやつっすね・・・」
額を流れる汗を拭いながらギドが言う。
ここは、お化け屋敷と言うものより、モンスターハウスではないのか?
さっきから襲われてばかりだ・・・。
しかしこれで花は四つ目だ。
残り三つも一筋縄ではいかないのだろう・・・体感時間にして三十分程が経過しただろうか?
既に疲労困憊だ・・・。
どこかで一休みしたい・・・。
* * *
「ルーチェ~このグループなかなかしぶといね~」
「うん、そうだね・・・。方向性をホラーハウスからモンスターハウスに変更はしたけど、大概が食堂で脱落したもんね~」
「まぁそれでも、残り五チームですから良かったのではないですか?」
「うむ、そうじゃの。やはり仲間の死体が目の前に・・・と言うのは堪えるようじゃの!」
「あれ考えたのプーロとエーデルでしょ?趣味悪いなぁ~」
ニヤリと笑いながら私も言う。
現在、一押しなのが女性一人、男性二人のチーム。
最初は、男性が三人だったんだけど、途中で一人脱落。
このチームの何が凄いって、リーダー格の男性がしっかりしてるのか、非常に安定したチームなんだよ。
コレを崩して、ワーワーキャーキャー言わせたい!
いやぁ~楽しいよね~。
たださぁ、追いかけるだけってのがなぁ~つまんないよね~。
基本お化け屋敷って、驚かす・追いかけるしかないもんね・・・。
あっ!そうだ!!謎解き脱出ゲームとかも楽しそうだよね!!
お題が定期的に変わるとかを作ったら、飽きないし!
いや~前世でもスマホのアプリで、よく遊んだなぁ~。
リアル脱出ゲームも楽しんだし!
アレは確か、壁の外に大型巨人が現れる漫画のリアル脱出ゲームだったな!
体感して分かったけど、問題は三問から四問しかないんだよね。
ただし、広い場所を移動しないといけないから、それが大変って感じだった。
おっとと!話が逸れてしまった!
んじゃ、続きを楽しみますかね!
* * *
四本目の花を手に入れた俺達は、やっと二階へとたどり着いた。
だが俺の眉間に皺を寄せた・・・。
なぜなら、扉が複数ある。
一階の個室を上回るだろう。
コレを一つずつ確認するのも大変だが、いつ襲われるかと思うと・・・。
考えるだけでも嫌になる。
「うへぇ・・・扉がいっぱいっすね・・・」
「また一つずつ開けないといけないなんて・・・今度は何が飛び出してくるのかしら・・・」
二人も俺と同じ意見だ・・・。
アンは既に泣きそうになっている・・・。
「ここに何時までも居ても仕方がない。先に進もう」
そう、俺達が数歩進んだら
ガラガラガラ・・・ガチャン!!
階段に檻が降りて来た。
「・・・・退路を断たれったっす」
「そうだな」
「もうやだぁ・・・」
確かに・・・作った愛し子様は性格悪くないか?
ここまでするか?
「と・・・取り敢えず、トイレから確認していこう」
そう言って、俺達は左側、一番最初の扉を指した。
手前は男子トイレ。一つ奥が女子トイレになっている。
用心しながらそっと扉を開くが、男子トイレはどちらかと言えば、見晴らしがいい。
「あっ!奥に花があるっす」
言われて奥を見ると確かにあった。
黒の花なため、目を凝らさないと分かりずらい・・・。
サッと、見渡すが何もない。
意を決して中に足を踏み込んだ。
べっちゃ・・・べちゃ!
個室手前に天井からスライムが落ちて来た・・・・。
ブルブル震えながら、スライムは俺達に襲い掛かるのではなく、花へと向かって行く!
「いかん!花を溶かされでしたらミッションが失敗してしまう!!」
俺は急ぎ花に手を伸ばす。
ジュ!っと嫌な音が腕にかかる。
スライムが酸を飛ばしたのだ。
そのまま、花を手に持つ俺に襲い掛かろうと、スライムが押し寄せて来た。
「先輩!早くこっちに!!」
急いでトイレを出て扉を閉めるが、スライムは軟体動物だ。
少しの隙間からも出てくる。
少しでも早くその場を離れようと、反対側の壁まで下がるが、扉からスライムが出て来ることは無かった。
「腕を見せて!酸をかけられたでしょ?!手当しないと!いくら雑魚のスライムと言え、あんな近くだと対処が難しいもの!」
そう言いながら、アンが腕を見たがそこに傷はなかった・・・。
確かに焼けるような痛みはあった。なぜだ?
「スライムに酸をかけられた様に見えたっすけど・・・気のせいっすか?」
「いや、確かに痛みはあった・・・」
「今は傷すらない・・・もしかして、これから痛みを感じる行為が発生する・・・とか?」
笑えない冗談だ・・・。
恨みでもあるのか?愛し子様・・・。