ある兵士の一日 2
愛し子様が言われたとおり、建物に入ると自分達以外の気配が無くなった。
その技術に関心しながら、建物内を進む。
入って直ぐに両脇にはいくつものソファが並び、最奥に受付が見えた。
受付前に立つと、上の掲示板に文字が浮かぶ、それと同時にアナウンスが流れた。
「よく来て下さいました。ここには、不治の病を抱えた息子が居ます。息子の好きな七色花を集め、彼にその花束をプレゼントしてください。花は建物内にあります。どうか探して持って来てあげて下さい・・・」
そう、涙を流しながら少年の母親が伝えてきた。
そしてそこで、映像は終わった。
再び受付に目を向けると、今度は『コレをお持ちください』と文字が空中に浮かび、下の用紙を指示していた。
なんとも手の込んだ作りだ。
感心していると、仲間内の一人が用紙を持ち帰って来た。
「どうやら建物の案内図みたいですね」
「でもこの案内図には、花のことが書いてはいないわね」
「それにしても・・・結構広い場所っすね。時間が掛かりそうっす。あっ!でも、途中で外に戻れる場所があるみたいっすね」
そう言いながら、用紙を見せて来た部下に釣られ、確認をする。
確かに人が走る様な恰好をした、場所が数ケ所見て取れた。
俺のチームは、男が三名。
先ず俺の部下である、ギド。それから魔導士のアル。
唯一の女性であるアンだ。
これならば、どんな敵が現れても倒すことが出来るだろう。
そんなことを考えて、案内図をじっくり見ていると、下の方に
『この建物内は神聖な場所でもあります。ここでは人を傷つける行為や魔法は行使出来ないので注意してください。』
と記述されていた。
そうか・・・訓練にはならないのか・・・残念だ。
取り敢えず、ここで立ち止まっていても仕方が無いので進むことにした。
建物は左右に広がる様な作りになっている。
先ずは何方に行こうか・・・
「建物は二階までありますが、階段は右側の一つだけのようですね・・・・先ずは、左側から行きませんか?」
そう言って来たのは魔導士のアルだ。
この提案には俺を含め、全員一致で決定した。
左の通路を進むと左側が窓に、右側はたくさんの扉が確認出来る。
見た所、窓の外には咲いていないので、部屋を一つずつ調べることに。
先ず一つ目。
扉を開けた先には机と椅子、ベットと言う簡素な作りになっている。
ざっと見た限りでは、花は見当たらない・・・。
二つ目。
こちらも一つ目同様に何もない。
三つ目。
こちらも外れのようだ。
「先輩、花なんてホントにあるんすか?」
「そう言った場所なのだから、ちゃんと用意してあるだろ」
なんとも拍子抜けしたまま、次の扉を開けた。
開けた先には・・・椅子に白い服を着た骸骨。
その前の椅子には、腐りかけて皮膚が所々落ちている者が座っている。
そして、同時にこちらを見た!
「な、なんだ?!アンデット?!」
「こんな場所で?!」
「早く火の魔法をお願いしやす!!」
「ダメよ!魔法は使えないわ!!」
こちらに向かってくる二体に、口々に騒ぎ急いで扉を閉める。
「おい、お前達・・・見えたか?机の上に花が飾ってなかったか?」
「・・・・そう言えば、あったような?」
「私の位置からは見えなかったわ・・・」
「いや、そんなことよりも!」
アルが慌てているのも無理がない。
今なお、あの二体が扉を開けようとしているのだ。
しかし
「ここに花がある・・・可能性が高い。ここは囮と分けよう」
そう、メンバーに提案した。
勿論
「囮には俺がなる!他のメンバーで、花を取ってこい!」
と言って、俺は扉を開けた。
後ろを追ってきているのを、確認しながら来た道を走る。
が
「きゃーーーーー!!!」
「くそ!奥にもいやがる!!」
と叫び声が聞こえた。
慌てて振り返ると、追って来ていた二体は姿が見えず、先ほどの部屋からはメンバーが出て来た所だった。
その手には、赤の花が握られていた。